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怒りや喪失感。被災をして見えたもの【熊本大地震ルポ #15】

怒りや喪失感。被災をして見えたもの【熊本大地震ルポ #15】

私が体験した「熊本地震」を書きつづってみたが、このルポはあくまで私個人の観点で書いたもので、被災したすべての人の心情とは異なるものもあると思う。できるだけ、自分の目で見たことと体験した事実のみを書いたつもりだ。決して無駄に恐怖をあおったり、また個人的な感情論や精神論をかかげないように留意した。

被害の大小、家族構成や取り巻く環境で、地震に対する向き合い方、感じ方は人ぞれぞれで異なるし、気持ちの温度差ももちろん起る。前向きな人もいれば、そうでない人もいる。

でも、前向きな人でも夜は地震の悪夢にうなされ、自宅崩壊は免れたが恐怖で家に戻れない人もいる。なにが正解でどれが不正解なのかはわからない。正解なんてないように思う。「みんな、被災している」このことだけが事実なのだ。

私は、転居先のマンションも被害を受けたため、いったん引っ越しが棚上げになり、震災後一ヶ月経ったいまも相変わらず実家で避難生活暮らしだ。

コム(猫)は、実家の押し入れから4日間出てこなかったが、次第に慣れて、いまではおなかを出して寝転がっている。震度3までは平気になったようだ。

地震後から噴出したストレス性アレルギーのために、まぶたは相変わらず腫れて、朝はとくに土偶顔になっている。女友だちの幾人かは、ストレスで肌荒れを起こした。便秘に苦しんだ。生理が止まったという人もいた。私はなぜかいつも食べないジャンクフードを食べまくったりした。

おおむね元気なのだが、ふと無気力状態に陥ることもある。

震災5日目から、毎日、地震関連の悪夢を見るようになった。だいたいはがれきの中を逃げ惑うか、がれきの中で深刻な話をしているという内容。

一度は、誰かの赤ちゃんを預かって逃げまわる夢を見た。「もう4日もミルクを飲んでないんです」と誰かにすがりつくのだけど、「水もミルクもない」と無下に言われ、その人の髪を掴んで取っ組み合いのケンカをした......という夢で、起きたときは体中に怒りが充満していた。

これまで恐怖や悲しみなどは言葉や態度で表していたけれど、自分のなかに「怒り」がたまっていたことに気づいた。地震に対する怒りである。どこにもぶつけようのない怒りが夢に出てきたのだと思った。

熊本が元気な姿を取り戻すのを見守っていく

私自身は、失ったものはほとんどないのだけど、なんともいえない喪失感がある。熊本の風景が変わってしまったという、茫漠とした喪失感なのかな、と思う。

おそらく長い年月をかけて、熊本のまちも、熊本城も、阿蘇もきっと元気な姿を取り戻すだろう。それは確かだと思う。そしてその姿を私はきっと見届けることができる。

しかし、母はどうだろう。そのときまで元気でいてくれるだろうか。なぜ毎年母と行っていた熊本城での花見を、今年に限ってしなかったのだろう。そんなことをくよくよと考えては落ち込んでしまう。

それでも、ずいぶんと気持ちが落ち着いてきている。いまだに毎日のように「震度6弱の地震が襲ってくる可能性は高い」と報道されている。次なる激震に怯えているのは相変わらずだけど、現実に起ったことを受け止めて、粛々と生活を立て直している。

ルポの締め文に、うまいことを書ければよいのだけど、実を言うとなにも浮かばないというのが本音だ。

震災を経験したことで、大事なものがわかったような気もするが、実はわかっていないような気もするからだ。現に、あんなに「親孝行をするぞ」と誓ったのに、一ヶ月経ったいま、母に甘えて暮らしている。芸能人の名前を知ったかぶりで話して間違う母に、軽くイラッとしたりする。心の狭さは地震以前となんら変わっていない。

いまも「とりあえずのもの」だけで暮らしている。避難用リュックとボストンバックに入れた最低限の着替えだけでなんとか一ヶ月暮らしていけているので、「もしかして、これだけで今後も生活できるのでは?」と思うほどだ。それでも気持ちに余裕が出てくると、シンプル過ぎる生活はなんだか味気ない。

でもこれだけはみなさんに伝えたい。

携帯電話の充電だけは常にフルにしておこう。

眼鏡やコンタクトレンズの人は、万が一のときのために、予備の眼鏡か使い捨てコンタクトレンズを必ず避難バックに入れていこう。

ベッド下には靴を置いておくとさらによし。

まずは情報を知り、安否の確認がとれる状態にして、足もとをしっかり確認したながら避難するために、この3つは最低限の防災の心得だと思う。

撮影/福島はるみ(新町のお地蔵さん。倒れていたのを、住民の手で、前に置きなおされて拝まれております)

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福島はるみ
視界に入るすべての人を勝手に観察し、その人の心を分析&妄想。遊びや飲み会の場でも勝手に「男心・女心」を取材。恋愛界Jury(ジュリー・審査員)を目指しています。

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