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米国に広がるサケ人気。メイド・イン・ブルックリンの日本酒 [The New York Times]

The New York Times

一見、ブランドン・ドーガン氏(47)はいかにもブルックリンのプロの醸造家といった感じだ。オレゴン州ポートランド出身の彼は、きちんと整えられたヒゲにチェック柄のボタンダウン・シャツといういでたち。以前は、高度な発酵技術に精通した自家醸造者だった。

2018年1月には、ビジネスパートナーのブライアン・ポーレン氏(36)と一緒にBrooklyn Kura(ブルックリン・クラ)」という醸造所をオープンした。しかし、彼が醸造しているのは、ビールでもリンゴ酒でもなく、酒(サケ)だ。

全米に約15か所あるサケ・ブリュワリー

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「Brooklyn Kura」の醸造者ブランドン・ドーガン氏。ピザ用のスパイスシェイカーを使って、蒸した米の上に種麹をふりかける。2018年2月15日 ニューヨークで撮影。(George Etheredge/The New York Times)

“サケ”は米を発酵させて製造する日本生まれのアルコール飲料で、現地では“ニホンシュ”と呼ばれている。

このサケは、アメリカのクラフト・ビバレッジ業界ではまだまだ未開拓の分野だ。アメリカ国内には小規模な蒸留所やビール醸造所がたくさんあるが、ニューヨーク州内では日本酒の醸造所はこのBrooklyn Kuraが初めてだ。ちなみに、全米ではBrooklyn Kuraを含めて約15か所しかない。

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醸造タンクのチェックをするブランドン・ドーガン氏。(George Etheredge/The New York Times)

また、Brooklyn Kuraは、ニューヨーク在住の日本人の日本酒ソムリエ、新川智慈子ヘルトン氏をはじめ複数のエキスパートに、米国内の日本酒醸造所として初めて絶賛された。

多くの日本酒ソムリエと同じく、新川氏はアメリカ産日本酒を評価する際に、やんわりとした社交辞令的スタンスで行ってきた。1000年の歴史を持つ日本伝統の技術で作られた日本酒と同じくらいの感動がなかった場合は、ほとんどのアメリカ産クラフト・サケについて「確かに良い」などと評価してきた。

しかし、Brooklyn Kuraは違うと感じたようだ。新川氏は、「彼らの醸造するサケは、とてもソフトでまろやか。メイド・イン・U.S.A.のサケを飲んで『オーマイゴッド』と言ったのは初めてです」と語った。

日本で行われた友人の結婚式が出会いのきっかけ

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発酵中のもろみをかき混ぜる。(George Etheredge/The New York Times)

ドーガン氏とポーレン氏が醸造所をオープンしようと決意したのは、5年前。日本でお互いの友人の結婚式に参加したのがきっかけで知り合ったのだという。二人は、山頂にある昔ながらの小さな蔵元を見学した。そこでは、酵母菌株と地域の天然水、特別に栽培した米と自家製の米麹を使って日本酒を醸造していた。

「その様子を見ながら、『これこそが職人技。なんでみんな、これをアメリカでもやらないのかなあ?』と話していたんです」ポーレン氏はこう振り返った。

お酒が入っている時に語った夢というものは、たいがい日の出とともに蒸発してしまうものだ。しかし、この時だけはそのまま残った。ポーレン氏がニューヨークに、ドーガン氏がポートランドに戻った後も、二人は連絡をとり続けた。当時、ポーレン氏は「アメリカン・エキスプレス」でアナリティクス&テクノロジー関係の仕事を、ドーガン氏は、オレゴン健康科学大学の研究機関で生化学者をしていた。

自宅で醤油づくりの経験をいかす

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ビジネスパートナーのブライアン・ポーレン氏(左)とともに、作業をするドーガン氏(右)。(George Etheredge/The New York Times)

ファースト・ステップは自宅でサケを作ることだったと、ポーレン氏は語った。そして、「予想していたよりも、よくできた」という。とりわけ得意だったのは、ドーガン氏だった。彼は、科学のバックグラウンドと20年の自家醸造経験の両方を持ち合わせていた。しかも、醤油づくりの経験まであった。醤油にも、麹の一種が使用される。

2016年にドーガン氏はブルックリンに引っ越し、2017年9月にはサンセット・パーク内にある複合施設「インダストリー・シティ」で準備をスタートした。

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特注の酒米蒸し器には、遊び心でNASAのマークがついている。(George Etheredge/The New York Times)

アルコール度数はワインと同じくらいだが、醸造方法はビールの方に似ている。麹を植え付けた米に、酵母・水・蒸米ゆっくり混ぜてから数週間発酵させる。そして、固形物をおおまかに取り除くために絞られる。残った固形物については、その後熟成させるか、またはろ過することもできる。

1か月間に及ぶプロセスの中で要となるのが、米麹の培養だとドーガン氏。この作業は、何日間もかかり骨の折れる重労働だ。

ドーガン氏とポーレン氏は、もっと伝統的なスタイルでサケを提供しようと計画中だ。実際に作っているところを、バーの店内で客に見せるのだという。そして、“シボリタテ(絞り立て)”や“オリザケ(滓の残っている濁り酒)”などを振る舞う。さらに、発酵タンクから直接汲んだモロミを、焼き物の器に入れて客に提供するサービスまで考えている。

競合が次々とニューヨークに進出。日本の旭酒造も

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もろみ(George Etheredge/The New York Times)

東京在住の日本酒伝道師ジョン・ゴントナー氏は、ドーガン氏とポーレン氏が基礎を一番大切にしていることを高く評価した。ゴントナー氏は、英語圏の日本酒専門家としてはトップクラスの人物だ。「Brooklyn Kura」のサケについてメール取材したところ、ゴントナー氏からは「すごく、すごくいい」という評価が。「もっとも感銘を受けたのは、彼らがまず基本に従って忠実に再現し、そしてその次にアレンジを加えて改良していったこと」。

ポーレン氏はゴントナー氏のソムリエ・セミナーに参加したことがあるが、ゴントナー氏自身はほぼ独学で学んだという。ゴントナー氏が学び始めた当時は、現在のようにYouTube動画やアプリなどなかったので苦労したようだ。また、日本にある伝統的な蔵元のインターンシップにも参加。オレゴン州にある創業21年の醸造所「SakeOne(サケ・ワン)」で短期間働いたこともあった。

しかし、ニューヨーク唯一のサケ・メーカーとして「Brooklyn Kura」が独走し続けるのは、難しいようだ。まず、「SakeBrooklyn(サケ・ブルックリン)」という会社が、2019年初めまでに建設地を探そうとしている。 日本メーカー「旭酒造」も、まもなくハイド・パーク内で大規模な醸造所の建設に着工する予定だ。近くにある料理学校「カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ」と協同で、日本酒教育プログラムも開発する予定だという。

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「Brooklyn Kura」のプロダクト(George Etheredge/The New York Times)

「これらはすべて、アメリカ国内でサケのプレゼンスが高まっている証拠だと言える」こう解説するのは、全米日本酒協会(ASA)創設者のティモシー・サリバン氏だ。同協会は、日本酒業界の醸造所・バイヤー・ソムリエ等を結びつけることを目的として、年内には正式に設立される予定だ。

これは、ドーガン氏にとっても良いニュースだ。「サケ作りについて私が初めて学んだことは、一生学び続けなければいけない、ということです」

© 2018 The New York Times News Service[原文:Born in Japan, and Now Made in Brooklyn: Sake/執筆:Rachel Wharton](抄訳:吉野潤子)

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