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光が進む方向を追いかけて。写真家・野口里佳の新作「海底」

光が進む方向を追いかけて。写真家・野口里佳の新作「海底」

暑さの残る9月。六本木に立ち並ぶビルの合間の日差しをすり抜けて向かった先は、「タカ・イシイギャラリー 東京」のあるcomplex665ビル。

9月7日から始まった写真家・野口里佳さんの個展「海底」には、ドイツ・ベルリンから日本の沖縄に活動拠点を移し、撮影した新作11点が並ぶ

まるで世界を俯瞰したような彼女の写真。「異邦人の目」と評される作品は、見つめると肩や背中の力がふっと抜け落ちて、その静寂な世界をゆっくり歩くような、独特の世界観がたまらなく心地よい。

今回の「海底」は誰もが知っている海、その奥深くには、地球上のどこにいても逃れられない重力の効かない異世界があり、その世界を月面に見立て 新たな世界への一歩を表現している。

オープン前日の会場に入り、作品を前に緊張していると、野口さんご本人が登場。お話を伺うことができた。

運命に導かれるように写真家となり、ドイツ、沖縄へ

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Junko(以下、J):以前から作品を拝見していて、野口さんにとても興味があって。作品ってその人の内面がリアルに表現されていることが多いので、冷静沈着でかっこいい女性像をイメージしてお話できるのを楽しみにしていました。まず、野口さんご自身についてインタビューさせてください。写真の道を選んだきっかけを伺えますか?

野口(以下、N):高校3年生の時、担任が美術の先生だったんです。進路相談になって、特に興味があることはないのかと聞くので、しいて言えば映画かな、と言ったら、映画学科がある日大芸術学部を勧められました。そこで実技なしで受験できる学科をひと通り受けて、受かったのが唯一写真学科だったんです。本当にたまたま、大学受験で写真と出会いました。

J:それはすごい。運命というか、導かれたという言葉がしっくりきますね。それですぐに写真に没頭したり、ご自身で「私、いけてる!」と思えたりした瞬間が訪れたのでしょうか。

N:大学1年目を終えて2年目くらいからかなぁ、「あれ、もしかして私、才能あるのかも?」って思ったのはそのくらいでしょうか(笑)。写真の面白さに気がついて、根拠はないけど、自分にしかできない何かがあるぞ!って思いはじめたんです。

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左から「無題 (マヨルカ #1)」(2014) 、「無題 (マヨルカ #2)」(2014)、「きゅうり 8月21日」(2017)、「きゅうり 8月22日」(2017)

J:海外でも制作や展覧会をたくさんされていますよね。12年間のドイツでの滞在を経て沖縄へということなのですが、これはどういった経緯なのでしょう?

N:日本に戻ることになったのは、意志というより、生活の流れです 。ドイツに12年暮らして生活はとても快適だったのですが、娘がこれから小学校生になるので、学校のことを考えて日本に帰国しよう、ということになりました。

J:なるほど。沖縄を選ばれたのはなぜですか?

N:パートナーが美術家なのですが、彼のお父さんが沖縄の出身で、いつか沖縄に住んでみたいといつも彼が言っていたので、この機に沖縄に住んでみようとなりました。そもそもドイツに引っ越した理由も、彼が美術家としてドイツに招待されたのがきっかけでした。自分の意思で引っ越したのは、1997年にアメリカに行った時だけですね。流れにまかせて。その時その時にやりたいこと、やるべきだと思うことを形にしている感じです。

作品をつくる必然は突然やってくる

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J:作品についてですが、この場所を選んだ決め手を伺えますか。

N:いつも「見たことないものを見たい」と思って過ごしていて、日々の積み重ねの中で、こういう作品をつくろう、という必然が突然やってくるんです。

淡々と、でも柔らかに話す口調がとても素敵な女性。話していくうちに、彼女の写真の、その独自の目線、テーマやモチーフとの距離感と同じような、人生の選択の仕方すらも感じられてきて、ますます写真にのめり込んでしまいそうな気持ちになる。一つの物事、出来事を受け入れながら、でもそのことを的確に捉えて表現するのは、作品も人生も変わらない。自分自身の人生すらも俯瞰して見ているような、落ち着いた方。

挑戦的な制作の姿勢から、もっと男性的な人物像をイメージしていたのだが、想像よりも、もっとずっと女性的で、運命やチャンスを受け入れながら自分のものにしていっている人なのだということに、ハッとさせられた。

「作品をつくって生きていく、という道は決まっているので、いろんなところに住みながら、それを継続しているだけなんです。いい作品をつくること以外にできることはない。そして、それが(成長への)最短の道だと思う」と話す野口さん。ブレない姿勢が、人生も作品も心地よい人。

光の進む方向を追いかけて、夜の海を潜って撮った新作

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左から「海底 #4」(2017)、「海底 #5」(2017)、「海底 #6」(2017)

J:では今回の作品についてはいかがですか。沖縄に引っ越してから、海に潜り、この作品ができ上がったと伺いました。このテーマを作品にしようと思ったのは、なぜなのでしょうか。

N:今回の作品「海底」ですが、光が進んでゆく様子を撮ってみようと考えているうちに、夜の海に潜ることになりました。テーマは冒険と実験です。ニコノスというフィルムカメラを使って撮影しています。夜の海は暗くて怖いので、いったい私は何をしているんだろう、と思いながら撮影していました(笑)。

世界のどこにいても、その場所で被写体との独特の距離感で作品を制作する野口さん。

ギャラリーの大きな窓にはシートが貼られ、タカ・イシイギャラリー 東京が、落ち着いた海底の世界へ繋がるかのような異空間になっています。9月30日には「代官山ヒルサイドフォーラム」にてトークイベントも開催される予定ですので、ぜひ野口さんのお話を直接伺ってみてください!

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野口里佳 「海底」

会期:2017年9月9日(土)~10月7日(土)会場:タカ・イシイギャラリー 東京時間:11:00~19:00休日:日・月・祝※「野口里佳 x 平野啓一郎トークイベント 代官山フォトフェア Talk Session」は代官山ヒルサイドフォーラム Exhibition Roomにて2017年9月30日(土)14:00~15:30にて開催(参加費:500円/定員40/当日先着順)

タカ・イシイギャラリー 東京

写真/Miki Takahira

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Junko Suzuki
アーティスト/ブログ KAWAIILABO TOKYO 主催。ブログを通してファッション・美容・デザイン・アートを軸にオープンソースのカワイイを研究を行う。神保町で幼少期を過ごし、曾祖父の創業した一誠堂書店、祖父の創業した本屋書泉をきっかけにメディアに興味を持つ。大学院で始めたセルフポートレートブログ「カワイイラボ」が話題となり、ブロガー/ アートディレクター/フォトグラファー、現在はアーティストとして活動中。

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