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東京新聞記者 望月衣塑子さんのぶれない姿勢と精神力はどこから

東京新聞記者 望月衣塑子さんのぶれない姿勢と精神力はどこから

菅官房長官を質問攻めにして"時の人"となった望月衣塑子さん。前編では、小柄な望月さんのどこから、あのパワフルな質問力が出るのかに注目しました。そもそも新聞記者とは「他人に知られたくないこと」を聞き出すのが仕事。取材相手に嫌われたり叱られたり、時には身の危険を感じることも少なくありません。

とくに報道機関や政治の世界は、マッチョで体育会系な現場。現在は二児の母親でもある望月さんですが、仕事へのモチベーションを維持するために、どのような工夫をしているのでしょうか。後編は、そんな望月さんの働き方やメンタルコントロールに焦点をあてます。

車の中でひとり泣いた駆け出し記者時代

千葉支局に配属されて間もない駆け出し記者の望月さんは、ある事件の容疑者逮捕に対する遺族コメントを取って来るようキャップから命じられます。

「ところが訪問した家族からは『勘弁してください。言いたいことは何もありません』とだけ言われました。私も本当につらいだろうな......と思って、『これ以上聞けません』と支局に連絡したんですね。でも、『それじゃ遺族の無念さが、読者に伝わらない。もう一度聞いてこい』と命令されました。さすがにそのときは『なんて仕事に就いてしまったんだ』と思い、車の中で涙を流しました。でも、その一方で、『とはいえ、一旦やり出した仕事だ。もうやるしかない』と腹をくくったことも事実です」。

また、事件情報のキーマンである県警幹部と、いかにして関係性を築くかも新聞記者の腕の見せどころ。ある刑事さんが早朝マラソンを日課にしていると聞きつけた望月さんは、毎朝5時前に公園の入り口で彼を待ち伏せしました。「その頃は日をまたいでの夜回り取材や、深夜の酒席にも参加したりで、ほとんど寝られずにフラフラになっていたことも度々ありましたが、雨の日以外は一時間ほど共に走ったんですね。そうしたらあるとき、『朝食を食べていけ』と、最終的には官舎の中に招かれるようになりました」。

「働き方改革」が叫ばれる昨今からすると、かなりハードな現場ですが、それもこれも「この人になら話そう」という関係性を構築するため。多くの新聞記者はそれぞれ、そういう工夫をして情報源を確保しているのです。

「変装して警察を尾行したこともありました。服装も髪型も毎日変えていたのですが、あとで聞いたら『バレバレだったよ』と。どうやら、どんな格好をしていてもバッグがいっしょだったのが敗因でした(笑)」。また、警察幹部のオジサマ達にしてみれば、彼女のような若手女性記者は「娘世代」に相当するのもあってか「『そこまでするなら』という熱意が通じて、可愛がられたのかもしれませんね。若い頃だからこそ、できたことかもしれませんが」。

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結婚・出産を契機に"昼間の仕事"にシフトして

事件取材を重ね、順調にキャリアを積んでいった望月さんですが、一時は内勤部署への移動を命じられ、現場から引き離されます。悶々とした日々が続き、他社への引き抜き(移籍)話もありました。しかし、2007年夏に現場記者に復帰し、さらに2009年8月には大手紙の先輩記者と結婚。2011年には女の子を出産と、人生の転機が続きます。

「2012年4月に経済部に復帰したのですが、出産前のような"夜討ち朝駆け"の取材はまずできないことに気づきました。でも、その時の上司から『日々の取材にはこだわらずに、もっとテーマを絞り込んで、問題意識を強くもって掘り下げてみたら』とアドバイスされ、調査報道に腰を据える決意が持てたんです」。

第二子の育児休暇からの復帰後も同じ環境を希望し、その後、取材テーマを"武器輸出"に絞り、書籍の執筆や講演活動にも積極的に取り組むようになった望月さん。基本的に朝9時から夕方6時までの"昼間の仕事"に変わりましたが、「働き方のシフトチェンジ」をポジティブに捉え、以前とはまた違う充実感を得たのだそうです。

ぶれない姿勢をキープするメンタルテクニック

精神的なダメージを被りがちなハードな職場環境において、気持ちを凹ませっぱなしにしないためにはどうすればよいのか。望月さんのメンタルテクニックを紹介します。

1:次の取材対象に「気持ちを切り替える」

「話したくないこと/隠しておきたいこと」を聞き出す新聞記者の仕事では、取材対象との軋轢が生まれることも日常茶飯事。相手に嫌われても「心の平静」を保つためには「こだわらない」ことが鍵なのだそう。

「取材対象に嫌われたり、会社でお小言を言われても、また次の現場や取材に向かわなければならないので、そこで気持ちを切り替えます。『厄介なヤツが来た』と疎まれても、その関係は永遠には続きません」。

2:味方の声に勇気づけられる

政権批判を表明すれば、強烈なバッシングを受けることも。社会部記者なのに定例会見の質問時間を独占したことで、社内外から批難されることもありました。そうした状況でも凹まない秘訣は、世間や会社や周囲の人々と関係性を築いて、応援者を増やすこと。

「もちろんバッシングされてしんどいなと思うこともあります。けれど、取材や講演の仕事を通じて、私を支持してくれる人もたくさんいることを知りました。現役の政治家や官僚からも応援の連絡が直接、電話でかかってくることがあるんですよ」。

新刊『新聞記者』の中には、他紙の先輩記者である夫の強いサポートや、同業他社の記者仲間からのエールなどにも支えられていることが綴られています。

「以前の私は、他社に先んじてスクープ記事を取ることをモットーにしていましたし、もちろん新聞記者である限り、スクープは欲しいです。とはいえ、夜討ち朝駆け取材はできませんし、また今は新聞の影響力が限られた時代です。状況によってはメディアが社の垣根を超えてつながることも必要だと思うようになりました」。

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本人も「意外と小さいですね、とよく言われます」と言うほどに小柄な望月さんだが、そのパワフルな言葉と姿勢は終始圧倒されるほど。時の政権を相手に孤軍奮闘する望月さんの姿を描いた『新聞記者』は、働く女性たちにとっても勇気とヒントを与える一冊になるはずです。

20171018_isokomochizuki_2.jpg『新聞記者』

著者:望月衣塑子出版社:角川新書価格:864円(税込)

望月衣塑子(もちづき いそこ)さん

1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。現在は軍学共同、森友学園・加計学園問題を中心に取材。著書に『武器輸出と日本企業』(角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(あけび書房、共著)。二児の母。

取材・執筆/木村重樹、撮影/野澤朋代

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