1. Home
  2. キャリア
  3. 日本企業に欠けているもの。リーダーシップと生産性

仕事の本棚

日本企業に欠けているもの。リーダーシップと生産性

20180501_book_1

組織やチームを運営していく上で、生産性をいかにして上げていけばよいのか、その方向性に迷うことがあります。マッキンゼーで人材育成マネジャーを務めた経験を持つ伊賀泰代著『生産性』 より、上手な生産性の上げ方をご紹介します。

補うべきは“リーダーシップ”と“生産性”

私が今回、生産性について本を書こうと思ったのは、日本における(工場以外での)生産性に関する意識の低さが、世界と戦う日本企業にとって、大きな足かせになっていると感じたからです。中略

一定のビジネス経験をもつ人であれば、生産性の定義について大枠の理解はされているはずです。しかしビジネスの現場では、その概念はしばしば軽視され、時には完全に無視されてしまいます。私の専門領域であった人材採用という分野もまた、その例外ではありませんでした。

6・16ページより引用

マッキンゼーの日本支社において17年間務めた著者は、その前半をコンサルタントとして、後半を採用と人材育成を担当する部門のマネジャーとして過ごしたといいます。その経験から、日本企業や日本社会と米国系の企業や社会では、優秀な人材に求める資質や育成方法に関して、二つの大きな違いがあることに気がついたのだとか。一つ目は「リーダーシップについての意識の差」、二つ目は「生産性の差」であるといいます。

米国企業や大学では、リーダーシップとは新入社員も含めた全員が持つべきスキルであると教えられているのだとか。生産性についても同様で、やるべきことの優先順位を明確にして、常に結論を先に表明。無駄な説明時間等をそぎ落とす直截なコミュニケーションスタイルをとることで、少しでも生産性を高めようとしている強い意思があるのだといいます。

20180501_book_3

逆に、日本組織においては、リーダー資質を持つ人とフォロワーシップを持つ人とで組織の和を整えるといった考え方が根強くあります。そして、上司が帰れないと自分も帰れないといった雰囲気や、ただメモをとるだけの会議参加者の存在など、米国企業や大学と対極の状況があることに問題があると著者は語ります。

逆にいえば、日本のビジネスパーソンがもともと持つハイレベルな素質をベースに、リーダーシップと生産性の重要性をしっかり理解して向上に取り組めば、今よりはるかに高い地点に到達できるといえそうです。

生産性を上げる4つの方法とは

まとめると生産性を上げるための方法には、分子の最大化と分母の最小化というふたつの方法があり、さらにそれぞれを達成するための手段として、イノベーション(革新)とインプルーブメント(改善)のふたつがあるということです。

<生産性を上げる4つの方法>
① 改善=インプルーブメントにより、投入資源を小さくする
② 革新=イノベーションにより、投入資源を小さくする
③ 改善=インプルーブメントにより、成果を大きくする
④ 革新=イノベーションにより、成果を大きくする

42~43ページより引用

生産性というと、日本においては主に製造現場における改善運動からの概念というイメージが強くあります。そのため、「生産性を上げる手段=改善的な手法によるコスト削減」という感覚が定着してしまっていると、著者はいいます。たしかに、企画や開発部門で「自由に発想することが重要な仕事に従事している」と自負している人たちにとっては、生産性の向上が自分たちの仕事にきわめて重要であるとは、長らく認識されないままになっている現状があるようです。

20180501_book_4

コスト削減だけではなく、成果の価値を上げること。そして、改善的な方法だけではなく、イノベーティブな発想や技術を駆使して、大幅な生産性向上を達成することも重要であるといえるでしょう。そういう意味でいえば、著者があげた生産性を上げる4つの方法とまったく関係しない部門や業務というものは、どこにも存在しないはずです。

ホワイトカラー業務に従事する人の中には、自分たちの仕事はブルーカラー業務よりも自由度が高く、クリエイティブで難度の高い仕事だと考えていることも多いのだとか。しかし、根拠なき優越意識は、生産性向上のための研修や新制度を導入しようとしても「効率ばかり追い求めていては、いい仕事はできない」という心理的な抵抗に阻まれることもあるようです。

すべての部門で働く人が、謙虚に真摯に、生産性の重要性を意識しながら努力し続けることは、会社全体の利益に大きな変化をもたらしてくれるといえそうです。

部下の育成とチームの生産性アップは表裏一体

最初に結論から書いてしまえば、管理職の仕事とは、「チームの生産性向上のためにリーダーシップを発揮すること」に尽きます。よく「仕事で成果を上げるだけではなく、部下を育成することも管理職の大事な役割」などと言われますが、これはやや不思議な表現です。というのも、「AだけではなくBも大事」という言い方は、「Aを追求するとBがおろそかになりがちだが、どちらも大事である」と聞こえるからです。より直接的に「いくら多忙でも、部下の育成には時間をかけるように」と言われることもありますが、これではまるで成果を上げることと部下の育成というふたつの責務が、管理職の時間を取り合う別々の仕事のように聞こえます。

132~133ページより引用

本来、部下のスキルを上げれば、チーム全体の成果も上がるはずだと著者はいいます。しかし、部下を育成しても当面の間は仕事の成果にはつながらないという前提が、多くの組織における認識でしょう。目の前の成果を上げるには、部下の育成に時間を使うよりも自分が頑張るほうが早いと、多くの中間管理職は一人で負担を抱えがちです。しかし、管理職がそのような発想のままでは組織の生産性が上がることはないと著者は断言しています。逆に、部下のスキルアップが部門の成果を上げるために有効な手段だと認識されれば「忙しくて部下の育成に手がまわらない」から「忙しいから早く部下を育成しなければ! 」へ意識を変えることができそうです。

20180501_book_2

そして、チームマネジメントの手法として、オフィスにストップウォッチを置くことを著者は推奨しています。マッキンゼーで新人育成を担当していた頃、パフォーマンスが上がらない新人コンサルタントに著者が与えていたアドバイスは「キッチンタイマーを使って作業時間を可視化すること」だったのだとか。現在ではスマホで代替できますが、当時はストップウォッチ機能を持つキッチンタイマーを使用。何にどれだけの時間がかかっているのかを自分で正確に把握させることで、付加価値の低い作業にどれほど長い時間を費やしていたか=どれほど生産性の低いかを認識させることができたといいます。

ひとつひとつ効果を計測することで、さらなる改善をうながす。部下の育成と仕事の生産性アップは、業績アップと密接につながっていることに納得できる事例です。

生産性

著者:伊賀泰代
発行:ダイヤモンド社
定価:1,600円(税別)

Image via Shutterstock, Getty Images

  • facebook
  • twitter
ナカセコ エミコ
(株)FILAGE(フィラージュ)代表。 書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っている。「働く女性のための選書サービス」“季節の本屋さん”を運営中。

    仕事の本棚

    おすすめ

    powered byCXENSE

    JOIN US

    MASHING UP会員になると

    Mail Magazine

    新着記事をお届けするほか、

    会員限定のイベント割引チケットのご案内も。

    Well-being Forum

    DE&I、ESGの動向をキャッチアップできるオリジナル動画コンテンツ、

    オンラインサロン・セミナーなど、様々な学びの場を提供します。