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「引き受けるしかない」の覚悟で挑んだ会社の再建/水間鉄道・関西佳子

「引き受けるしかない」の覚悟で挑んだ会社の再建/水間鉄道・関西佳子

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時代を鋭く斬るコラムニストとして活躍する深澤真紀さん。「草食男子」の名づけ親としても知られる深澤さんが、今、注目しているキーワードが「免疫美人」なのだそう。

ひと時のブームに流されたり、他人との幸せ比べにとらわれたりすることなく、自分が持つ魅力も弱さも知って、自分を守る知恵を備えている女性。"自分の持ち物=ありもの"を最大限に活かして、しなやかに、強く生きる女性――。そんな「免疫美人」な生き方を教えてくれる女性たちに、深澤さんが会いに行き、話を聞く対談連載です。

前回までの対談記事はこちら

旅の行程に、その土地で愛される地方鉄道に乗る楽しみは欠かせないという深澤さん。今回やってきたのは、大阪府貝塚市内を走る水間鉄道です。関西空港から南海線の急行電車で15分ほどの貝塚駅に到着すると、のどかな雰囲気の駅舎が迎えてくれます。

聖武天皇にもゆかりがある、歴史ある水間観音への参詣鉄道として90年前(大正13年)に誕生した水間鉄道は、わずか5.5km10駅を結ぶ単線ローカル鉄道。「すいてつ」の愛称で、現在は通勤・通学の足として市民に親しまれています。

しかし、少子化による利用客はピーク時の半数にまで減少し、バブル期の不動産事業などによる負債の圧迫も重なり、2005年に会社更生法適用を申請。同社の再建に参加し、斬新な改革で黒字化を達成した立役者が取締役会長の関西(せきにし)佳子さんです。2008年に民間鉄道初の女性社長に就任して話題になった頃から、深澤さんが注目してきた女性でもあります。

地方鉄道の立て直しに成功

深澤:地方鉄道ファンのひとりとして、お会いできてうれしいです。先ほど、「すいてつ」に乗って水間観音まで行ってきましたが、短い距離でありながら、海から山へと風景が変わる表情豊かな素敵な沿線ですね。

関西:ありがとうございます。はるばるお越しいただいて、うれしいです。

深澤:駅や電車の中にも、関西さんがやってきた"改革"をたくさん拝見できました。ホームから線路を眺めてまず目に入るのが、枕木に並ぶ白いプレートです。「がんばろうすいてつ!」とか「乗り続けて○年間」といった"すいてつ愛"あふれるメッセージが刻まれていました。

関西:1件5000円で枕木にメッセージを残していただける「枕木オーナー」制度は、おかげさまで好評です。地域や全国の鉄道ファンの皆さんから気軽に出資いただく仕組みとして考えました。

深澤:電車に乗って見つけたのは「日曜えきなかマルシェ」の告知です。これは水間観音駅にある留め置き電車の中で、パンやアクセサリーなどを販売するイベントだそうですね。

関西:水間観音のあたりは買い物に不便な地域ですので、駅を使って何かできないかなと思って始めたものです。月2回、日曜日に開催しています。

新卒の会社でやったことが再建のカギに

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写真左上:水間観音から徒歩5分ほどに位置する水間観音駅。水間寺の三重塔をイメージした駅舎。写真右上:今年5月にオープンした「まち愛Café みずがめ庵 和」。レンタサイクルなど地域観光の拠点にもなっている。写真左下:現在使われている車両は東京の東急電鉄から譲り受けた7000系。つり革には「渋谷109」の広告を残し、鉄道ファンを喜ばせている。写真右下:再建のカギになったICカードの導入。

深澤:水間観音駅には素敵なカフェも新たに作られたのですね。木を活かした立派な造りでした。

関西:ハウスメーカーのご協力があって、地元の木材を使って素晴らしい建物を作っていただきました。私たちの資金ではとても出せない金額で......。

深澤:だからこそ、周囲を上手に巻き込んでいらっしゃる。そして、一見当たり前のように思えますが、駅の構内に入る時に「ピッ」とタッチするICカードのシステム。この導入が、再建のカギになったそうですね。

関西:そうなんです。ICカードの導入は会社更生法適用の条件でした。関西はもともと鉄道会社が多い私鉄王国で、乗り入れも複雑です。ICカードは、利用者の使い勝手を高めるためには必須だと私も思いました。

深澤:たしかに、もともと自動改札の導入が早かったのも関西圏でしたね。すいてつ再建に不可欠なICカード導入のために、システムエンジニア(SE)として呼ばれたのが関西さんだったんですね。

関西:ええ、当時、当社の再建事業に携わっていた父から声がかかりまして。もともと、祖父も父も鉄道マンでしたので鉄道には愛着はありましたけれど、短大を卒業してからは証券会社に入社しましたし、まさか私も鉄道に関わることになるとは思いませんでした。

深澤:証券会社ではどんなお仕事を?

関西:北浜にある大阪本店で当時は「引受部」という名称だった部署で市場業務を担当していました。企業の上場をお手伝いしたり、社債を発行したり。日本経済もめまぐるしく動いている時代で、仕事はおもしろかったですね。この頃に触り始めたパソコンが、後にSEとして仕事を得るきっかけになりました。パソコンの出始めで先輩も使ったことがないので自分で必死に勉強するしかなかったんです。3年弱で結婚退職しましたが、ここでの経験は大きかったですね。

深澤:そして11年間の主婦生活を"卒業"されて......。

関西:卒業と言っていただいてありがとうございます(笑)。当時は英文タイプができるだけで重宝されましたので主婦時代から派遣の仕事は少しやっていたのですが、いよいよ「ひとりで食べていかなあかん」となった時に、たまたまピンチヒッターでパソコンスクールの講師の仕事が入ったんです。ウィンドウズ95が発売された頃でしたから活況でした。

5000万円の赤字部門を黒字に好転させた

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深澤:私も大学で教えているのでわかるのですが、「教える」という体験は何よりの習得になりますよね。

関西:おっしゃるとおりで、とても勉強になりました。そのうち大手メーカーからプログラミングの仕事などを請け負うようにもなりましたが、私はどちらかというと、人と交渉する営業的感覚の強いSEのほうが向いているという実感がありました。東京を拠点にして仕事は順調だったのですが、2001年の同時多発テロを機にアメリカ系企業と決まっていた契約がキャンセルになり、大阪に戻ってきたんです。

深澤:そして水間鉄道に入って、ICカード導入に着手されたというわけですね。すいてつは10駅中8駅が無人駅ということで、駅にではなく、路線バスのように車内にICカードの機械を入れたアイデアは、なるほどと思いました。

関西:どうしたものかと悩みましたが、すでに車載器の乗降システムを導入していた叡山鉄道(京都府京都市)さんの担当者にお時間をいただいて、助言をいただきました。「ことでん」(高松琴平電気鉄道)さんの協力メーカーが東芝さんであることを新聞記事で知って、ホームページに公開してある「お客様相談室」からメールを出したこともあります(笑)。「わたくし、水間鉄道のこういう者ですが、こういった事情でして、ぜひ教えていただけないでしょうか」と。相手もびっくりされたと思います。担当者からご連絡をいただいて、いろいろと教えていただきました。

深澤:その行動力が素晴らしいですね。それから、私が感動しているのは、すいてつのバス部門の充実ぶりです。路線図を見れば一目瞭然。住宅街を隅々まで網羅して、本当にきめ細かく「市民の足」として機能していますよね。かつ、通勤・通学の朝夕の時間帯は駅まで直行で結び、日中は各バス停を回るコミュニティバスに切り替えるというシステムで、効率よく運行しています。関西さんは民間鉄道会社初の女性社長としての鉄道部門の改革で注目されてきましたが、実はバス部門での手腕もすばらしいと私は思っているんです。

関西:気づいていただけて本当にうれしいです......! そうなんです。10年前まで年間5000万円もの赤字を出していたバス部門の立て直しは、特に力を入れたところでした。ポイントは自社バスの9割をコミュニティバス化できたことです。市と連携して準備にかけた期間は5年間。コミュニティバスは環状路線が多いのですが、1台でできるだけ広い地域を回れるように鉄道の駅を中心軸に8の字状の路線を組みました。おかげさまで赤字は解消し、ここ3年は黒字が続いています。

"Win-Win"の関係で巻き込んでいく

20140930_yoshiko_sekinishi_4.jpg写真左上:厄除け、交通安全、縁結びのお寺として地域に愛される水間寺。清流に囲まれ、近隣でとれる水ナスも名物。写真右上:月2回開催する「日曜えきなかマルシェ」。雑貨販売のほか、ワンコイン乳がん検診も行っている。写真左下:24年前まで活躍していた引退車両クハ553。赤とクリーム色を基調にしたデザインが街の風景に溶け込む。写真右下:1件5000円の出資で枕木に好きな文字を刻める「枕木オーナー」には、全国から応募があるそう。

深澤:お話を伺っていると、関西さんは外の人を巻き込んで、大きなチャレンジを成功させる名手ですね。「丸め込む」と言っていいくらい(笑)。

関西:お手柔らかに、「巻き込む」くらいにしていただければ......(笑)。

深澤:関西さんの場合、相手にとっても機嫌よくなれる関係性を実現しながら、巧みに巻き込んでいらっしゃいます。だからこそ、結果を出せたし、先代の経営陣からも信頼を得たのだと私は思います。病床に伏された親会社の会長から「あとは頼む」と言われて社長職を引き受けられたそうですが、その時はどんなお気持ちだったんですか?

関西:引き受けるしかない、という覚悟しかないですね。大変にお世話になった方でしたし、女性が活躍することにも先進的な考えを持っていらっしゃいました。"外部"から来た私に可能性を感じてくださっていたのかもしれません。それに歴史ある地方鉄道を「残さないといけない」という使命感がありました。先ほどバスの話をしましたけれど、私、やはり、鉄道事業を築いた先人の功績は超えられないと思っています。生活風景の中にレールがあることのありがたみを、しみじみと感じているんです。

深澤:よく「レールの敷かれた人生なんてつまらない」などと否定的に表現することもありますが、とんでもない。レールがあるからこそ安心して暮らせるんですよね。さて、水間鉄道の再建はひと段落して、6月から関西さんは会長職に就かれていますが、今後はどのような展望をお持ちですか?

関西:経営は現社長に任せていますが、これからも地域の魅力を高めるために水間鉄道ができることを探していきたいです。

深澤:関空にも近いですから、外国人観光客に対しても新たな大阪観光の形として提案できそうですね。今日はありがとうございました。

インタビューを終えて

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関西さんが入社した時、水間鉄道は「ないないだらけ」だったはずです。でも、ないならないで、「ありもの」を上手に使って魅力を高める。その工夫自体を楽しめるのが関西さんです。貝塚駅のホームに残された昭和レトロな看板を見て、私たちが「いい味出していますね」というと、「そう、これはいいですよね! ほら、部長、この看板はやっぱりいいんですってば!」と、水間鉄道の総務部長に満面の笑みを向けていたのが印象的でした。

会長職に就かれても"引退"の雰囲気を感じさせない関西さん。わずか5.5kmの水間鉄道にある可能性をまだまだ引き出そうとしていて、いい意味で"道半ば"の感覚を持ち続けています。私たちはいつも「やり遂げなければ意味がない」と焦りがちですが、「いつまでもやりかけたまま」で「やり続けていく」のも仕事の醍醐味なのかもしれません。

20140930_yoshiko_sekinishi_profile.jpg関西佳子(せきにし・よしこ)

水間鉄道取締役会長。1963年大阪府生まれ。帝塚山学院短期大学卒業後、野村證券に入社。結婚を機に22歳で退職し、11年間専業主婦生活を送る。離婚を機に、派遣社員としてシステムエンジニアの経験を積み、パソコンスクール講師も務める。2005年に水間鉄道に入社し、情報システム管理室長に就任。2008年に代表取締役社長。2014年6月より現職。

前回までの対談記事はこちら

photo by 鈴木芳果(宮本恵理子)

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深澤真紀
コラムニスト。淑徳大学人文学部客員教授。企画会社タクト・プランニング代表取締役社長。1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。卒業後いくつかの会社で編集者をつとめ、1998年、企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役社長に就任。2006年に日経ビジネスオンラインで「草食男子」や「肉食女子」を命名、2009年流行語大賞トップテンを受賞。フジテレビ系「とくダネ!」など、テレビやラジオのコメンテーターも務める。著書に『女はオキテでできている 平成女図鑑』(春秋社)、『働くオンナの処世術 輝かない、がんばらない、話を聞かない』(日経BP)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。

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