この時期になると、ふと、子どもの頃に過ごした夏休みを思い出します。たとえば林間学校の夜、女の子同士でたわいもない将来の夢を語り合ったり。
比較的オーソドックスな願いを語る輪に混じって、「宇宙飛行士になりたい」「科学者になりたい」。そんな突拍子も無い硬派な夢をいきいきと語る理系女子、一人や二人はいたものです。
アメリカ出身の若手女性イラストレーター、レイチェル・イグノトフスキー著『世界を変えた50人の女性科学者たち』 より、古代から現代まで世界を変えるような偉業をなしとげたバイタリティあふれる女性科学者たちの生き方をご紹介します。
勇敢な先人たちから未来へのバトン
「この世界についてもっと知りたい」と願うのは、性別を問わず誰にとっても自然なことです。にもかかわらず、女性が科学を専門的に学ぶことがなかなか許されなかった時代が、かつて何世紀にもわたって続いていました。
この本に登場する女性たちは、そんな逆境にもめげず、驚くべきねばり強さと創意工夫でもって歴史に名を刻んだ先駆者たちです。
彼女たちは優秀な頭脳と強い心、家族や同士の協力に恵まれる運のおかげもあってなんとか研究を続け、今日では偉大な科学者として尊敬されています。
3ページより引用
周囲から協力や賛同を得られなくても、夢を諦めなかった多くの女性科学者たち。現代のオフィスにおいて、ときに見えない壁と格闘している私たちに大きなエールを送ってくれているかのようです。
訳者の野中モモ氏は、このようにいいます。「もし、彼女たちが理不尽な差別に悩まされずに済んでいたら、さらにすごい業績を上げることができていたのではないのでしょうか」
もっといえば、学ぶ機会すら与えられなかった女性たち、道半ばにして諦めなければならなかった女性たち、優れた仕事をしたのに認められなかった女性たち。そうした人生を選ばなければならなかった女性たちが、さらにいたであろうことも決して忘れてはいけないでしょう。
戦い続けた女性科学者たちを筆頭に、先を生きた女性たちのさまざまな人生。誰もが自由に好きなことが学び、やりたい仕事を選択できる未来へのバトンを、私たちは託されているのかもしれません。
ページの一例。レイチェル・イグノトフスキーさんの描いたイラストが満載。
業務効率化を研究した科学者:リリアン・ギルブレス
リリアン・ギルブレスは1878年、9人の兄弟姉妹がいる大家族に生まれました。彼女はカリフォルニア大学バークレー校で文学の修士号を取りました。職場の能率性向上を目指すフランク・ギルブレスの情熱に興味を引かれた彼女は、専攻を心理学に変更し、論文「マネジメントの心理学」を書きました。これは組織心理学および職場における人間関係の影響に着目した初の研究でした。彼女はブラウン大学で博士号を取得しました。
35ページより引用
心理学者であり産業技術者であるリリアンは、ゴミ箱のフットペダルや冷蔵庫の中の棚を発明し、マネジメントのファーストレディとあだ名されていたのだといいます。ただし、その道のりは、平坦なものではなかったようです。
労働者の仕事を効率的に
彼女は、フランク・ギルブレスと共同でコンサルティング業を始めます。労働者の仕事をより早く、より楽にするために、レンガの積み上げや道具の運搬といった単純な作業を研究。動作を分解して、絶対に必要な基本動作を割り出したのだとか。
一部、フランクとの共著を含めて、動作と疲労について何冊も本を書きましたが、名前が出されないこともしばしばであったといいます。当時の出版社が、男性著者一人のほうが権威や信頼性がありそうと判断したというのだから、現在では考えられない話です。
男社会なら、着目点をシフトすればいい
フランクが亡くなると、彼女は一人で会社の経営を引き継ぎました。しかし、顧客の多くは、自分たちの工場経営について、女性に意見されるのを嫌がったのだといいます。
そこで彼女は、主婦たちの問題に着目する方向へとシフト。人間工学と動作研究をもとに、家事労働時間を短縮する新しい道具やキッチンの構造作りに励んだようです。
部屋を見渡せば、彼女が考え出したさまざまなシステムやアイテムが、私たちの毎日を支えてくれているのかもしれません。
研究成果からプライベートな一面までトリビアもたっぷり。 魅力あふれる女性科学者の人生の物語を簡潔に学べます。
コンピュータ・プログラミングの母:グレース・ホッパー
グレース・ホッパーは海軍准将であり、厳格なる先駆者であり、コンピュータ・ブログラミングの母として認められています。彼女は1906年、ニューヨーク市に生まれ、1934年にイェール大学で数学の博士号を取得しました。彼女はヴァッサー大学の准教授でしたが、第二次世界大戦中の1943年、米国海軍夫人部隊(WAVES)に入りました。(中略)「最も有害な決まり文句は『われわれはいつもこのやり方でやってきた』です」と常に世界に呼びかけながら。
57ページより引用
コンピュータ技術の進歩を讃えるとき、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツだけではなく、現代的なプログラミングを開発したグレース・ホッパーを思い出すべきだと、著者は冒頭で語っています。
誰もがプログラミングを学ぶことができるように
グレース・ホッパーは、海軍准将であり、コンピュータ科学者です。戦後、民間セクターに入った彼女は、もし英語でコンピュータに「話しかける」ことができれば、プログラミングはずっと簡単になるだろうと考えたのだとか。
誰もが無理だと思いましたが、彼女はコンパイラを開発し、そこから発展して、史上初・世界共通のプログラミング言語COBOL(コボル)を生み出すことになったのです。こうして、誰もがプログラミングを学ぶことができるようになったというから驚きます。
あたりまえに流されない生き方
そんな彼女は、「ものごとは一方通行で進むとは限らない」ということを忘れないように、さかさまに進む時計を研究室にかけていたのだといいます。さらに、自分のデスクには海賊旗を掲げて、自分のチームが必要とするものを手に入れるためには容赦しなかったといいます。
まさに、女傑。あたりまえに流されない生き方を、常に意識して選択し続けてきた人生であったことがよくわかります。
ここまでの勇気はさすがに出にくいものですが、あたりまえを覆すイメージアイテムを自分の身近に置くアイデア。こっそりいただいてみましょうか。
世界を変えた50人の女性科学者たち
著者:レイチェル・イグノトフスキー
発行:創元社
定価:1,800円(税別)
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