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大人の女は「器が広い」なんて幻想よ、たぶん、きっと【スナック艶】

大人の女は「器が広い」なんて幻想よ、たぶん、きっと【スナック艶】

この一週間、前回の記事を読んでくれた女友だち数人から「パートナーの浮気が発覚したのに、なんでそんな平常でいられるの?」と声をかけられた。

その理由のひとつ、「もう済んだことだから」。ふたつ目、「大人の女だから」。

......なーんてね。ふたつ目はこの一文の前に「平常でいられるわけがない! どんだけ暴れたことか。でもそんな見苦しさを人に知られたくない。怒り続けるのも結構疲れる。それに仕事しなくちゃいけない。だから表向きには『平常心』でいるわたしを演じている」という、ながーい本音がある。

パートナーの浮気がわかったときのわたしの暴れようと言ったら、まるでプロレスラーのようだった。不思議なもので、浮気発覚の瞬間って、まるで犯人が『完落ち』したことに満足する刑事の心境だったけど、そのあと時間差でマグマのように怒りと悲しみが噴出してくる

彼が浮気を認めた。最後のピースがはまり、「やっぱりね、おかしいと思ってた」とずっと感じていた違和感の正体をつかむ。漠然とした不安がはっきりと形になったことで、どすんと腑に落ちるものがあって、妙な安堵感を得る。これって、便秘で苦しかった日々が、一気に解消されたときに似ていた。

彼が完落ちしたあと、妙なすっきり感に満たされて、コーヒーを入れてベランダに出た。真っ黒な夜空を眺めながら「さて」と思ったことを覚えている。「さて。次はどう動こうか」大人の女は、若い子たちにはない「包容力」がある。あるはず。「今回だけはおおめに見てあげる」と許すべきか。それとも「信じていたのに」とさめざめと泣くべきか。......いや。大人とて、包容力なんてない。とくに浮気に関しては、絶対に発動させてはならない。

彼と交際する前、まだ友だちだったころに「浮気は一度でもされたら、もう絶対に無理。信用問題だから、二度とその人とは付き合えない」と伝えていた。それに対して彼は「でもよく『バレない浮気だったら、浮気していないのと同じ』って女の人は言うじゃない? まこちゃんはそんなタイプじゃないんだね」と言った。

「そういう女性のほうが信用できる。だってバレない浮気ならいい......なんて、絶対本音じゃないもん。器の大きなところを男性に見せたいだけだもん」と言っていたではないか。頭のなかでゴングが鳴った。まだ半分コーヒーが残っていたカップを、ベランダの床に思い切り叩きつけた。当然、ものすごい音がして割れた。様子を見にきた彼がベランダの窓辺にきたところで、わたしはベランダのガーデンチェアを持ちあげ、部屋にむかって思いきり投げつけた。

そこからの記憶が曖昧なのだが、今度は部屋に入り、クッションだのキャットタワーだの、あらゆるものをぶんまわしては床や壁に投げつけた。彼はというと、それらをよけながらわたしをホールドして「ごめん、本当にごめん。まこちゃん、落ち着いて!」と背中をさすろうとする。「触らないで、汚らわしい! もう無理、絶対に無理。一度でもダメだってわたし言ってたよね。だからもう無理」彼の腕のなかで泣き叫びながら暴れた。それでも彼は手を離そうとしないので、腕を思い切り噛みついた。ね、もう女子プロレスラーの域でしょ?「こんなに傷つけてごめん。まこちゃんを失いたくない。もう二度としない。本当にごめん」

「あなたの決意とかどうでもいい。次なんてない。二度目の機会を与えるか、あほ、ばか、ボケ! 消え失せろ、ぎゃー!」散々暴れ、家のなかはまるでハリケーンの被害にあったかのようになった。夜中だったので「明るくなってから家を出よう」と、その日は別の部屋で寝た。翌日遅く起きたら、家のなかはきれいに片づいていた。彼は仕事にでかけ、もう家にはいなかった。少し寝たことで、荒ぶる気持ちは落ち着いていたが、許せないものは許せない。とはいえ、このまま家を出て別れるだけが果たして正解なのだろうか。別れるのはいつでもできる。しばらく罰を与えて様子を見てから決めてもいいのではないか。

そんな気にもなって、わたしは「以下を守ったら、許すかもしれない」と書き出し、10ヶ条のリストを作った。それらはわたしへの誓いだったり、家事のことだったりが主だったが、なぜかラストの項目に「15万円ちょうだい。好きに使うから」と書いた

その紙をテーブルにおいて、その日は一日家出をした。彼から「どこにいるの」と電話やメッセージがいくつか届いたけれど、すべて無視。翌日、家に戻ると、わたしの部屋の机に15万円がおいてあった。それをわしづかみにすると、わたしは再び外に出かけ、やけくそのように服を買った。買い物をしながら「なんでラストの項目に15万円を催促したのだろうか」と自分でもちょっとおかしくなった。

しかも金額が中途半端。じつは、10ヶ条を書きながら、段々書く項目がなくなって、無理やり10項目目を書いた結果、15万円ちょうだい......となっただけなのだ。

家に戻ると、わたしが書いた10ヶ条は壁に貼ってあった。「これ、全部守るから。だから一緒にいて」と彼は言った。その顔は憔悴しきっていた。ちょっとだけ可哀想にも思ったが、0.1秒後にはそれさえも怒りの大波にかき消される。「あのね、わたしのほうが憔悴してるっつーの!」。気持ちはどこまでも荒ぶる。あれから数ヶ月。なんだかんだで、いまも一緒にいる。結構仲良しだ。あの件を「許す」とも「許さない」とも伝えることなく、なんとなくいまに至っている。

「ね? 大人の余裕って感じでしょ」とわたしが得意げに女友だちに伝えると、「まこちゃん、いくつよ。もう40過ぎでしょ。暴れるのはダメでしょう。子どもじゃないんだから」と呆れられた。

「えー、そうかなあ。あなただったらどうする?」と聞くと、「『もう二度としないでね』と誓わせるかなあ。怒りはするけど暴れないわよ」と言う。まさか、わたしだけがプロレスラー化するのか!「いやいや、そんなことないね。絶対にない」とはほかの男友だち2名。

「オレの浮気がバレたときは、包丁をむけられた」

「オレも!」

「オレなんて、歴代つきあった女性、全員刃物出したしね。ああ、包丁出さない女性と付き合いたいなあ

「オレなんて、バレた翌日、一番お気に入りのジャケットが切り裂かれていたよ」

「女って恐いよね」ほらね。プロレスラーどころか、ホラー女優がいっぱい。男性は「浮気した」という不実を周囲に知られるのがいや、女性は「見苦しく取り乱した」という事実を周囲に知られるのがいや。だから、一見すると「なにもなかったかのように」振る舞うし、「器の大きいふり」をする。ベランダから見える家やマンション群を眺めながら、「このたくさんの家のどこかで、ホラーやプロレスがいままさに起っている」といつも思う。でも頭上の空は青く、雲はのんびり流れている。どんなにコンピューターが進化し、宇宙へ気軽に旅ができる時代になったとしても、男と女の間には、ホラーとプロレスが起る。

どんなに「戦争のない平和な世界を」と願ったって、一番小さなコミュニティでは常に小競り合いが起きている。

なにが言いたいかというと、「きれいごとで済ませないでよ」ということ。「みんな、大人のふりなんかしないでよ」ということ。そうじゃないと、わたしだけがものすごく器の狭い女です宣言をしているみたいだから。

頼みます、みなさま。

image via Shutterstock

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