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聖人でなく人間の物語を描きたかった。映画『ローマ法王になる日まで』インタビュー

聖人でなく人間の物語を描きたかった。映画『ローマ法王になる日まで』インタビュー

今年にはいってから、アメリカやフランス、韓国など世界中でさまざまなリーダーが誕生しているが、この人ほど国境や言葉を超えて、多くの支持を集めている人はいないかもしれない。

その人物とは、2013年から第266代ローマ法王に就任し、"バチカン史上もっとも民衆から愛されている法王"との呼び声が高いフランシスコ。ブエノスアイレスで生まれ育ったイタリア移民2世の彼は、ローマ法王としては初の南半球出身者であり、庶民派としても知られている。

『ローリング・ストーン』誌では表紙を飾り、まるでロックスターのような人気を誇っている法王だが、いまやその発言は政治家以上の影響力を持つとも言われている。

しかし、カトリック大国ではない日本にいると、「そこまで民衆を熱狂させるローマ法王フランシスコとは一体どんな人物なのか?」と感じる人もいるはず。

そんななか、彼の知られざる半生を描いた映画『ローマ法王になる日まで』が公開を迎える。そこで、ダニエーレ・ルケッティ監督に、作品を通して伝えたい思いや自身の信念について語ってもらった。

誰にでも興味深く感じてもらえるように心がけた

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はじめに断っておきたいのは、本作は宗教についての作品ではなく、あくまでもひとりの人物にフォーカスした物語であるということ。なぜなら、監督自身が無宗教であり、「宗教に関心のない人にとっても感動的なものにしたかった」と訴えているから。そのために、最初の脚本に書かれていた〈法王の聖人伝的な部分〉をすべて無くして作りあげたと話す。

「まず考えていたのは、人間についての物語にしようということ。自分には宗教的なことはわからないけど、人間的な部分では共感することができるし、彼がどういう風に政治や社会に関わったかということを物語として描きたいと思ったんだ」

ブエノスアイレスでは自らリサーチを重ね、1年半かけて脚本を書きなおしたというが、それによって彼の人物像に説得力と深みが加わることとなった。

そして、より魅力的に映しだされているもうひとつの理由には、アルゼンチンの俳優たちの熱演も欠かせない。なかでも、若き日のフランシスコを演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナを絶賛。

「彼はエモーショナルなものをだすことができるし、非常に知的な役者。最初は断ろうと思ったみたいだけど、脚本を読んですぐにやりたいと連絡がきたんだよ。

ただ、一番問題になったのは、『自分は法王にまったく似ていないから、どうしようか?』と聞かれたときだね。だから、『別に似てなくてもいいから、法王を彷彿とさせるようなことやちょっとしたクセを挟んだらいいんだよ』とアドバイスしたんだ。

そしたら撮影終了後、イタリアの有名な雑誌の表紙に、実際の法王と本作の役者の写真が並んで掲載されて、『そっくり!』というタイトルがついたくらいの結果がでたんだよ(笑)」

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今回はアルゼンチンで大半を撮影しているが、監督が気をつけていたのは、けして"観光映画"にならないようにすることだったという。

「つまり、アメリカ人がイタリアで撮るように、通俗的でありきたりな場所で撮って、ありもしないようなことを映す作品にはしたくなかったということだよ。だから、嘘のない場所を選んで、より現実に近いような形にすることを重視したんだ」

そのこだわりによって、町の空気感や時代の雰囲気というのがリアルにスクリーンから伝わってくる。

アルゼンチンの情勢や歴史に関しては、想像を絶するところもあるが、それもまた目を背けてはいけない現実であり、この作品を観るべき理由のひとつでもあるのかもしれない。

自分の人生だと思える仕事を求めていた

激動の時代に信条と使命に従って生きてきた人物を描いた監督にとって、人生や仕事における信念とは?

「僕はちいさい頃から人生と仕事を分けることなく、人生そのものであるような仕事がしたいと思っていたんだよ。つまり、自分の願望を満たすことができて、充実感を与えてくれるような仕事。それが僕にとっては芸術であり、呼吸するのと同じくらい自然な感じで映画を撮っているんだ。

だから、成功したいとか人に受けたいとかではなくて、情熱を感じられることが大切。もしも誰も観ない映画を撮れと言われても、撮っていたいと思うかな(笑)」

監督と同じく、ローマ法王もまた自らの人生とは切り離せない職業。とはいえ、人生を捧げたいものを仕事にできるということは、働く人間にとってはある意味もっとも理想の姿ともいえるだろう。

最後に、日本の観客に伝えたい思いも教えてくれた。

「この映画のなかでは、何度も何度もやり直す人間の姿が描かれているんだけど、法王でも地獄を味わったり、左遷されたりしながらも、人生をやり直す機会が訪れるたびにやり直してきたということなんだ。だから、誰の人生にもそういう可能性があるんだというのを感じて欲しい」

ローマ法王フランシスコと検索をかければ、穏やかな微笑みを浮かべた写真ばかりが並び、波乱に満ちた人生を送ってきたことは微塵も感じさせない。しかし、さまざまな困難や逆境を味わってきたからこそ、誰よりも優しく、貧しい人びとの心に寄りそうことができるのだろう。

周りに流されることなく、信念を胸に前へと進み続けることの大切さは、きっと海を越えてわたしたちにも伝わるはずだ。

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ローマ法王になる日まで

監督:ダニエーレ・ルケッティ出演:ロドリゴ・デ・ラ・セルナ、セルヒオ・エルナンデス、ムリエル・サンタ・アナ、メルセデス・モラーンほか2017年6月3日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー配給:シンカ/ミモザフィルムズ© TAODUE SRL 2015http://roma-houou.jp/

撮影・文/志村昌美

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志村昌美
映画宣伝マンとして洋画や邦画の宣伝に携わったのち、ライターに転向。イタリアとイギリスへの留学経験を経て、日・英・伊・仏のマルチリンガルを目指しながら、現在は海外ニュースや映画紹介、インタビューなどを中心に女性サイトや映画サイトで執筆中。女性目線からみたオススメの映画を毎月ご紹介していきたいと思います! 日々の試写の感想などをつぶやき中:https://twitter.com/masamino_19

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