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「独裁力」も、ときには欲しい。 グローバル時代の新リーダーシップ

組織の中で働いていると、ときに権力というものがつくづく嫌になることがあります。管理職として職務に従事していたら、理想論だけでは成り立たないジレンマに陥ることもあるでしょう。しかし、真の権力や独裁力とは、一概にダークなものというわけではないのかもしれません。木谷哲夫著『新・君主論』 より、日本の組織に必要な権力や独裁力における概念をご紹介します。

権力はリーダーシップの“最重要”要素

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現在、必要とされる個人の能力とは、分析力、論理力ではありません。分析力や論理力は今やコモディティ化しています。今、最も必要とされているのは、社会脳・ソーシャルなスキルを持ち、強いリーダーシップを発揮できる人なのです。体を張ってポジティブに権力闘争を行える人、やりたいことのために政治的に動ける人。戦闘力のある人。こんな人が、今後ますます価値ある存在になります。

006~007ページより引用

独裁的な力の持つ効果を正しく熟知し、権力をポジティブに使うことができる。そんな真の社会的スキルを持つ人が、今、求められていると著者は語ります。「今の束縛状態を耐え忍べば、そのうち大きく報われるはず」と考えながら日々を過ごす「待つ人」には、本当に活躍する機会など最後まで訪れないといいます。そもそも、権力や政治にまつわる事柄について、穢れたもの・悪いものとばかりとらえていると、仕事から距離を置いているシニカルな傍観者になってしまうのだとか。

現実世界の混乱にしっかりと足を踏み入れて、感情移入し、もがいていく。なぜなら、権力や政治というものは、リーダーシップにおいて欠くことができない一部だからと著者はいいます。組織のパフォーマンスを上げていくには、どういう権力構造がいいのかと、権力を握るための抗争や政治闘争のエネルギーを、ポジティブにチャネリングしていく。強いリーダーが必要な時代、強い権力の持つポジティブな側面を正しく認識していくときが、いよいよ今の日本にも来ているようです。

世界で通用する強い組織には「良い独裁力」が不可欠

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photo by Shutterstock

企業は民主主義で運営されているのではありません。むしろ独裁国家に非常に似ています。企業の基本原則は民主制ではなく、権力の集中、言い換えると独裁です。(中略)古い組織でも、改革し大きなイノベーションを起こすために権力の集中が必要になります。(中略)
みなが自分の居心地を良くしたい、だけでは、組織は老いて沈滞します。自らが持つコンセプトの実現のために、人間の性に逆らい邁進する強い権力を持つリーダーシップが必要になるのです。これを「良い独裁力」と言います。

068~069・078ページより引用

日本の職人が持つ高い技術や、現場が持っている優秀な力。しかし、それは単品技術の話であって、産業レベルで世界をリードする話とはまったく別であると著者はいいます。その方面では世界最高レベルであっても、中国・アメリカ・台湾などの企業が入れ乱れて戦っている中にあって、日本の組織の存在感は衰退局面にあるようです。

たしかに、世界の時価総額を見れば、アップルやアマゾン、アリババやテンセントといった新興のベンチャー企業が上位を占めています。大成功している大企業の最大の特色は、独自の新技術を売りにしているわけではなく、創業者への権力の集中にあるのだとか。電子決済の先駆けであるPayPalの創立者、かのテスラCEOのイーロン・マスクが、社員あてに送ったメッセージ。その内容は、以下の3つであったといいます。

1. テスラのような最先端の新興企業でも、組織内に壁ができ、大企業病がはびこる傾向があること。
2. 従業員はどうしても居心地のいいサイロを作り出し、自分の安住の地を作り出そうとすること。
3. トップが強力でないと、人間の組織が持つその強い傾向を打ち壊すことはできないということ。

強い企業を作り、人間の本性や組織の自然な慣性に逆らうためには、とてつもない強い権力「良い独裁力」が必要であることが、この内容からも見て取ることができます。

良い独裁者とは、戦略や人柄よりも“実行力”

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photo by Shutterstock

トップの独裁的権力を強化する米国型の仕組みは、権力の重要性がよくわかっているからこそ生まれたものです。当然、当たりはずれもありますが、総体でここ数十年の株式時価総額の伸びを見ると、優れたメカニズムであると評価できるでしょう。それでは、米国企業型の良い独裁者とはどんな人でしょうか? 実はアメリカのCEO選びのやり方の特徴は、戦略立案の能力と、権力行使の能力を切り離し、後者をより重視しているところです。極論を言うと、CEOとなるには、戦略面より権力行使のスキルが重要になります。

082ページより引用

戦略立案というものは社内の知恵者やコンサルタントでもできますが、権力の行使というものはCEO本人にしかできないものだと著者はいいます。たとえば、業態がまったく違う企業のトップを歴任し、各組織で成果をあげているトップが世界中にいます。彼らはすべての業界知識があるわけではないのですが、結果を出せているのはなぜなのでしょうか。それは、決断し、権力を行使し、立て直して動かす力がCEOになるような人物にはあるからなのだとか。業界知識や経験などが重視されるのは、トップではなく従業員レベルです。権力を行使する力・権力を行使して結果を出した経験が、社長選びにおいて一番大事だといえるようです。

さらに著者は、人柄の良さでリーダーを選ぶことはしてはいけないとも語っています。日本社会でリーダーといえば、立派な人格を期待されますが、行き詰った組織では、決断力・行動力があり、難局を打開するリーダーが必要なのだといいます。自分の意思を抵抗勢力に対して貫徹できる力、強い権力を行使し、決断して結果を出せる独裁力が最大のポイントのようです。

本当に強い組織を作るためには、権力や独裁者に対する概念を、丸ごとアップデートする必要がありそうです。

新・君主論

著者: 木谷哲夫
発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン
定価:1,500円(税別)

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ナカセコ エミコ
(株)FILAGE(フィラージュ)代表。 書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っている。「働く女性のための選書サービス」“季節の本屋さん”を運営中。

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