2018年2月22〜23日トランクホテルで開催されたビジネスカンファレンスMASHING UP超高速交通システム「ハイパーループ」の商用化に向けて開発を進めている、ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ(HTT)社のCEO、ダーク・アルボーンさんが登壇。世界が一変するであろうビッグプロジェクトに果敢に取り組むアルボーンさんをバックステージでインタビュー!
ハイパーループ事業を支えるクラウドソーシング
──さきの講演で、ハイパーループ事業はクラウドソーシングでプロジェクトを進行されていると伺いました。なぜこの手法を選んだのか、もう少し詳しく教えていただけますか?
ダーク・アルボーン:HTTは特異な会社なので説明が少し難しいですね。これまでとは全く違った方法で作った会社で、私たちの方法論はハーバード大学でもケーススタディとして教えられています。まずは会社の成り立ちから説明させてください。
イーロン・マスク氏がハイパーループのアイデアを出した時、私はNASAからも出資を受けるビジネス・インキュベーターNPOにいて、新しいやり方で会社を作る方法を研究していました。オンラインで一緒に仕事ができる人を探せるプラットフォームを作っていたのです。今時はみなほとんど何でもオンラインで済ませます。食料品を買うのも、デートする相手を探すのもオンライン。アメリカではオンラインで離婚することだって可能です。
でも未だにビジネスでは対面が基本です。友人同士バーで飲みながらいろいろ話し合い、一緒に仕事をしようということになりますが、そのうち仲間と自分の問題意識がずれていることに気づき、半年たっても利益を得る仕組みも築けていない……という問題に陥ります。
私たち(事業支援プラットフォームのジャンプスターター社)のコンセプトは、同じ情熱を持った人同士を結びつける仕組みを作ることです。ビジネスのアイデアを公開すると、それに共鳴する人が意見を言ってくれたり、アイデアをシェアしたり、知り合いを紹介してくれる、そんなプラットフォーム(JumpStartFund)を作りました。
イーロン・マスク氏からハイパーループのアイデアを聞いたとき、私たちの仕組みにぴったりだと思いました。許可を得てプラットフォームにあげ、コミュニティの反応を見てみたところ、関わりたいという人が大勢現れたのです。さっそく少人数の会社を立ち上げました。そして社員として働くのではなく、ストックオプションと引き換えにスキルやノウハウ、時間を提供してくれるプロジェクト・メンバーを募ったところ、200人の応募がありました。そこから100人の技術者を採用し、実現が可能かどうかの調査をお願いしました。現在では世界中に散らばる800人以上の個人と47の企業がプロジェクトに関わっています。
他社の優秀な社員もプロジェクトに引きこめる
──具体的にどのように活用していますか? 利点は?
ダーク・アルボーン:(クラウドソーシングを使った)私たちのモデルはとてもユニークです。最初は、問題を解決するには大きなプロジェクト・チームを作ればいいと考えていました。でも人数が増えると、それぞれが何をやっているか互いに十分把握することができず、うまくいきませんでした。そこで、3〜7人の少数精鋭が効率的だということがわかりました。
プロジェクト・メンバーは、それまでの自分の仕事をやめる必要がありません。週末や夜など自由になる時間を使って私たちのプロジェクトの仕事をすることができる。もちろんフルタイムの社員はいます。従業員1人に対し、ストックオプションと引き換えに技術と時間を提供してくれている人が15人くらいの割合でしょうか。1週間に10時間の人もいれば、40〜50時間の人もいます。それぞれ自分のできる範囲で仕事をしてくれています。
日本でベンチャーをやろうと思ったら人材を探すのは大変です。パナソニックやソニーなどの大企業に勤めている優秀な人を、ベンチャーに引っ張ってくるのは難しいでしょう。
しかし、私たちのやり方なら企業に勤めている人も、ベンチャーに引きこむことができる。海の向こうの人とも気軽に仕事ができる。近くに住む平凡なデザイナーに依頼する代わりに、東京の優秀なデザイナーに仕事を頼むことができる。これは大きな力になりますし、たくさんのチャンスを生みます。
──メンバーがバラバラの場所で活動することになりますが、チームとしてまとめる時に意識されていることは?
ダーク・アルボーン:メンバーは自分の時間を投資してくれているというスタンスです。こうした人員に動いてもらうには、社員とは別の接し方をしなければなりません。命令を出せば動いてくれるということではない。依頼している仕事がどのような意味と重要性を持つのかを、納得できる形で、ていねいに説明しなければならない。本来なら普通の雇用関係でもそうあるべきなのですが。
どんな仕事でもそうですが、人にはその人固有のスキルや強みがあります。ビジョンはあるけれど、細かいことが苦手な人。ビジョンを具体的な形に落とし込むのに長けている人。どちらでもないけれど、柔軟性が光る人……、それぞれが自分の得意分野と弱点を理解することが大事です。またリーダーはメンバーの特性を理解し、プロジェクトに最適なチームを構成する必要があります。
ワークライフバランスは、濃さが大事
──ところで、アルボーンさんは世界中を飛び回る多忙な毎日を過ごされていますが、ご自身、そして、社員について、ワークライフバランスをどのようにとるよう努めていますか?
ダーク・アルボーン:これは最も難しい問題だと言えるでしょう。私の問題は、とにかく出張が多いということです。子供と一緒にいられる時間はただでさえ少ない。ですので、子供と過ごす時は他のことを考えないようにしています。一緒にいられる時間の長さではなく、濃さが大事だと思います。結婚していた頃は家にいながらもずっとコンピュータに張り付いていたかもしれませんが、今は子供といるときは、彼らとしっかり向き合うようにしています。
でも、やはり時間のやりくりは難しい。仕事のスケジュールと同じように、プライベートの時間も管理する必要があります。週末はできるだけ会合や仕事の電話を入れないようにしています。
社員のワークライフバランスに関しては、休暇を取るタイミングや長さなどは制限を設けていません。何時間会社にいたかということよりも、やるべき仕事をきちんとしてくれることが重要です。クリスマスや新年には会社を休みにしています。
多角的にものを見ることが強みになる
──巨大プロジェクトを進める上で、予想もつかない問題に直面したり難航する場合もあるかと思います。不安や困難を乗り越えるためのテクニック、教えてもらえますか?
ダーク・アルボーン:起業家をやっていると、ある日は天下を取った気分でも、次の日には何もかもうまくいかず、もうダメだと思ってしまう。精神的にきついけれど、アップダウンが激しいからこそ病みつきにもなる。私は性格的にあまり浮かれたり落ち込んだりしない、揺れ幅が少ないタイプだと思います。それは経営者としては大きな強みです。ただ、それ以上に、今の私は素晴らしいチームに恵まれているのが力になっていますね。これまでの会社では、いつも荷車を一生懸命に引いている心持ちでした。そして社員が増えるたびに責任が増え、荷が重くなっていった。でも今では、一緒に働いている仲間が私の背中を押してくれる。情熱を持って、前に進めるよう押してくれるのです。
対処が難しい問題が起きたときは、しばらく脇に置いておきます。他のことをしているうちに、自然に解決方法が見つかることもあります。
また、同じ経験をしたことのある人と話しをするのもいいですね。起業をすれば、誰しも悩みます。いろんな見方や対処法があることに気づくためにも、コミュニケーションが重要ですね。
大事なのは、同じような考え方の人とばかり付き合わないことです。時には耳が痛いことを正直に言ってくれる人も必要です。自分の意見を正直に言い、相手にも言ってもらう。礼を尽くしながら、意見を戦わせることを躊躇してはいけません。日本では難しいかもしれませんが、大事なことです。いろんなものの見方を取り入れることは強みになります。
ダーク・アルボーンさん(CEO, Hyperloop Transportation Technologies, Inc. / JumpStarter Inc.)
ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ(HTT)社のCEOであり、ジャンプスターター社の創設者兼CEO。HTT社では、ジャンプスターター社の事業支援プラットフォームJumpStartFundを利用して、資金調達のみならず、800名を超える世界各国の専門家を集め、研究開発を行っている。ハイパーループとは、起業家のイーロン・マスク氏が発表し、世間の注目を集めたロサンゼルス-サンフランシスコ間の移動をたった30分で行える未来の輸送手段のアイデア。HTTは、このアイデアの実現に挑んでいる。
未来のトランスポーテーションシステムは社会をどう変えるのか
MASHING UP 2018年2月23日@トランクホテル 1F/DIRK AHLBORN(Hyperloop Transportation Technologies, Inc./ JumpStarter Inc.)
取材/カフェグローブ編集部、通訳/野澤朋代、撮影/小原敬樹(インタビュー1〜3)今村拓馬(セッション4,5)
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