ここ最近、女性活躍推進の動きがますます高まっているが、女性の社会進出を広げたものといえば、19世紀末パリのベル・エポックの時代まで遡る。
しかし、そのなかで「モダンダンスの祖」といわれているひとりの女性が、芸術において大きな功績を残したことはあまり語られていない。その人物とは、ロートレックやロダン、コクトーらのミューズであったロイ・フラー。
そんな彼女の知られざる人生を描いた話題作『ザ・ダンサー』が、いよいよ日本でも公開となる。今回、写真家のステファニー・ディ・ジューストが念願の映画監督デビューを果たしているが、主演に選ばれたのは、マドンナとのコラボで世界的な注目を集めているミュージシャンで女優のソーコ。
そこで、主人公のロイと同じく、自らの力で運命を切りひらいている2人の女性に、本作の見どころや人生の原動力について語ってもらった。
逆境を美に変えることの素晴らしさ
監督がこの題材を映画化しようと思ったのは、踊っているロイの写真を偶然目にして衝撃を受けたからであり、彼女の持つ二面性に惹かれたのだという。
「ロイは力強さと繊細さをあわせ持っている人で、そういう人間性に感動したの。それに、彼女はとくに美人でもスタイルがいいわけでもなく、裕福な家庭に生まれたわけでもないのに、熱意と努力だけで海を渡り、ダンスを発明して舞台芸術に革命を起こしたのよ。そうやってハンデを魔法に変えたところは、わたしが彼女に興味を抱いた理由でもあるわね」(監督)
おそらく誰にでも欠点はあるものの、それさえも乗りこえる情熱があれば、夢を実現することは、決して不可能ではないのだと、気持ちを突きうごかされる。今回、ロイに全身全霊で取り組んだソーコも"役作りは、とても難しい作業だった"とふり返る。
「彼女になりきるためには、表面的なだけではなく、どういう人なのかというのをきちんと理解する必要があったから、肉体的な方面からもアプローチしなければならなかったの。トレーニングではすごく疲れ切っていたのだけど、アドレナリンが出て、『もっとやりたい』という中毒のような状態にもなったくらい。
でも、そういうダンサーとしての訓練を通じて、彼女の人生や感情を自分のものにできたし、ロイ・フラーという人の中に入りこむような役作りができたと思うわ。それに、クリエイティビティやアートに対する情熱というのはわたしも監督もよく知っているところだったから、そういう意味では自分たちに近い感情でもあったと言えるかな」(ソーコ)
独特な存在感を放つソーコについて監督は、「フランスの女優ではなく、世界に通用する女優で、ほかとは一線を画する存在」と絶賛。
実際、素顔の彼女も、子どものような無邪気さを見せたと思うと、次の瞬間には聡明な大人の一面を見せており、このつかみどころのなさが人びとを魅了してしまうのもうなずける。そんなソーコが何よりも大切にしているのは、「時間」だという。
「じつは5歳のときに父を亡くしていて、そのとき死についてすごく意識したのよ。と同時に、人生における時間の大切さを知って、夢を実現するために1秒も無駄にしたくないと感じたわ。だからこそ、日々の生活をクリエイティビティと夢で満たして暮らしていきたいし、他の人からの視線は気にしたくないと思って生きているの。
そのために、『今日がいままでで一番いい日になるように』と毎日心がけていて、いろいろな色を身に着けたり帽子をかぶったりして気持ちを引きあげて過ごしているのよ」(ソーコ)
とはいえ、創作活動に没頭しているときは、外の世界とのコンタクトを完全にたち切って集中しているというソーコ。そのメリハリこそが新たなものを生みだす原動力でもあるのかもしれない。監督もまた、自分の好きなことや情熱を持てることで1日を満たすように意識しているという。
「わたしは人生を精一杯生きていて、したいことはすべてしてるから、十分に生を享受していると言えるわね。だから、たとえ今日死んでしまっても、なにも後悔しないと思うわ。
もちろん、人生には幸運も働きかけるけど、やっぱり一番大事なのは意志の力。ロイも同じだと思うけど、自分の心の声を聞いて、進んでいくということよ。それは理想ということではなくて、わたし自身がそういう風にしてきたことでもあるの」(監督)
若い頃から直感に従って道を進んできたという監督の言葉に迷いはない。そして、今回の映画制作も直感で決めたというが、初監督作品にして、カンヌ国際映画祭ある視点部門への正式出品とセザール賞6部門ノミネートという結果まで出しているだけに、説得力を持ってわたしたちの胸に響く。
壁を作らず、子どものように生きていきたい
そして、計りしれない才能を持ち、これからがますます楽しみな現在31歳のソーコは、理想の女性像と生き方についても教えてくれた。
「わたしがなりたいのは、強さと弱さをあわせ持っている女性。それから、きちんと感情を表現できる人、Noと言える人、自分の限界を知っている人、違いや他人の視線を恐れない人、自分の存在について言い訳をしない人、女性としての人生を生きて、自分のセクシュアリティやクリエイティビティをすべて受けいれることができる人、そして最後に、いろんな色を身につけて楽しく生きる人かな。
わたしは、死んでしまう日まで子どものように毎日を生きたいと思っているの。なぜなら、子どもというのは、いろんなことをするのがはじめてだから、何でも興味があるし、日々にはたくさんの冒険があって、毎日新しいことを人生で発見できるからよ。
大人になると『これをやったら辛いな』と思って、やらずにどんどん壁を作ってしまうでしょ? でも、わたしはそれを壊してしまいたいし、そうやって生きていきたいと思っているのよ」(ソーコ)
歳を重ねるごとに知識や経験は増えていくものの、それによって失っているものがないか改めて考えさせられる。最後に、カフェグローブ読者と同じく、働く女性の見本でもある監督から日本の女性たちに向けてメッセージをもらった。
「それぞれの年齢にとってそのときに合った素晴らしいことがあるから、年齢によってカテゴリー分けすることはふさわしくないわよね。でも、30代40代というのは、すべてがはじまる世代だと思うわ」(監督)
これほどまでにエネルギーに満ちあふれた女性たちによって生みだされた作品だからこそ、スクリーンから伝わる熱量の高さにも納得がいく。
そして、激動の時代のなかで、自分を信じて突きすすむロイ・フラーの姿にも心を揺さぶられてしまうはず。女性の強さだけでなく、情熱を貫くことの意義を全身で感じて欲しい。
ザ・ダンサー
監督:ステファニー・ディ・ジュースト出演:ソーコ、リリー=ローズ・デップ、ギャスパー・ウリエルほか2017年6月3日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほか全国公開配給:コムストック・グループ© 2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM
[ザ・ダンサー]
撮影/柳原久子

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