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映画『はじまりの街』マッテオ監督「悩める女性たちに声を与えたい」

映画『はじまりの街』マッテオ監督「悩める女性たちに声を与えたい」

働く女性たちの憧れであるココ・シャネルの名言に「女は40歳を過ぎて初めて面白くなる」というものがあるように、40代になってから人生の酸いも甘いも嚙み分けられるようになったと感じている人も多いはず。

そこで、そんな女性たちにおすすめしたいのが、イタリアから届いた女性のための人生賛歌ともいえる映画『はじまりの街』。さまざまな困難を抱えつつも、前を向いて生きていこうとする女性たちの姿を描いた珠玉の感動作として注目されている。

本作に登場するのは、夫のDVから逃れるために息子とともに見知らぬ土地で生きていく決意をしたアンナと、学生時代からの親友で好きな演劇の仕事をしながら気ままな独身生活を楽しむカルラ。

それぞれ胸のなか秘めている悩みや不安、そしてお互いを支え合う女性同士の友情などは、国を越えて共感してしまうところ。そこで、人間の繊細な心の動きを見事に映し出したイヴァーノ・デ・マッテオ監督に作品を通じて伝えたい思いや自身の人生観について語ってもらった。

世界中の人たちに通じる問題を取り上げたかった

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今回、男性である監督が女性の視点から物語を描こうと思ったのには、女性に対してある願いが込められているという。

「まずは女性が主役の映画が少ないと感じていたこともあり、『女性に声を与えたい』と思って女性をメインにすることを考えたんだ。 そして、女優たちのことでいうなら、彼女たちは若いときには主人公の役がたくさん与えられるんだけど、40代、50代となってくると主演の映画というのは少なくなってくるもの。でも、それだとまるで『歳を取った女性は役に立たないと言われているみたいじゃないか』と思ったんだよ」

そんな風に私たち女性の気持ちに寄り添ってくれる監督だが、そこにDVの問題を題材として取り入れることを決めたきっかけは?

「共同で脚本を書いているのが僕のパートナーでもあるんだけど、肉体的な暴力だけではなく、心理的な暴力や経済的な暴力といった世界中で女性たちが受けているであろう暴力を描いてみたいと一緒に思ったからなんだよ。というのも、僕たちの娘のクラスメイトのお母さんが長年苦しめられていたのが夫からの暴力。そして、あるとき彼女は息子のために逃げることを決意するんだけど、そのときの体験談が今回のモデルにもなっているんだ」

その後、DVを受けてきた多くの女性たちにも取材をしたという監督だけに、そこから得たものをよりリアルに表現していきたいという意図はスクリーンからも伝わってくるところ。

正反対の女性によってあぶり出される女性の強さ

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「アンナを演じたマルゲリータ・ブイはやっぱり女優だから最初は『目のクマは撮らないで欲しい』とも言われたんだけど、より現実的なことを重視したかったから、ほとんど化粧をせずに演じてもらい、長年苦しんできたことがわかるようなキレイではない手を映すことにもこだわったんだ」

今回は、イタリア映画界には欠かせない女優であるマルゲリータ・ブイヴァレリア・ゴリノをはじめ、息子役の新星アンドレア・ピットリーノなど、役者たちの見事なアンサンブルも見逃せない。

なかでも絶妙なやりとりを見せているアンナとカルラは、まったく別のタイプの女性として描かれているが、それぞれのキャラクターをどのようにして作り上げていったのかについても聞いてみた。

「まずアンナは非常にシンプルで質素な人でありながら、倒れても立ち上がる力を持っている女性なので、どんな仕事でも経済的な自立を求めていく姿を描きたかったんだ。一方のカルラは、表面的なところがあって人生で失敗ばかりをしている女性。大人になりきれない子どもだと自分でも言っているけれど、それは女優という仕事をしている彼女が自分に課している仮面みたいなものであって、本当は親友とその息子を助けるような強さがあるんだよ。だから、最後には普通の家族とは違う新しい形ではあるけれど、伝統的な家族よりもいいこともあるんだと彼女たちから感じさせられるんだ」

人生のなかの小さなことをたくさん見つけていきたい

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そして、本作で何より心に響くのは、「何があっても人生よりいいものはない」というメッセージ。では、監督自身が人生において大切にしていることは?

「僕は自分の人生をすごく愛しているんだ。もちろん、人生というのはいいところだけじゃなくて、いろんな面もあるけれど、それも含めて1回しかない人生はやっぱり愛すべきもの。ただ、お金やいろんなものがありすぎると、人生が見えなくなってしまうときもあるんだけど、人生というのはむしろ小さな楽しいことや美しいものからできているんだと思うよ」

監督の言葉通り、一人ひとりが自分の人生を心から愛することができれば、平和な世界へと繋がっていくようにも感じさせる。だからこそ、いまの世界の現状に対しても不安を抱えているのだという。

「世界のリーダーのなかにはせっかくの人生をめちゃくちゃにしてしまうような人もいて、その愚かな少数のために世界が破壊してしまうのではないかと思うこともあるよね。でも、それは本当に怖いことで、そんなことにならなければいいなと心から願っているところなんだ。『どっちのミサイルが強いか』と言い争って世界を不安に陥れている人たちがいるけれど、それはすごく男性的な考え方。だから、もし世界のリーダーが女性だったら、こんなことにはならなかったんじゃないかと僕は思っているよ」

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女性に対してどこまでも寛容な考えを持つ監督だからこそ、社会的弱者への目線にも優しさが込められているのだと納得させられる。では、自身が困難に陥ったときはどのようにして乗り越えているのだろうか。

「基本的に僕は人生で苦しいときには人に助けを求めるよりは自分でなんとかしようとする方ではあるんだけど、パートナーである彼女とは28年も一緒にいて、子どもも育てていることもあり、心から頼ることができると感じているんだ。あとはやっぱり友人かな。ただ、友情という言葉があまりにも安易に使われていて、知人といった方がいいようなときもあるけれど、本当に信頼できる友人の言葉は大切なもの。この映画のなかに出てくるような心を許せる誰かを見つけることは人生に必要だと思っているよ」

人はいつでも誰かに支えられ、そして誰かを支えながら生きているもの。そして、それこそが人生を愛する理由のひとつでもあると感じるはず。

さまざまな葛藤を抱えながらも新たな一歩を踏み出す人びとの姿から、人生の可能性と一握りの勇気を受け取ってみては?

はじまりの街

監督:イヴァーノ・デ・マッテオ出演:マルゲリータ・ブイ、ヴァレリア・ゴリノ、アンドレア・ピットリーノ、ブリュノ・トデスキーニほか2017年10月28日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー配給:クレストインターナショナル

はじまりの街

撮影/柳原久子 文/志村昌美

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志村昌美
映画宣伝マンとして洋画や邦画の宣伝に携わったのち、ライターに転向。イタリアとイギリスへの留学経験を経て、日・英・伊・仏のマルチリンガルを目指しながら、現在は海外ニュースや映画紹介、インタビューなどを中心に女性サイトや映画サイトで執筆中。女性目線からみたオススメの映画を毎月ご紹介していきたいと思います! 日々の試写の感想などをつぶやき中:https://twitter.com/masamino_19

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