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生きにくい時代。それでも現実から目は背けない【ヴァンサン・ランドン氏インタビュー】

生きにくい時代。それでも現実から目は背けない【ヴァンサン・ランドン氏インタビュー】

シリアスな社会派の映画にも関わらず、フランスで100万人の観客動員を記録し、2015年に異例の大ヒットとなったある話題作がいよいよ日本でも公開される。

その作品とは、現代の闇を描き出した映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』

長年勤めていた会社から集団解雇されたある男が、ようやく就いた職場で社会の掟と人間の尊厳に直面し、その狭間で揺れ動く姿が大きな反響を巻き起こした。

なかでも、多くの賛辞を集めたのは、主演を務めたフランスの名優ヴァンサン・ランドン。カンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を獲得するなど、圧巻の演技で観客を魅了した彼に映画の本質や仕事に対する思いを語ってもらった。

悲劇は目の届かないところにこそ潜んでいる

「映画というものは、人々の意識を呼び覚ますもっとも素晴らしい手段だと思っています。なぜなら、いま世界で起こっていることを証言して、少しでも世の中をよくすることができるから。私はアーティストとしても、こういう映画を通して政治活動をしているんですギャラのほとんどを制作に注ぎこんでこの作品の映画化を実現させたというヴァンサン氏の思い入れは強いが、ステファヌ・ブリゼ監督も同じく、普段光の当たらない人を描くことで、ひとりの男の人間性や社会の暴力を映し出したかったという。

そんな2人にとって、「興行成績を気にせずに映画を作ることができる自由が大切だった」というが、そんな思いとは裏腹にこの作品は大ヒットし、多くの共感を呼んだ。

それは、観客にこびることなく、ただいい映画を作りたいという彼らの熱い思いが人々を惹きつけたからであり、必然のようにも感じられる。

そして、私たち日本人にとっても他人事ではなくなりつつあるのが、本作でも描かれている雇用問題について。ヴァンサン氏によると、現在のフランスでは労働人口の7%にあたる450万人が失業しているという。「この映画は、限りなく現実に近いものを見せています。失業や雇用という問題は、フランスだけでなく、どの国においても普遍的なもの。それがいまの地球上で起こっている流れでもありますが、本来はすべての人が仕事に就いて報酬をもらう権利があるはずです。でも、それがなくなってしまうことが、人々にとって大きな苦悩であり、現代が抱えている問題でもあると思っています」

映画によって希望を与えたい

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ブルジョワの出身であるヴァンサン氏にとっては、社会的にも経済的にも苦境に追い込まれる主人公の心境には実感がないのではないかと思わず勘ぐってしまうが、「自分がその立場ではないから、その問題に興味を持たないというのは違う」と訴える姿に強い思いを感じずにはいられない。「エンタテイメント的な作品に出演して、もっと大きな報酬を得ることもできますが、私は"自分の大義"のためにお金を使って、この映画を作ろうと思ったのです」そんな映画に対する熱い気持ちがあふれているヴァンサン氏が、仕事に向き合うときに大切にしていることとは?「人生のなかで、自分に言い聞かせている格言はいくつかありますが、そのひとつがウィンストン・チャーチルの言葉。『戦争か不名誉か、どちらかを選べといわれ、不名誉を選んだが、最終的には戦争になってしまった。要するに何かを選ばなくてはいけない状況を迫られたときに、簡単な方を選べば、最終的にはそれを選んだがゆえの災禍は自分に振りかかってくる』というものです」揺るぎない意志を持ってこの作品に臨んだというのは、スクリーンを通してでも伝わってくるが、それはティエリーが最後に見せる衝撃の結末にも繋がっている。「もし、この世の中からティエリーのような人がいなくなってしまったら、世界は終わりです。でも、彼みたいな人が増えていけば、世の中の不条理と闘うことができるようにもなる。親が子供にこうした価値観を教えることで、世界が悪い方向に向かっていくスピードを少しでも遅らせることができますが、初めから諦めてしまえば、そこでおしまいなんですよ」

世界は困難に満ちている。でも人生が好きだ

いまのフランスは、雇用問題だけでなく、テロや移民対策などで厳しい状況に立たされているが、これらの事件によって、「人生や文化がひっくり返った」という。「リスクや公害、暴力がどんどん増えています。しかし、私は批判的でありたくない。人生が好きだし、若者たちにも希望のある社会を生きて欲しいと願っています。ただ、現実は生きにくい難しい時代だといえるかもしれません。

だからこそ、まわりを見て助け合い、困っている人には手を差し伸べる。とても平凡に聞こえるかもしれないですが、それ以外のことはできないと思います」ひとつひとつの質問に対し、真摯に答えてくれる姿から誠実さがひしひしと伝わってくるヴァンサン氏。

その一方で、日本人女性に対する印象を尋ねると「ヨーロッパの女性に比べると、いつもにこやかで明るいので、一緒にいて気分がいいですね」と優しい笑みをふと浮かべる。そのギャップに心を奪われない女性はいないだろうと納得してしまった。

今回、ヴァンサン氏以外は、実際に働いている一般の人たちが出演していることもあり、ドキュメンタリー作品を観ているかのような錯覚に陥りそうになるほどリアルな本作。

思わず目を背けてしまいたくなるような辛い現実ではあるけれど、自分のまわりに起きていることだけに興味を持つのではなく、実際に社会で起きていることに幅広く目を向け、どう受け止めるのかが問われているのかもしれません。

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ティエリー・トグルドーの憂鬱

2016年8月27日(土) ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー

監督:ステファヌ・ブリゼ

主演:ヴァンサン・ランドン

配給:熱帯美術館

http://measure-of-man.jp/

©2015 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA.

撮影/土佐麻理子

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志村昌美
映画宣伝マンとして洋画や邦画の宣伝に携わったのち、ライターに転向。イタリアとイギリスへの留学経験を経て、日・英・伊・仏のマルチリンガルを目指しながら、現在は海外ニュースや映画紹介、インタビューなどを中心に女性サイトや映画サイトで執筆中。女性目線からみたオススメの映画を毎月ご紹介していきたいと思います! 日々の試写の感想などをつぶやき中:https://twitter.com/masamino_19

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