多彩な才能がうごめくニューヨーク。そんなアートの本場で活動するひとりの女性アーティストがいます。子育てを終え、50歳からの創作活動で花開いた版画家、小春さん。バラをテーマにした彼女の作品は退廃とフェミニズムがうまく調和し、空間に心地よい洗練を与えてくれます。
ニューヨークは恐怖でしかなかった
60年代ニューヨーク、そのアイコンの一人といえる草間彌生さんを親類にもつ小春さん。幼い頃はともに祖母の家に滞在したり、大人になってからも「彌生ちゃん」と呼び近しい関係であったものの、母親ほど年齢の離れた彼女は小春さんにとって「強烈なおばちゃん」。そんな幼少から息をするようにアートが身近にあった彼女は東京芸術大学を卒業後、結婚。専業主婦として2人の息子を育て上げた後、単身ニューヨークへ。彼女の作品は現在、各国の美術館や大使館に収蔵されています。
まるでこの街を舞台にしたサクセスストーリーようですが「本当はヨーロッパの方が好き」。しかも「ニューヨークへはアートのために来た、なんて格好いいものじゃないの(笑)」
アーティストである夫は「女性に仕事をさせるなんて男性の沽券に関わる」という昔気質の人。自分を「わたしは単純というか、イエスマンなの」と語る彼女は、当時は疑問に思わなかったけれど、いつしか自分を押し殺しすぎて自分を見失っていました。
また、日本で手がけたビジネスでトラブルに巻き込まれたことも追い討ちをかけます。多くの葛藤や憤りを抱えて体調を崩し、次男の帰国で空室になったアパートのあるニューヨークへ。だからはじめは「この街の印象なんて何もないです。英語が話せないし、恐怖しかなかった」
そんな「自分を取り戻す」時期を過ごした後、ふと立ち寄ったギャラリーで「線をヒュッと描いたような」アートを見かけ、「これなら自分にもできるかも」と制作を再開するきっかけに。
知人に美術学校を紹介してもらい、ニューヨークの名門、ナショナル・アカデミー・オブ・デザインに入学。そして版画に出会います。
どんな状況でも覚悟を決める。そうすれば道は拓ける
「ストレスを自分に与えた相手に、じつは感謝しています。それがなければ自分はニューヨークへ出られなかった。とことん痛みつけられないと腰が上がらなかったんです。そして制作に没頭することで至上の幸せを感じました」
何よりも心の支えとなったものは「制作の幸福感」。それはまさにアートセラピーでした。
どんなことも楽しそうに話す彼女は「人生には波があるから、その時与えられていたことを精一杯やる。子育てはしっかりやれば、子供は立派に巣立っていきます。必ず夢は展開されていくから、今あることを頑張ってやる。そんな覚悟の決め方が大事です。そうすると道が開けるし、情熱は伝わっていきます」と語ります。
そして「ポジティブ思考は大事。あとは笑顔。口角を上げると気持ちも持ち上がりますよ。それと、場所や環境を変えるっていうのは一番手っ取り早くてシンプルな解決法ね」
今夏はフェローシップを得て、メイン州ヘイスタックで制作に取り組みました。「しばらく道に迷っていたけど、再び作品制作への力が出てきました」と語る小春さん。現状に満足せず前進続ける姿勢がパワフル! 若いアーティスト同様のエネルギーに溢れています。
2017年9月16日(土)までソーホーのギャラリー・マックス・ニューヨークでグループ展「Koharu and seven friends(Koharuと7人の仲間たち)」を開催中。定期的に開催しているニューヨークでの展示ですが、今回のテーマは「部屋を和やかにする」「心地よい空間を演出」する作品。
真骨頂と言える仔豚のキャラクターとコラボしたキュートでポップな作品の他、現在の彼女を表すような優しくフェミニンな世界観に出会えます。
Koharu and seven friends(Koharuと7人の仲間たち)
期間:2017年9月5日~9月16日場所:Gallery Max New York(ギャラリー・マックス・ニューヨーク) 552 Broadway Suite 401, New York, NY 10012営業時間:火~土 11:00~18:00定休日:日曜、月曜、祝日
撮影・取材・文 / 神田朝子
[Koharu小春]

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