書評として紹介した『働く大人のための「学び」の教科書』。今回は著者である立教大学・経営学部教授の中原 淳先生に「大人の学び」の大切さについて改めてお話を伺いました。
中原 淳(なかはら・じゅん)さん
立教大学経営学部教授。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun
仕事人生を全うするには、自分のピークを見極めることも必要
20年以上、新人や管理職の育成といった「キャリアのステップアップ」に関する研究を続けてきた中原先生。その中で、「長い仕事人生を完走し、キャリアを全うするための研究」に比重を置くようになったといいます。
研究テーマをシフトするひとつのきっかけが、「これから仕事人生が長くなっていくんだろうな」という予感だったそうです。
「少子高齢化で社会保障の財源も限られ、年金をあてに老後の生活を設計することが難しくなってきました。そのような状況の中、現在現役で働いている世代が直面すると予想されるのが『定年レス』。先日化粧品会社のポーラが働くことができる年齢の上限を撤廃しましたが、元気なうちは働き、長期化する自分の仕事人生を全うしなくてはならないという時代に移行していることのひとつの例だと思います」(中原先生)
これまではひとつの組織で通用することを学び、管理職を経て退職するというキャリアプランが想定されていましたが、「定年レス」の時代に突入しつつある今、役職を降りた後も、仕事や環境を変化させながら働き続けることが求められています。
「前向きにとらえればずっと働き続けられるということですが、難しいのは、自分の能力や成果のピークを見極め、次をどう切り返すかを考えること。とくにある分野で成功を収めた人ほどなかなか過去の栄光を捨てられないので、変化に対応するのがしんどいかもしれません」(中原先生)
中原先生の著書『働く大人のための「学び」の教科書』(かんき出版)。
学び続ければ、時代の変化とともに歩むことができる
ずっと働き続けていくために大切なのが「学び」だと中原先生は強調します。
「これからを生きる私たちに必要なのは、時代の変化に順応しながら学ぶこと。もし何もしなかったら、次世代の子どもより劣る存在になってしまいます。たとえば、今の子どもは学校で英語やプログラミングを学んでいますが、その世代が社会人になったとき、大人である自分が何もしていなかったら当然のように逆転されてしまう。時代の変化とともに新たに必要になる知識やスキルを学び直さないと、長期化した仕事人生を全うすることが難しくなるのです」(中原先生)
とはいっても、日々の業務に追われて学ぶ時間はないし、そもそも何を学べばよいのかわからない……という人も多いでしょう。
「日銭を稼ぐことはもちろん大事です。一方で、仕事を続けていくために将来を見据えることもしなくてはならない……超難問ですよね(笑)。でも、変化に対して柔軟になり、細々とでも仕事を続けられたほうがハッピーだと思いませんか? それにこの課題は日本国民全員が抱えざるを得ないもの。自分だけではないと思えば、少し気が楽になるかもしれません」(中原先生)
「原理原則」を知り、自分に必要な学びを見つけよう
大人が学びを考えるときに必要なのが「原理原則」を知ること。なぜなら、「学びに対する知恵がないと、やたらめったら弾を撃ってしまう」からだそうです。
「とくに日本人は学びに対するイメージがせまい気がします。学び=資格を取ることだと思っている人も多く、誰でも取れるというキャッチフレーズに踊らされて、興味もない資格を取ってしまったり……。資格は他の人との差異を示すものなのに、誰でも取れる資格というのは矛盾していますし、そもそも興味のないことは続きません」(中原先生)
「新たな学びを始める前に、まず自分がどうなりたいか、そのためには何をすればよいのかを考えてほしい」と中原先生。
次回は7月15日(日)公開予定。社会人の学びの原理原則をより具体的にご紹介します。
働く大人のための「学び」の教科書
著:中原 淳
出版社:かんき出版
定価:1620円(税込み)
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撮影/中山実華

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