2018年2月に開催されたイベント「MASHING UP」で、スマイルズの代表取締役社長・遠山正道さんと、サムライのマネージャー・佐藤悦子さんが対談。これをきっかけに、サムライの代表・佐藤可士和さんが、遠山さんが進めるプロジェクト「The Chain Museum」にジョイン。二人が目指す、新しいアートの在り方とは? 遠山さんと佐藤さんのそれぞれに、全4回でインタビュー。
食べるスープの専門店Soup Stock Tokyoなどを手掛けるスマイルズ代表取締役社長の遠山正道さん。アートへの造詣が深く、Soup Stock Tokyoをはじめ、現代のセレクトリサイクルショップPASS THE BATONなど、手がけるビジネスもアート作品のようにとらえている。
遠山さんが新しい“作品”としてスタートしたのが「The Chain Museum」。世界に100の小さな美術館を作るという、その試みはどんなものなのだろうか。
遠山さんにとってのアートや、ビジネスとアートの関係性などと併せて伺った。
アートの原体験は幼少のころ
遠山さんが生まれる前までニューヨークで暮らしていた家族。遠山さんが生まれてから移り住んだ東京の自宅は、父親が好きなミッドセンチュリーやモダニズムそのものだったのだとか。
当時暮らしていた住宅が掲載されている雑誌を見せていただいた
遠山さんは、インテリア雑誌に何ページにもわたり紹介されるほどの洗練された部屋で、芸術に触れながら幼少期を過ごした。
「特に意識しなくても周りにアートがありました。そんな中で最初に意識したのは、パリの美術館でモネの『日傘をさす女』を見たとき。女性が風を受けている様子に感動したのを覚えています。また、岡鹿之助の古城が描かれた画集が好きでよく眺めていて、なかなかに渋い少年時代かと。さらに、タイルに描かれた絵本のようなかわいらしい絵が部屋に飾ってあり、それはのちに私が作品を作るときにインスピレーションをくれたものです」
右ページに写っているお子さんが、当時の遠山さん
遠山さんのインタビューや書籍では何度も話題に上っているそのタイル絵は、横に2mほどもある大きなものだったそう。
アートに関心の強かった遠山さんは、中学生の頃「美術の授業では、墨絵のようなものばかり描いていた」という。水色の空や赤い太陽といったステレオタイプな表現が苦手なだけでなく、色を使って満足のいく作品ができないことがもどかしく、白と黒だけで表現していたのだ。
スマイルズのオフィスにはいたるところにアートが飾られている
時代の大変革期を体感できるのがアートの醍醐味
今の遠山さんにとって、アートとはどのような存在なのだろうか。遠山さんが生まれた1960年代は、1940年代後半からアメリカで起こった抽象表現主義が台頭し、アートの中心がパリからニューヨークに移った時代の大きな変革期だった。
「当時はわからなかったけれど、今では、時代の変わり目に自分が生まれたんだと感じています。時代が大きく変化するとき、主役はアート」
アートからその時代のダイナミズムを感じるという遠山さん
自ら初めて購入したアート作品は、25年ほど前、今の自宅に住み始めたときに手に入れたもの。パリで活躍した日本人画家、菅井 汲の版画作品だった。その菅井 汲は、遠山さんが生まれた1962年以降、作風を大きく変えている。抽象表現主義に通ずるのか幾何学的な作風は、時代の変化を象徴するものだった。
「最近また、菅井 汲の作品をオークションで購入したんです。『思い出の作家だから』と妻を説得してね(笑)。25年前に購入したのは、彼が作風を変えた『後』のモダンな作品で、今回購入したのはまだ筆跡を残した変える『前』のもの。ダイナミックに変わりゆく時代を、日本人作家がそのフィルターを通して見せてくれているように感じるんです」
日本人作家の作品を通じて、時代のダイナミズムを感じる。それは遠山さんにとって、戻れはしない過去の歴史に近づき、触れることでもあるのだろう。
続く後編では、アートとビジネスの類似点や、新たなプロジェクト「The Chain Museum」について伺っていく。
遠山正道(とおやま・まさみち)さん 1962年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、85年三菱商事入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、「giraffe」、「PASS THE BATON」「100本のスプーン」「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」などを展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。
撮影/柳原久子、取材・文/栃尾江美

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