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Day3:肉骨茶や伝統雑貨。ノルタルジックな街歩き【シンガポール紀行】

Day3:肉骨茶や伝統雑貨。ノルタルジックな街歩き【シンガポール紀行】

昨日は年甲斐もなく、はしゃぎすぎたかもしれない。

目が覚めた瞬間、そう思った。

Hardwellの登場に眠気は吹っ飛び、『ズークアウト』で明け方まで盛り上がった。ホテルに戻ってからも興奮冷めやらず、十分とは言い難い睡眠量で、頭がぼんやりする。

が、今日は市内を散策したい。鉛のように重い体を引きずり起こして、熱いシャワーを浴びた。

ローカルの朝食を求めて

散策をはじめる前に何か食べたい。

飲み明かした体に合うものって何だろう。シンガポールの朝といえば、ナシレマ? ココナッツで炊いたほんのり甘いお米とおかずを合わせるローカルの定番朝ごはんだが、パワーモーニングすぎて食べきる自信がない。お粥は台湾や香港にもあるし......。

あ、肉骨茶!

肉骨茶(バクテー)とは、豚肉をニンニクやスパイスと共に煮込んだ土鍋料理だ。温かいスープがじんわり染みるにちがいない。

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『ン アー シオ』。本店のラングーンロード店は午前7時からオープン。マリーナ・ベイ・サンズや髙島屋などにも支店あり。

数ある肉骨茶屋のなかから選んだのは『ン アー シオ』。潮州スタイルのポークリブスープ店を店主の息子、ン・アー・シオ氏が1977年に引き継いだ。他店に比べて黒胡椒が強めにきいていて、ピリリとしたスープに、気持ちがシャンとする。

うん、店選び、正解。

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オーダー表。欲しい個数に丸をつけてスタッフに渡す。

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中国茶でさっぱりといただく。お湯は店内の薬缶から自分で注ぎ足しを。

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濃い茶色のスープが肉骨茶<シグネチャー・ポーク・リブ・スープ>(S$7)。スープにライス(小S$0.8)や油条(S$2.3)を浸して食べるのがシンガポール流。小白菜(S$5.5)など野菜メニューも。

プラナカン文化のお菓子や雑貨に触れる

アジア経済の中心地となったシンガポールに暮らす人々の国籍は、じつに多様。でも、これは何もいまにはじまった話ではない。

15世紀後半から、中国系の貿易商がやってくるようになり、彼らは現地の女性と結婚し、子孫を残している。この子孫が"プラナカン"だ

さらにマラッカ海峡の入り口としての魅力から列強諸国の統治下にあった関係で、ヨーロッパ文化も入ってきている。それらと中国系やマレー系の文化が融合し、独自のスタイルが生まれてきた。

リゾート地のセントーサ島や、マリーナ・ベイ・サンズに代表される圧倒されるようなシティビューも魅力だけれど、このプラナカン文化もシンガポールの見どころのひとつ

プラナカン文化を残しているエリアがあると聞き、そのカトン地区へ足を延ばしてみることにした。

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『キムチュー』。手前が物販で、奥にイートインスペースがある。

イースト・コースト・ロードを歩いていると、軒先にカラフルな食べものを並べた店を見つけた。『キムチュー』という、伝統菓子と雑貨を販売している店らしい。

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八ツ橋に似たような食感の<セブンストーリー>(S$2.8)や、ココナッツをまとわせたお餅<オンデオンデ>(S$2)、カヤジャム(S$2.8)がおすすめ。1階の隣の部屋に雑貨が、2階には服が並ぶ。

「み、緑色のお餅......? こっちは緑色のペースト。食べものだよねえ......」

色のインパクトに圧されて思わず一人ごちると、店主と思しき男性が話しかけてくれた。

「餅の鮮やかな緑は、パンダンリーフによるものだよ。ほんのり甘い香りがして、ココナッツとの相性がいいんだ。こっちのペーストはカヤジャムね。ココナッツと卵と砂糖でつくった、マレー半島で食べられているご当地ジャムで、通常は黄色いんだけど、シンガポールではパンダンリーフで緑に色づけしているのが特徴かな」

着色の疑いを持った私の気持ちを察するかのような説明。

1945年に彼の祖母がちまき屋として開いた同店。いつしかプラナカン料理や菓子をつくる家庭はほとんどなくなってしまったため、文化を絶やさないように、と、現在の店の形になったのだそう。

Bunga Telangという青色の珍しいお茶をいただきながら、思わず聞き入ってしまった。

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青い外観が目印の『ルマビビ』。ビーズを施したスリッパやブックマーク、刺繍雑貨などが小さな店内にびっしり。

『キムチュー』を出て左へ進むと、真っ青の、ひときわ可愛い店が現れた。ビーズ細工の雑貨が置いてある。

6年前、出張でシンガポールを訪れた。過密スケジュールで自由時間がほぼなかったが、どこか1か所でいいから行きたい! と駆け込んだのが、プラナカン博物館。そこで見たビーズ細工の美しさに心を奪われた経験のある私は、抗いようもなく、この店に吸い込まれたのである。

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2階がビビさんの工房。ビーズの師匠に手ほどきを受けて現在に至る。

店の名は『ルマビビ』。店主・ビビさんの工房兼店舗だ。彼女は、もともとは英語教師だったのだとか。

「"職人"って言われると、ちょっと違う気がしているのよね。ビーズ細工は、私の趣味だったの。いまだって、趣味なのよ。プラナカンのビーズ細工の作り手が減ってきてしまったから、こうして店にしているだけよ」

冗談めかしてそう言うけれど、ごくごく小さなビーズを一針一針刺していくビビさんの目線は真剣そのもの。スリッパを1点仕上げるのにも1か月はかかるのだそうだ。

「ビーズはヨーロッパからもたらされた文化なの。ビーズは国産なのかって? チェコビーズも使うし、アンティークビーズも使うし、日本のミユキビーズだって使うし......色や輝きの表現の幅は広いほうがいいから、国も年代もバラバラよ(笑)」

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ビーズの難しさは、裏から針を刺す際、正確な刺し位置が捉えづらいこと。「私は1点ずつ完成させていくタイプじゃないの。気分が乗るデザインをあれこれ進めていくから、なかなか完成しないのよ」

工房には、ビビさんが作品として作ったものも。私の顔に"欲しい"と書いてあったのか、その心を見透かすように「これは自分用。同じデザインが欲しい場合は、オーダーで受けつけているからね」と、またしても笑われてしまった。

ビーズ細工にときめいたのは、ビビさんのような作り手の素敵な人柄が作品に表れているからかもしれない。

スパイシーなラクサで心地よい汗をかく

朝のスープが消化されてきたのか、空腹を感じる。

普段は健康のために食べる量も節制しているけれど、旅の醍醐味とは、その土地のものを食べることだもの。この数日は無礼講だと自身に言い聞かせ、カトンの人気店をのぞいてみることにする。

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ラクサ激選区・カトンの人気店『328 カトン ラクサ』。51 East Coast Road, Singapore 428770
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お箸がない。それもそのはず、麺が小さく切ってあるためスプーンで食べる。海老や貝柱がたくさん入っている。<ラクサ>小S$5.35、大S$7.5。

ここ、ここ。ラクサが食べてみたかったのだ

ラクサとは、魚介からとった出汁にココナッツやスパイスを合わせた辛いスープに、米麺を入れたローカルフードのこと。ラクサリーフと呼ばれる、バジルにも似た香りのスパイスが入っているのがポイント

魚介出汁の風味とココナッツの甘さを感じた後に、ピリリとした辛みがやってくる。ツルツルの麺の舌触りが心地いい。

隣で食べているローカルを盗み見ると、チリを足していた。いやいや、このままでもじわっと汗ばむし!

暑い国で辛いものを食べて汗をかく心地よさ。最高!

カラフル、キュートなプラナカン建築

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クーン・セン・ロードのショップハウス。Koon Seng Road, Singapore

ショップハウスと呼ばれるこれらの建物の外観は、水色、黄緑、ピンク、薄紫......。

海外を旅して面白く思うことのひとつに、色使いがある。シンガポールにはリトル・インディアというインド人街があるのだが、そこの建物に見受けられるのは原色に近い赤や緑。チャイナタウンに見られる朱赤のような赤とも違い、それぞれ、その国らしさが表れているように思う。

パステルカラーが基調のプラナカン建築は、なんて可愛いんだろう。中国の建築様式をベースに、屋根を高くして風通しをよくしてあったり、2階に大きな窓をつけて欧州の要素を取り入れていたりと、造りも興味深い。

普通に住めるのかしら、と見回すと「FOR RENT」の看板を発見。希少かつ人気物件ゆえ、借りる予定もないのに家賃にドキドキしてしまった。

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1920年ごろに建てられたものが多い。借り手には欧米人も。

強い陽射しのもと歩き回って疲れたので、ホテルに戻ってひと休み。晩ごはんはどこで食べようか......。

シンガポールの伝統文化に触れた1日だったので、引き続きクラシックな気分に浸れると同時に、ヒップな場所だとなおいいのだが。

シンガポールの夜はルーフトップで更ける

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ケオン・サイク・ロードが人気スポットになるきっかけを作った『ポテヘッドフォーク』

店を探していて、スマートフォンの検索画面をスワイプしていた手がふと止まった。

「これ、なんだろう?」

白い外壁に赤い文字で"東亜"と書かれた建物。なにやら飲食店が入っている、『ポテトヘッドフォーク』という2014年にオープンした店らしい。

東京の歌舞伎町的な印象だったこのエリアが国によって整理され、『ポテトヘッドフォーク』を発端に、一帯の建物の改装がはじまり、このケオン・サイク・ロード沿いはいまやお洒落な人々が集まるスポットになっているとか。

面白そう。

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店内はローカルアーティストによるアートで埋め尽くされている。オリジナルのTシャツなどグッズも販売。

『ポテトヘッドフォーク』は4フロア構成で、1、2階は『スリー・バンズ』というハンバーガーショップ。1階はテラス席でカジュアルな雰囲気だったので、2階に入ってみることにした。

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<ベビー・フェイ>(S$20)。ふかふかのバンズは店の特注。ソースもピクルスも、素材はすべてホームメイド。

ハンバーガーは種類がたくさんあった。迷いに迷って、<ベビー・フェイ>をオーダー。パティの焼き加減はミディアムレアで。

少し赤みの残るパティはジューシーで肉々しく、キメが細かくてなめらかなバンズとマッチしていた。ハンバーガーなんて食べられるかしらと懸念していたけれど、やや小ぶりだったのもあって、ペロリとたいらげてしまった。

「よかったら、屋上のバーも見ていかない?」

とフレンドリーなスタッフに声をかけられた。せっかくのシンガポールの夜の余韻にもう少し浸りたい。最上階へ移動して飲むことにした。

「シンガポール」「ルーフトップバー」と聞くと『レベル33』やマリーナ・ベイ・サンズの『セラヴィー』など、高層階の夜景バーを思い浮かべるけれど、周辺の建物を、同じ目の高さで見ながら物思いにふけるのも悪くない。今日1日を振り返る。

急速に発展したシンガポールの街はキラキラしていて、バブル期の日本にあったような眩しさを湛える。が、一方でプラナカン文化の保存に注力してもいる。どちらもこの国のアイデンティティだろう。

この3日間で出会った人々を思い浮かべながら、国も人も、文化によって形成されているんだなあと思い至ると同時に、私が日本人として大事にすべきことはなんだろう、という疑問も湧いた。

答えは出ぬまま、夜は更けていく。

明後日の午前にはここを発つ。私の旅は、あと1日だけ。この国にもう少し浸ったら、解は見出せるだろうか。

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取材協力:シンガポール政府観光局

撮影/網中健太

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