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- 自由になれた気がした、40の夜/お金にならない学び #4
濱野ちひろさん。セクシュアリティ・エロティシズムの文化人類学的研究に取り組む。撮影/祐實とも明
40歳を目前にキャリアからいったん離れ、京都大学の門を叩いたライターの濱野ちひろさんに、なぜ、学問の道に進んだのか、その結果感じたことを綴ってもらう、「社会人の学び」特集番外編。 最終回は、命からがら修士号を取得して、博士課程にまで進んでしまった濱野さんが、彼女にとって学びとは何かを振り返ります。
撮影/宮本敏明
濱野ちひろ(はまの・ちひろ)さん
1977年広島県生まれ。フリーライター。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍中。セクシュアリティ・エロティシズムの文化人類学的研究に取り組む。バツイチ、金なし、ミッドライフ・クライシス、の三重苦をバネに、先行き不透明なケモノ道を邁進中。ルポに「欲望のトレーニング——ベルリン「セックスの祭典」体験記」『新潮45』2018年3月号など。
大学院で40歳になっちゃった!
大学院に来て2年が過ぎ去った。
40歳で修士号を無事に取得し、今は博士課程に進学している。逸脱ぶりに磨きがかかって、むしろ正々堂々と自分らしい40代をスタートできた気がする。
この先がまだまだ長く、博士号を取得するには通常、5~6年はかかると言われている。果たして私がそれまで頑張り続けられるかどうかは定かではない。
じゃあなんで進学したの!? と思われるだろう。
しかも文化人類学で博士号を取得できたとしても、その先の経済的安定は約束されない。アカデミックポストに就ける人は一握り。
それなのに一体全体、なんで私はこんなにもお金にならない学問を続けようとしているのだろう。
我ながら首をかしげたくなるのだが、私が最近思うことは、どんな人生にも「ゴール」なんてないということだ。
目標達成よりも日々熱中すること
何かを達成すれば何かを得られるという成果主義的な考え方に、私は長いこと染まっていたと思う。どうやら違うと思い始めたのは社会で揉まれて悔しい思いを何度もしてから。
今の私は、結果なんてどうでもよいから日々熱中できればそれでいいと思っている。
つまり「明確な目標を達成すること」を人生と捉えるか、「過程を楽しみ続けること」を人生と捉えるかという違いではないだろうか。
そして私は後者を選んだのだと思う。不安との闘いはずっと続くだろう。だが不安なんて、どこに行たって付きまとうものだ。
だから今回も、どん詰まりになるまで研究を続けてみるよりほかないのだろう。
その先にどんな答えがあるのか見当もつかないとしても。一生懸命歩き続け、ついにたどり着いたと思ったら、途方もない断崖絶壁に立っているに過ぎないのかもしれなくても。
失敗にしか見えないそんな「ゴール」が待ち受けていても、私にとってそこに至る道が面白い限り。
Image via Shutterstock
人生の多様化を進めよう
ところで日本の大学は、年齢・国籍・人種の多様化が欧米諸国に比べると圧倒的に進んでいない。
年齢に限って話すと、30歳以上の修士課程の入学者数の割合はOECDの平均値が約28パーセントなのに対して日本では約3パーセントにとどまっている(文部科学省「高等教育の将来構想に関する参考資料」2017)。
日本では人々が画一的に人生を歩みがちだということが、この一例でも伺える。幸い私の周りには30~50代で大学院に入学した人たちが何人かいるものの、そう多くはない。
「20代前半で大学を卒業し、就職し、結婚して家庭を持ち、老後に備えるために働き続けて……」というあたかもまっすぐに見える生き方を誰もがしないといけないわけではないのに、一般的なレールを外れれば厳しい現実が待っているから、人生の多様化が進みにくい。
これは実に問題だ。人材の多様化が進まなければ学問における発想の多様性や、ひいては社会に還元される技術的な革新もまた滞ってしまうだろう。
Image via Getty images
あなたが世界を変えるのかもしれない
2年ちょっと前に京都大学大学院への進学を報告したとき、たくさんの人々、なかでも特に仕事を通して面識のあった様々な研究分野の教授たちの多くが、こちらが恐縮してしまうほどに私の方針転換を喜んでくれた。
「頑張れ! やってやれ!」という興奮が、彼らの表情と励ましの言葉に共通していた。
学問に身を投じてきた人たちは、誰かが学問の扉を叩くのをこんなにも歓迎してくれるのかとその時にはただ驚いたのだが、今になって思うに、彼らはよく知っていたのである。
「学問とは常識を、そして世界を変える力を秘めるものだ」ということを。そして、その実践には年齢も立場もなにもかも関係がなく、ひとりひとりに可能性があるのだと。
もしもどうしても変えたいこと、知りたいことがあるのなら、学問はとても有効な手段のひとつだ。
あなたが世界を変えるのかもしれないのだから、希望を思いっきり掲げて、飛び込んでみてほしい。そりゃあ、人生をなげうつことになるかもしれないが。
でもそんな生き方も、悪くないんじゃない?
*第1〜3回はこちら
文/濱野ちひろ
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