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「こうしたくない」は「こうしたい」よりも強い/マザーハウス・山口絵理子

「こうしたくない」は「こうしたい」よりも強い/マザーハウス・山口絵理子

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時代を鋭く斬るコラムニストとして活躍する深澤真紀さん。「草食男子」の名づけ親としても知られる深澤さんが、今、注目しているキーワードが「免疫美人」なのだそう。

ひと時のブームに流されたり、他人との幸せ比べにとらわれたりすることなく、自分が持つ魅力も弱さも知って、自分を守る知恵を備えている女性。"自分の持ち物=ありもの"を最大限に活かして、機嫌良く生きる女性――。そんな「免疫美人」な生き方を教えてくれる女性たちに、深澤さんが会いに行き、話を聞く対談連載です。

インタビューの第1回目に深澤さんが会いに行ったのは、マザーハウス代表取締役の山口絵理子さん。

大学時代に「アジア最貧国の現状を知りたい」とバングラデシュを訪れ、天然素材ジュート(黄麻)との出合いをきっかけに、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」と一念発起。現地の素材を使ったバッグを現地のスタッフと一緒にデザイン、生産し、販売する会社「マザーハウス」を2006年に立ち上げました。2009年からはネパールでの生産も開始。現在では、東京・青山など15店舗、さらに台湾での5店舗を展開する人気ブランドに育て上げています。

「カワイイから買う」への徹底的なこだわり

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深澤(以下、敬称略):はじめまして。と言っても、実は私、「マザーハウス」を立ち上げた当初から山口さんに注目していて、ずっとお会いしたいなと思っていたんですよ。その証拠に、ほら。このポーチは5年くらい前に買って愛用しているんです。

山口:わぁ、私たちの製品ですね! うれしい~!

深澤 ガバッと口が開くから使いやすいんです。デザインも素敵だけど、使い勝手もきちんと計算されていて、デザイナーの意図が伝わる商品ですね。これを持っていると、何人もの人から「どこの? 欲しい!」って言われるんですよ。

山口:そう言っていただけるのが一番うれしいです。

深澤:途上国を支援する社会貢献を前面に出したビジネスは珍しいものではないけれど、山口さんがすばらしいのは「カワイイ」と「ビジネス」を見事に両立させているところですよね。「フェアトレードだから買う」という"高尚"な動機で客を寄せるのではなくて、あくまで「カワイイから買う」にこだわる。で、手にとってみて初めて途上国支援のストーリーに出合える、という仕組み。

山口:はい。本当に欲しいと思ってもらえる商品作りには、設立当初から徹底的にこだわってきました。

いつでも目指すのは"自分志向"

20140630_eriko_yamaguchi_3.jpg手にするのは、コンセプトシリーズ「Tsubomi(つぼみ)」のバッグ。徐々に色づく花のつぼみのような自然な風合いのグラデーションと、用途に応じて3通りに形状を変えられる使い勝手の良さが人気。

深澤:著書のタイトル『裸でも生きる』にドキッとしたんですけど、これは、何があっても裸一貫でやっていく、という覚悟みたいな意味なんですよね。

山口:はい。軌道に乗るまでは「なんでそんなことやっているの?」って言われることも多かったし、誰もやったことないことをやるのはハードルの連続でした。でも、他人と自分を比べてもしょうがないし、それどころじゃない人たちは目の前にたくさんいる。いつでも自分の心に向き合って、納得できる答えを出していく"自分志向"でありたいと思っています。何よりも、自分自身が納得できないと続けていけないので。

深澤:『自分志向』も山口さんの著書のタイトルですが、これもいい言葉ですね。私も常々、女性たちはふわふわした"自分探し"をやめて、もっと具体的な目標を持った方がいいと思っているので、とても共感できます。でも、山口さんの場合、そうは言っても、ここに至るまでは相当な苦労があったわけで。現地で必死にやっているのに、パスポートを盗まれたり、ある日突然、工場がもぬけの殻だったり......。散々な目に遭ってきましたよね。

山口:あれは結構、こたえましたね。

深澤:そういうとき、山口さんって本当によく泣く。著書を読んでいると、至る所に「泣いた」「号泣した」「泣きはらした」って書いてある(笑)。それに、よく倒れるし。

山口:しょっちゅう泣くし、倒れています(笑)。

深澤:私が思うに、「泣く」「倒れる」という行動こそ、山口絵理子の強さじゃないですか? 泣いたり、倒れたりすることで、ギリギリまで追い詰められた精神が解放されて、ある意味、ラクになって壁を突破できるというか。そうやって、自分をセーブする方法を身に付けている方なんじゃないかと思うんです。

山口:確かに......そういうところはあるかもしれないです。それに、倒れるまでやってみて初めて「やっぱり私、これが好きなんだ」って再発見できますし。

深澤:倒れるまでわからないってすごい(笑)。

山口:もともと喜怒哀楽がハッキリしているんです。現地の工場でバッグを作っていて、不良品を発見したときの怒りや悔しさはものすごく表すし、一方で新商品の数を揃えて出荷できたときの喜びも思いっきり表現する。日本人に珍しく、何考えているか分かりやすいってよく言われます(笑)。

"頼りないマダム"を喜ばせたい

20140630_eriko_yamaguchi_4.jpgバングラデシュの手刺繍ノクシカタなど、少数民族による手仕事の技術を活かした「ミレニアム・ヴィレッジ」シリーズ。深澤さんもこの日お買い上げ。

深澤:想像するに、バングラデシュで働く現地の皆さんは、山口さんのことが心配でしょうがないんじゃないですか。「マダム(現地で山口さんはこう呼ばれています)は本当に大丈夫か!?」と心配だから、何とかしてあげたくなる。きっと"頼りないマダム"を喜ばせたいから、マダムが日本に帰っている間に頑張って仕事をして、「こんなにすごいのができたよ、マダム!」って迎えたくなるんですよ。

山口:どうしてわかるんですか? 本当にそうです。私、いつもスタッフに「大丈夫だよ、マダム!」って励まされているし、あっちに戻ると皆がいつもドヤ顔で迎えてくれるんです(笑)。

深澤:山口さんは「世界を救うスーパーウーマン」みたいにメディアで持ちあげられることが多いけれど、実のところは、おっちょこちょいキャラで周りがほうっておけなくなるタイプなのかもしれない(笑)。でも、その不完全さが魅力になっていて、周囲の協力を最大限に引き出すから、これだけの結果を出していると思うんです。

山口:そのとおりです。すごい。8年やってきて、やっと腑に落ちました。

マイナスからの脱却を諦めない

深澤さんの的を射た分析の連続に、目を見開いて驚きながらも、「私とマザーハウスのことを本当に理解してくださっていてうれしい」と感動を口にする山口さん。話題は、「途上国支援」というテーマに対する姿勢そのものにも及びました。

深澤:山口さんって、きっと途上国から「もらう人」なんだと思います。途上国に「与える人」や、途上国から「奪う人」ってたくさんいるんですけれど、山口さんは現地の方からもらってもらってもらい尽くして、結果的に一緒に価値を生み出している人なのかなと。

山口:おっしゃるとおりです。私にとって、バングラデシュって学校みたいなもので、教えてもらうことばかりなんです。私、小・中学校はいじめと非行で学校にあまり行かず、高校は柔道に打ち込んで勉強は二の次だったんですけど、今は、バングラデシュでものすごく勉強しながら教えてもらっている感覚なんです。

深澤:なるほど。だから、一連の活動のベースにある動機も、他の人と違うと思うんです。途上国に対して「こうであってほしい」という理想じゃなくて、「こんな現実はイヤ」というマイナスを克服しようとする気持ちが強い。盗みや不正がある途上国の現実が耐えられないからこそ、絶対にやめない。

山口:確かにそうです。生産を委託していた提携工場がもぬけの殻だった時も1週間くらい泣き暮らしたんですけれど、その後には、「委託という体制だからこういうことが起きる。だったら二度とこんなことが起きないように直営工場を作ろう」という次の一歩が見えたんです。嫌なことを克服する方策が見えたら、進まずにはいられなくなります。

深澤:実は、後ろ向きに見える「こうしたくない」という動機は、前向きに見える「こうしたい」よりも強いんですよね。だからこそ結果を出せるのかもしれない。山口さんは現地の人と本当にいい関係を築いていることが、商品にもにじみでていますよね。これからも素敵な商品を作っていってください。私もこれからも買い続けます。今日もひとつ狙っている商品があるんです(笑)。

インタビューを終えて

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「勉強は落ちこぼれでした」という山口さんですが、高校で打ち込んでいた柔道では全国7位まで結果を出したほど。柔道は相手の力を利用して最大限の力を出そうとするスポーツですが、まさに今、山口さんが途上国でやっている活動の姿勢そのものの"柔道的"だと思います。

聞けば、この取材の後はパリへ出張予定とか。山口さんがバングラデシュで生み出した商品のデザインや商品に込めた意志は、世界のどこでも通用する普遍的なものだと思いますし(すでに台湾で成功しています)、きっと広く受け入れられていくことでしょう。ファッションの未来形として「山口スタイル」が世界に広がっていくのをこれから見られるのがとても楽しみです。

20140630_eriko_yamaguchi_prof.jpg山口絵理子(やまぐち・えりこ)

マザーハウス代表取締役。1981年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学在学中に、米州開発銀行のインターンシップに参加した後、バングラデシュに渡り、途上国の現状に直面する。バングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程修了後、2006年、マザーハウスを設立。バングラデシュを生産拠点に、バッグなど服飾品を製作、販売する。著書に『裸でも生きる』『自分思考』(共に講談社)など。

前回までの記事はこちら

(文/宮本恵理子、撮影/鈴木芳果)

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深澤真紀
コラムニスト。淑徳大学人文学部客員教授。企画会社タクト・プランニング代表取締役社長。1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。卒業後いくつかの会社で編集者をつとめ、1998年、企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役社長に就任。2006年に日経ビジネスオンラインで「草食男子」や「肉食女子」を命名、2009年流行語大賞トップテンを受賞。フジテレビ系「とくダネ!」など、テレビやラジオのコメンテーターも務める。著書に『女はオキテでできている 平成女図鑑』(春秋社)、『働くオンナの処世術 輝かない、がんばらない、話を聞かない』(日経BP)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。

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