固く閉じた唇には、深紅の口紅。エレガントなジャケットを羽織り、白い戦車で首相宅に乗り込む老齢の女性ーー。彼女の名は、ヴィヴィアン・ウエストウッド。言わずと知れたイギリスを代表するファッション・デザイナーですが、環境問題のアクティビストとしても有名な彼女は、先月、シェールガス採掘への抗議活動としてキャメロン首相宅に押しかけ、話題をさらいました。
御年74歳、英国王室からデイムの称号を受けた「パンクの女王」の反骨心は健在。独自の道を行く、ヴィヴィアンの波乱万丈の生き方を振り返ってみましょう。
運命を変えたマルコム・マクラーレンとの出会い
ヴィヴィアンのファッション界へのデビューは、ひとりの男性との運命的な出会いから始まりました。それが、伝説のパンクバンド「セックス・ピストルズ」のマネージャーだったマルコム・マクラーレン。30歳のときに、マルコムとロンドンにブティックをオープンした彼女は、パンク・ミュージックとSMの要素を融合させた前衛的なファッションを作りはじめ、70年代のパンク・ムーブメントの立役者となります。
彼との出会いについてヴィヴィアンは、
人生のいろいろなことに対するドアを開けてくれた人よ。当時、私が知るべきすべてのことを彼は知っているように見えたの。
「bio.com」より翻訳引用
と話し、政治的信条や音楽、ファッション、生き方に至るまで、マルコムが彼女に与えた影響がどれだけ大きかったかがわかります。
労働者階級の家庭から教師、そしてデザイナーへ
後にデザイナーとして名を馳せることになるヴィヴィアンですが、アートやファッションの世界からは程遠い環境で育ちました。労働者階級の家庭に生まれた彼女は、
工業地帯で育ったの。美術書なんて1冊も見たことがなかったし、劇場に行ったこともなかった。
「bio.com」より翻訳引用
と語っています。
ファッションの勉強に挫折した彼女の20代は、結婚・出産を経て小学校の教師として働く道を選びました。それは今のヴィヴィアンからは想像もつかないもの。その後、マルコムと付き合いはじめて最初の夫と離婚したのち、30代でファッション・デザイナーとしての道を突き進みます。
イギリスの伝統的モチーフや17、18世紀のデザインを取り入れ、先鋭的なデザインからエレガンスに向かった彼女の活躍ぶりは、周知の通りです。
洋服はたくさん買わないで
そんな彼女はファッションについて、意外なアドバイスをしています。
彼女は半年に1度しか新しい洋服を買うべきではないと言っています。「私のメッセージはこうよ。慎重に選んで、たくさんは買わないこと。」
「The Guardian」より翻訳引用
作り手からすれば、なるべくたくさん買ってもらいたいのが当然。ところが、次々に洋服を買っては消費するのは、環境に悪影響であるというのが彼女の主張です。パンクの魂を忘れない彼女らしい発言ですが、こんなことを言うデザイナーは他にはいません。
服従しないために戦う「パンクの女王」
「デイム」の称号と名声を持ち、約222億円もの資産家となった現在のヴィヴィアン。休むことなくコレクションを発表しながらも、政治や環境問題に深く関わり、社会にアンチテーゼを唱える反骨精神はますます盛んなようです。
私は、何事にも服従しないために、戦っている気がするわ。
「The Guardian」より翻訳引用
元教え子で25歳年下の現在の夫と、30年以上も庶民的なサウス・ロンドンの小さなアパートに住み続けているという彼女は、ひとりの女性として、そしてデザイナーとして、これからも唯一無二の存在であり続けるのでしょう。
photo by Getty images

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