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制限される仕事にこそチャレンジしたい/建築家・成瀬友梨

制限される仕事にこそチャレンジしたい/建築家・成瀬友梨

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時代を鋭く斬るコラムニストとして活躍する深澤真紀さん。「草食男子」の名づけ親としても知られる深澤さんが、今、注目しているキーワードが「免疫美人」なのだそう。

ひと時のブームに流されたり、他人との幸せ比べにとらわれたりすることなく、自分が持つ魅力も弱さも知って、自分を守る知恵を備えている女性。"自分の持ち物=ありもの"を最大限に活かして、しなやかに、強く生きる女性――。そんな「免疫美人」な生き方を教えてくれる女性たちに、深澤さんが会いに行き、話を聞く対談連載です。

前回までの対談記事はこちら

建築を見て回るのが大好きという深澤真紀さん。「造形美を追求する建築」だけではなく、「ライフスタイルを提案する建築」が増えているという現象について、かねてから注目していました。「シェア」というキーワードで活動する若手建築家、成瀬友梨さんが手がけた大規模シェアオフィス施設が千葉県柏市に登場したと聞き、さっそく訪ねました。

あえて「余白」をつくった

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メインとなる「KOILパーク」は170席のコワーキングスペース。すべての椅子や机が可動式で、コンセントも使いやすい配置になっている。「KOILファクトリー」には3Dプリンタほか、ものづくりを促進する多様なツールが揃う。併設のカフェはテラスでも食事ができる開放的な雰囲気。「天井を照らす間接照明に使われているのは、体育館などで使われる巨大なランプ! こういうセンスが大好き」と深澤さん。

深澤:はじめまして。天井が高くて開放的で、気持ちのいい空間ですね。

成瀬:ありがとうございます。ここは4月にオープンしたばかりの、「KOIL 柏の葉オープンイノベーションラボ」といいます。170席のコワーキングスペースや100名集められるイベントスタジオ、4名から36名まで対応できる会議室など備えた国内最大級のイノベーションセンターです。

深澤:この壁は、仕上げていない状態ですか?

成瀬:あえて、塗装の下地に使う、プラスターボードの継ぎ目をパテでならしただけで仕上げています。多分野の人が集まって刺激し合って新しいビジネスが生まれるエネルギッシュな創業の場であってほしいという思いから、「完成し過ぎていない余白」のある空間を演出しました。好評なんですよ。

深澤:おもしろいですね。入り口から入ってすぐ目に入る「ファクトリー」がまたユニーク!

成瀬:レーザーカッターや3Dプリンターを設置している空間ですね。「ものづくり」を身近に感じられて、人の交流が生まれる仕組みを促しています。これは、私たちが内装を手がけた渋谷の「FabCafe」でも行われている試みです。

徹底したリアル主義

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飲食だけでなく、「コミュニケーション」を目的に作られた「FabCafe」。中央にレーザーカッターを置いたことで、「カフェスペースでコーヒーを飲みながら、工房でのものづくりを眺める」といった"異の交わり"を演出する。photo by Fabcafe Tokyo, 西川公朗

深澤:私も「FabCafe」でコーヒーを飲みながら、誰かのものづくりをボーっと眺めているの、結構好きですよ。ここはオフィスですが、成瀬さんは早くから「シェア」を提案する空間を手掛けていますよね。「シェア」に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

成瀬:いろんな偶然と縁が重なってのことなんです。学生の頃は「造形美を追求する建築」への憧れがありましたし、そういう教育も受けてきました。でも、建築家の間では盛り上がるんですけど、いざ、異分野の友人たちに話してもいまいちピンと来ていない様子で。住む人、使う人のニーズをもっと拾う必要があるなと気づいてリサーチを続けていったとき、たまたまシェアハウスの関係者に話を聞く機会がありました。「他人同士が集まって暮らす」というのは核家族化から更に進み、単身世帯が増えている現代にも合っていると思いましたし、居住空間はプライバシーを保ちながら、エントランスやキッチン、トイレは共用として設計するシェアハウスは、実はコストの面でも効率がいいんです。事業収支という面でのメリットも含めて、シェアハウスの可能性を探ろうと、「集まって住む、を考え直す」という展覧会を開催したのが2010年秋のことでした。

深澤:とてもおもしろい試みだなと思っていました。建築の展覧会で、お金の話までするものってなかったはずですよ。成瀬さんの目線は徹底してリアルですよね。2008年に発表された「ひとへやの森」も衝撃的でした。「部屋にあふれるモノを無理やり収納するのではなく、自由に木のオブジェにかけて出しっ放しにしていい」なんて。成瀬さんは、だらしない人の味方になってくれる建築家だって、直感しました(笑)。

成瀬:私自身がそうなので(笑)。建築家ってともすると建てた時点で"完成品"と勘違いしてしまうのですが、建物はそこに住む人や使う人が時間をかけて"成長"するものだし、その変化を見るのが私はとても嬉しいんです。

深澤:自分のこだわりを強く貫くのではなく、人と交じり合ってものを作る喜びを大切にされているんですよね。これまで成瀬さんが編集に携わった本でも「え? こんな人とも!?」という相手と対談されているし。

成瀬:いろんな立場の方の意見を聞くほうが、突破口になると思っているんです。これから建築家を目指す学生たちにも広い視野を持ってほしいと思って、建築業界以外の人たちとの意見交換を積極的に発信しています。私自身もとても勉強になりますし。

ハードな場面も逃げない

20140915_yuri_naruse_3.jpg2011年12月に期間限定の仮設施設として竣工した「りくカフェ」(陸前高田市)。35平米というコンパクトなスペースながら、イベントにも対応できる設計で、これまでフラダンス発表会やライブ、移動スーパーなどが開催された。現在建て替えが進んでおり、10月5日(日)にリニューアルオープン予定。photo by 成瀬・猪熊建築設計事務所

深澤:成瀬さんの作品に「ゆとり」や「ユーモア」があるのは、人との交流を大事にしているからなのでしょうね。震災の後に陸前高田市で始めた「りくカフェ」のプロジェクトのご様子を見ても、現地の方々がとっても楽しそうですよね。

成瀬:はい。「りくカフェ」は地域の人たちの交流の場として作った小さな施設ですが、本当に自由に使っていただいて、建築家冥利に尽きます。

深澤:おばちゃんたち、ドアノブにフリフリのカバーつけちゃう勢いでしょう。

成瀬:そうですね(笑)。でも、息子さんを亡くされて気を落としていらっしゃった方が、だんだんと笑顔を取り戻していかれて「ここに来ると元気になるのよ」って言われると嬉しいです。資金集めから始めたプロジェクトでしたが、私たちの場合、初期段階では大学から交通費のサポートがあったのはラッキーでしたし、いくつかの企業の協力を得て実現しました。

深澤:そうやって、人の力を結集する「ハブ」になって楽しめる方なんですね、成瀬友梨という建築家は。とはいえ、建築は「オトコの業界」。苦労された時期もあったんじゃないですか?

成瀬:建築現場に「スカート履いてこい!」なんて言われたという話しも聞いたことがありますし、私も最初はお嬢ちゃん扱いもされましたけれど、もうそれほど若くないですし(笑)。最近は女性も増えてきて、だいぶん雰囲気は変わってきましたよ。

深澤:男性からすると「いざというときのシビアな交渉が女性は苦手」と思われることもあるようですが、成瀬さんの場合はいかがですか?

成瀬:何か起きたときに早めに対処できるように、できるだけ現場に行くようにしています。気づくのが早ければリカバリーはできるので。つい最近も、ある大型施設の案件で「配管の高さが30cm違う!」なんて事態に直面して、真っ青になったばかりです。伝えるべきことはきちんと伝え、相手に誠意があればこちらも一生懸命フォローします。

深澤:ハードな場面も逃げないということですね。パートナーの猪熊純さんとはどんな連携を?

成瀬:猪熊は几帳面で慎重なタイプですが、私は結構直感を大事にして思いきるタイプ。いい意味で補完し合っている関係だとお互いに分かっているので、ものごとを決めるときにはよく相談します。

深澤:てっきりプライベートでもパートナーかと思ったら違うそうですね。

成瀬:はい(笑)。よく聞かれるんですが、大学の同級生です。なぜ猪熊と組んだかというと、学生時代に一緒に組んで参加したコンペで勝率がよかったからです。

深澤:なるほど。「こいつとなら稼げる」と(笑)。たしかに、仕事をするなら大事なことですね! 納得しました。

「制限」がある方が燃える

20140915_yuri_naruse_5.jpg「新しいワンルーム」というテーマのコンペ(審査員は伊東豊雄氏・隈研吾氏)で大賞を受賞した作品「ひとへやの森」。約35平米の部屋の中に8本の木のオブジェを配置。木の配置によって、開けた場所、木に囲まれて落ちつける場所など、様々な表情のある空間を生み出した。photo by 西川公朗

深澤:ところで、シェアハウスをつくっている成瀬さんご自身はどんなお住まいに暮らしているんですか?

成瀬:私自身は住む家にそれほどこだわりがなくて、「ぴかぴかの新築マンションよりも、古い建物のほうが落ち着くな」くらいの感覚なんです。いまは築50年の一軒家を借りて住んでいます。仕事上でたくさんの人と交流しているので、家ではひとりの時間を大切にしたいというタイプです。

深澤:私もそうです。だから、シェアハウスはおもしろいとは思うけれど、住むのは躊躇するというのが正直なところなんですよね。

成瀬:私自身もその感覚がとてもよくわかるので、設計するときは壁や階段の配置を工夫して、「がんばって他人と話さなくても心地よく過ごせる空間」を目指しています。

深澤:なるほど。ユーザーとしてのご自身の感覚を大切にされているんですね。これからはどんな活動を目指していくんですか?

成瀬:福祉施設や商業施設など、いろいろな空間で「シェア」の可能性を広げていきたいと思っています。条件が制限される仕事にこそチャレンジしていきたいですね。その方が、かえって工夫が生まれて、新しい発想に出合えるはずですから。

深澤:日本はもともと土地が狭くて、天災もあるし、建築家にとって「制限だらけ」の環境ですよね。でも、だからこそ豊かな発想と技術が磨かれてきた。ご活躍、期待しています。ありがとうございました。

インタビューを終えて

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私が経験したバブルの時代は、日本の建築が進化した時代でもありました。それは「造形美を追求する作品」としての建築であり、それはそれで私は好きなのですが、成瀬さんの「リアルな生活に寄り添う建築」を徹底する姿勢にもとても共感できました。

建築家ではなく、使う人を主役にする、そして仕事を進める上でもたくさんの人の意見を吸収しようとする成瀬さんは、「相手を信じる」という強さを持っている方だと思います。相手を信じられるから、どんな変化も受け入れて楽しむことができる。「こうでなければ」「こうしてほしい」というこだわりが強すぎると、それが叶わないときにポキッと折れてしまうことがありますが、成瀬さんのようなやわらかさは「折れない強さ」につながるのです。

陸前高田市の「りくカフェ」を実現するときも、きっとたくさんのハードルがあったと思うのですが、成瀬さんは制限された条件をも前向きにとらえて乗り越えてきたのでしょう。被災地支援に携わる方には何人もお会いしてきましたが、無理なく続いているケースの共通点は「本人が楽しんでいること」。成瀬さんも自然体で楽しんでいらっしゃる様子がよく伝わってきました。

20140915_yuri_naruse_profile.jpg成瀬友梨(なるせ・ゆり)

建築家。1979年愛知県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。2007年、猪熊純氏と共同で成瀬・猪熊建築設計事務所を設立。10年より、東京大学大学院助教として学生の指導も行う。主に「シェア」をテーマとしたすまいやオフィス空間を手掛ける。最新著は『シェアをデザインする』(共著)。10月5日(日)に陸前高田で地元住民と運営するコミュニティカフェ「りくカフェ」がリニューアルオープンする。現在クラウドファンディングに挑戦中。

前回までの対談記事はこちら

photo by 篠塚ようこ(宮本恵理子

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深澤真紀
コラムニスト。淑徳大学人文学部客員教授。企画会社タクト・プランニング代表取締役社長。1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。卒業後いくつかの会社で編集者をつとめ、1998年、企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役社長に就任。2006年に日経ビジネスオンラインで「草食男子」や「肉食女子」を命名、2009年流行語大賞トップテンを受賞。フジテレビ系「とくダネ!」など、テレビやラジオのコメンテーターも務める。著書に『女はオキテでできている 平成女図鑑』(春秋社)、『働くオンナの処世術 輝かない、がんばらない、話を聞かない』(日経BP)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。

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