毎日お茶くみをする事務員からスタートしたというキャリア。そこから、意志と行動によって「心が躍る」仕事をつかみ取ってきたフルラ ジャパン代表取締役の倉田浩美さん。
プライベートでは2匹の猫と暮らし、新しい社員を自宅に招いて手料理をふるまう気さくで朗らかな女性だ。自ら扉を開き、紡いできたこれまでのストーリーは、多くの人に勇気を与えてくれる。
倉田浩美(くらた・ひろみ)さん
フルラジャパン株式会社代表取締役。地元・福岡の電気メーカーの事務スタッフとして働きはじめ、2年後に単身渡米。セントラルワシントン大学を卒業後、大手会計事務所プライスウォータハウスクーパースに就職。シニアコンサルタントとして小売業のコンサルティングなどを提供する。帰国後、1998年ギャップ・ジャパンに入社。財務企画、マーケットリサーチなどを担当した後、2002年コーチ・ジャパンにファイナンス・ディレクターとして入社、2003年からはマーケティング担当シニアヴァイスプレジデントに就任する。2014年9月より現職。
短大卒業後、苦労した就活
福岡出身の倉田さんは、バブル真っ盛りのころに地元の短大を卒業。周囲が続々と就職を決めていく中、なかなか内定をもらうことができなかったそう。卒業後の5月にやっと決まったものの、希望とは異なる電気メーカーだった。
「制服を着て事務仕事をして、3時にお茶くみをするのが日課でした。まだ女性の社会進出が難しい時代で、キャリアアップの願望も持てなかったのです」
小さなころから父親に「女性の社会進出は難しいから、手に職を持ちなさい」と言われていた倉田さん。入社後2年経ったころ「まずは、何かに挑戦してみよう」と、好きだった英語を伸ばすべく、アメリカの語学学校へ行くことに。両親にも相談せず決断したが、決まってから話すと快く応援してくれた。
アメリカ留学も終わりに近づくと、「1年の語学学校では何かを身につけたとは言えない」と考える。周囲の影響もあり、セントラルワシントン大学へ進むことにした。
コンサルティングの仕事でファッションと出会う
大学を卒業後はワーキングビザを取得し、現地で就職することに。会計事務所の人事担当者に直接連絡をとってアプローチし、内定を得た。
監査部として入ったものの、なんとなく「心が躍らない」と感じていたのだとか。そんなとき、コンサルティング部に、日本語を必要とするファッション関連のプロジェクトの話が持ち上がった。
「もともとファッションは好きでした。母がファッション誌をよく購入していて、子どものころからイッセイミヤケやコムデギャルソンなど、先鋭的なデザインをあこがれの目で眺めていました。ファッションには消費者としての想いがたくさんあるので、その意見を言えるのがとても面白かったんです」
ファッションに出会い「心が躍る」体験を経て、この世界でキャリアを重ねていきたいとの思いが募った。
社長に履歴書を送って直接アプローチ
その後日本に帰国した倉田さんは、やはり直接人事担当に連絡を取り、希望するポジションを自ら取りに行った。そして、その次の会社に転職する際は、さらに大胆なアプローチをとったという。
「ちょうどコーチ・ジャパンが設立されるというタイミングでした。人事担当者に連絡をしたのですが、私が希望するような職種の募集はなかった。でも日本法人の社長であれば、人事担当者も知らないような中長期的な視野で見た役職のニーズを持っているのではと思い、社長に直接履歴書をお送りしたんです」
それが社長の目に留まり、晴れてファイナンス・ディレクターとして入社することになった倉田さん。翌年にはマーケティング担当シニアヴァイスプレジデントに就任する。
「次のステップアップは、2種類あると考えました。ひとつ目は、横に広げること。ジャパン以外のマーケティングも見る立場になるということです。ふたつ目は、社長です。前者は心が躍らないけれど、かといって後者もなんだかぴんときませんでした。けれど、ワインが熟成していくように、数年経ってぱっと心が晴れたんです。『誰かのような社長』になる必要はなくて、自分なりの社長業をすればいい。やりたいようにやればいいんだ、と吹っ切れました」
ここで倉田さんは新しいチャレンジをする。転職先が決まる前に、コーチ・ジャパンの退職を決めてしまったのだ。「この時ばかりは『結婚しておけばよかった』と思った(笑)」というほど不安だらけだったが、そんな居心地の悪い状況に身を置くことも目的の一つだった。前職を手放した直後に、依頼していたエージェントから連絡があり、フルラジャパンの社長という話が舞い込んだのだ。
全社員の幸せと成長を願って
ファッション業界で責任ある立場をとってきたとはいえ、社長業は初めて。就任後は、まず周囲との信頼関係の構築からスタートした。
「『私のやり方と違って当たり前』というスタンスで、みなさんのやり方をじっくり聞いていきました。そのときに、自分の意見を述べないことに注意しましたね。まず伸びしろを感じたのは、店舗と東京オフィス、イタリア本社との距離感でした。そこで、半年に一度、全国を回ってストアスタッフ全員と会うことにしたんです。会社の方向性を話し、接客のトレーニングをした後、懇親会として夜のディナーを楽しみます」
全社員に対する意識調査も実施した。社員の声を拾い、ストアスタッフの正社員化や長期の休暇制度の見直しなど、働きやすい制度を次々に作り出している。社員同士の距離が近づいたことでスタッフの満足度もアップ。さらには、売り上げもアップし続けているという。
「関わっているフルラのスタッフ全員の成長と幸せを大事にしています。どう成長したいかはひとりひとり違うから、会社の中でそれぞれが自分らしく成長できる環境を作ることが大切。もし、自分が望む成長の姿を見つけるのが難しければ『心が躍る』ことを探せばいいのだと思いますよ」
「私は社長になりたいのだろうか」と自問自答した日々があるから、「成長と幸せ」を第一義として考えられるようになった。願いは、フルラジャパンを社員が日本一幸せな会社にするということ。それが、倉田さん自身の幸せでもあるのだ。
一問一答、倉田さんのお気に入り
Q:朝のルーティーンは?
バルコニーに出て、周囲の人に感謝の言葉を述べ、なりたい姿を口にする。一日、人とどうかかわりたいかも言葉にする。植物や大地を見ながら、クイックな瞑想のように。
Q:デスクの上には何を置いていますか?
・誕生日にストアスタッフが書いてくれたメッセージとグラッツェカード。「グラッツェカードはジャパン社独自の試みで、日ごろの感謝を伝えるものなんです」
・忘年会でエリアマネージャーが余興をしてくれた時の倉田さんのお面。当時イエローの服をよく来ていたせいか、イエローのスカーフを巻いている。
・2匹の飼い猫のうち、ララちゃんがモデルとして映っているカレンダー。
Q:愛読書、好きな本は?
愛読書は『成功の実現』(中村天風著)、好きな本は数年前に読んだ『出現する未来』(ピーター・センゲ他著)。
Q:お気に入りのファッションアイテムは?
FURLAのMUGHETTOというハンドバッグ。FURLAの象徴的なモチーフであるバタフライとフェミニンなお花が合わさり、立体的なクロージャーとしてあしらわれている。
Q:今まで人から受けたアドバイスで一番よかったものは?
アシスタントから言われた「倉田さんは人の話を聞いていません」という言葉。「愛があるからこそ言ってくれたのだろう、と改めて感じています」
Q: 1 か月休みがあったら何をしたいですか?
「ずっと家でくつろぎながら、その日の気分で好きなことをして過ごしたいです」
撮影/柳原久子
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