2017年もついに残り1か月を切り、「12月で今年の集大成」といきたいところだが、忙しさのあまりいつもよりもパフォーマンスが低下してしまうのを感じている人もいるはず。そんなときこそ、どんな状況でも一流の仕事をし続けている人の姿は見習いたいもの。
そこで、いまこそ観るべき映画として注目したいのは、誰もが憧れる街パリで芸術文化をけん引するオペラ座の舞台裏に迫ったドキュメンタリー『新世紀、パリ・オペラ座』。
過去幾度となく映画の題材とされてきたオペラ座だが、今回は新たな視点で映し出されており、本国フランスでも大ヒットとなった。劇中ではバレエやオペラを楽しむこともできるが、経営陣やスタッフたちが奔走する様子など、働く女性にとっては興味深いシーンも数多く見ることができる。
そのなかでも本作の"主役"といっても過言ではない人物といえば、2014年からパリ・オペラ座の総裁を務めるステファン・リスナー氏。オペラ座のすべてを任された重責は想像に難くないが、今回は多忙を極めるリスナー氏に単独インタビューを行い、世界最高峰の舞台を取り仕切るための秘訣や今後について語ってもらった。
多様性あるチームをまとめていくには?
これまでにミラノ・スカラ座をはじめ、さまざまな劇場で芸術監督や総裁としての実績を積んできたリスナー氏。それだけにガルニエとバスティーユという2つの劇場を抱えるオペラ座の総裁としても見事な采配を見せているが、国や文化が異なる人たちをまとめ、トップとして率いていくために意識していることはあるのだろうか。
ステファン・リスナー:オペラ座にはトータルで約1,700人の従業員がいて、うち600人が各部門のアーティストたちで構成されています。企業のように合理的に運営できる部分もありますが、それぞれ芸術家としての感性があるので、非合理的にならざるを得ない部分もありますよね。だからこそ、私が気をつけているのは、すべての人と対等な人間関係をきちんと築くこと。昔みたいに上から威張るのではなく、かといってやりたい放題にさせるのでもなく、ほどよいバランスを持つということです。そして、一番注意していることは、どんな問題が起ころうとも透明性を保ち、なんでも正直に語り合い、嘘をついたり、ズルをしないということですね。
人の上に立つ人間として欠かせないことは?
思わず日本の政治家たちにでも聞かせたくなるようなコメントだが、その言葉を実践しているのは本作を観れば一目瞭然。リスナー氏はどんな場面にでも躊躇することなくカメラを入れており、今回撮影されたなかでも「これは使わないで欲しい」というようなシーンは一切なかったという。そこで、そんなリスナー氏が考える「人の上に立つ人間として必要な資質」についても聞いてみた。
ステファン・リスナー:私がアドバイスとして言えることは、まずは自分らしくいること。そして、誰かと向き合うときは、相手に信頼してもらえるようにしっかりと自分を持ち、それを理解してもらうことです。もうひとつは、以前私が偉大なある指揮者に言ったことですが、「仕事は自分のためにやろうとしたら失敗するけれど、組織のためにやるんだという気持ちでやれば成功するよ」というもの。つまり、仕事に全身全霊でやっているというのをちゃんと見せるということも必要だということですね。
実際、リスナー氏のその言葉を裏付けるエピソードは、インタビューのなかでも垣間見ることができたが、それは完成した映画を観た感想を求められたときのこと。作品においてもっとも気にかけていたことは、オペラ座の全従業員がちゃんとまんべんなく映っているかどうか、そして彼らがこの作品を気に入ってくれるかどうかだったという。
自分がどう映っているかという心配よりも従業員の気持ちを優先しており、一緒に働く仲間たちにいかに寄り添っているかを伺わせる。仕事とは自分のためにするものだとつい考えがちだが、周りを思いやることで同僚や部下の士気も高まり、結果的には自分に返ってくるということなのかもしれない。
テロがあったことはいまでも忘れられない
リスナー氏が総裁に就任してから3年が経つが、その間はオペラ座バレエ団の芸術監督であったバンジャマン・ミルピエの電撃退任をはじめ、激動の時期だったといわれている。そんな日々を振り返ってみて、一番心に残っていることは?
ステファン・リスナー:感動したことはたくさんありますが、一番心を動かされたことを挙げるとすれば、2015年11月13日のパリ同時多発テロ事件でバタクラン劇場が標的とされたときでも、翌日の朝7時にはガルニエの従業員がみんな来てくれたときです。当然誰もがショック状態でしたし、知り合いが犠牲になったという人もいました。それでも、自分たちはいつも通り働き続けるんだという姿勢を見せてくれたからです。そして、映画にもありますが、バスティーユで1分間黙とうして、フランス国歌をみんなで歌ったときに強い連帯感が生まれた瞬間は感動的な出来事でした。ただ、一番辛くてショックだったことも同じくテロのときだと思います。
どんなに苦しいときでも芸術の持つ力を私たちに見せてくれるからこそ、長きにわたってオペラ座は世界中から愛されているのだろう。では、40年のキャリアを誇るリスナー氏から見たオペラ座の魅力とは?
ステファン・リスナー:私はいままでにミラノのスカラ座やマドリードの王立劇場、ウィーンやベルリンの劇場など、さまざまな国で仕事をしてきていますが、いろんなところを経てきて思うのは、パリ・オペラ座というのはほかよりもすべてが優れているということだけでなく、スタッフの技術やアーティストの受け入れ態勢など、相互的なノウハウが本当にすばらしいということ。それこそがオペラ座を唯一無二の存在にしているのだと思います。そして、パリという街が有名なのはもちろんですが、オペラ座がここまで有名なのは、やっぱり全従業員のおかげ。彼らの真面目な取り組み、要求に応える能力の高さ、それらすべてが人気の秘訣だと思います。
リスナー氏の言う通り、アーティストやスタッフのひとりひとりがオペラ座を支えていることは、映画のなかでも見ることができる。そうして歴史を積み重ねながら伝統を守っている一方で、革新的なことにもチャレンジし続けているが、今後の展望についても聞くことができた。
ステファン・リスナー:2019年は記念となる年なので、それが新しいチャレンジとしてあります。というのも、オペラ座の起源となる王立音楽舞踊アカデミーが1669年に創設されてからちょうど350年、そしてバスティーユが設立されて30周年に当たる年になるからです。そのために2019年の9月からアニバーサリーイヤーとして、いろんなことが計画されています。ガルニエとバスティーユはもちろん、オルセー美術館やコレージュ・ド・フランスといった学術機関などとコラボをしたり、地方でもさまざまなイベントを行ったりしながら1年かけてお祝いすることになっているんですよ。
もはやオペラ座はパリだけでなく、フランス全体にとって芸術の象徴であり、礎でもあるのだと感じさせる。そして最後にはcafeglobeだけにとっておきの情報も教えてくれた。
ステファン・リスナー:実はこれはまだどこにも発表していないので今回が初公開になりますが、その年のスローガンというのはフランス語で「Moderne depuis 1669」となります。直訳すると「1669年以来モダンである」ということですが、つまり1669年からずっと最先端を行っているという意味です。私たちにとってはそれが大きなプロジェクトとして、いま一番の目標となっていますね。
* * *
世界初公開となる内容にもかかわらず、気さくに話してくれたリスナー氏だが、誰に対してもサービス精神の気持ちが働いてしまうのは、長年世界中の人たちを楽しませることだけを考え続けてきたからこそかもしれない。
そんなリスナー氏がオペラ座とともに仕掛ける一大イベントだけに、ぜひとも実際に体感したいと思う人も多いはず。映画を観てモチベーションを上げたあとは、働く自分へのご褒美として2019年にパリ・オペラ座に行くことを計画してみては?
『新世紀、パリ・オペラ座』
監督:ジャン=ステファヌ・ブロン出演:ステファン・リスナー、バンジャマン・ミルピエ、オレリー・デュポン、フィリップ・ジョルダンほか配給:ギャガ2017年12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー© 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTShttp://gaga.ne.jp/parisopera/
文/志村昌美

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