2018年2月に開催されたイベント「MASHING UP」で、スマイルズの代表取締役社長・遠山正道さんと、サムライのマネージャー・佐藤悦子さんが対談。これをきっかけに、サムライの代表・佐藤可士和さんが、遠山さんが進めるプロジェクト「The Chain Museum」にジョイン。二人が目指す、新しいアートの在り方とは? 遠山さんと佐藤さんのそれぞれに、全4回でインタビュー。
Soup Stock Tokyoなどのブランドを手掛けるスマイルズ。その代表取締役社長である遠山正道さんは、アートのようなアプローチにより、ビジネスに新しい視点を得ているのだと。さらには、「これもひとつのアート」と考えている「The Chain Museum」についてもお話を伺った。
現代という変革期に、チャレンジする入場券を与えてくれる
時代の変化を感じとれるアートを身近に置くことで、それを自分に重ね合わせているという遠山さん。今の時代も、インターネットを中心とした激しい変革の時。遠山さんは、アートから勇気とともに「時代にチャレンジする入場券」をもらっているように感じている。
「アートは、きっかけだと思っています。僕はよく『見えないトリガー』と呼んでいる。この世界で、見えているもの、言語化できているものは1割くらい。見えていない9割に、たくさんの可能性や価値が浮遊しているんじゃないかと考えているんです。 今のビジネスで多くの人は、わかっている1割の中で勝負している。ところが、新しいビジネスでは9割に踏み出していくことが必要。答えのないアートは、今までなかったようなものの見方を教えてくれるから、見えない9割に向かうトリガーになるんだと思っています」
「ビジネスパーソンにアートは必要か」という問いに、遠山さんは「はい」と即答
「アートはビジネスではないけれど、ビジネスはアートに似ている」という遠山さん。新しいビジネスを始めるときには「こんな感じ」という、見えない9割にアクセスしながら雲をつかむようなフェーズがある。
もちろん、ひとりでは進められないため、「こんな感じ」を何とか言葉にして、仲間と共有したり、資金を集めたりしなくてはならない。ただしそれも、アーティストが見えないものを具現化していく過程に似ているのかもしれない。
そのためには、「自分ごと」にして、自分の内側に理由を持っていることが大切だという。「こうすれば売れる」「顧客にはこれが人気」といった外側の理由は常にうつろいゆくものだから、自分の中に確固とした理由を持って行動していかなくてはならないのだ。
スマイルズのエントランスに置かれた現代アート
大きく、新たなチャレンジ「The Chain Museum」
遠山さんが代表を務めるスマイルズでは、3年前から芸術祭に作品を出展している。企業として芸術作品をつくるのは異例のことだ。
「企業がやるからには、利益を出さなくてはならないと思っています。1作目は持ち出しになってしまったのですが、最も新しい『檸檬ホテル』は利益が出ている。スマイルズという作家のコンテキスト(文脈)は、『ビジネス』だと思っています。だから、アートとビジネスを掛け合わせることにしたんです」
その結果、生まれたのが「The Chain Museum」のコンセプト。
「スマイルズが運営する『Soup Stock Tokyo』はチェーン店。一点物が基本のアートとは基本的に相容れないはずなので、組み合わせるとむしろ面白い。だから、ミュージアムのチェーン店を作ることにしたのです。『The Chain Museum』という名前は、チェーン店に加えて、アーティストと作品、鑑賞者を結ぶチェーンの意味も込めています」
「The Chain Museum」のコンセプトと、「ナチュラルで体によいけれど、手間のかかるスープ」を「チェーン化」したSoup Stock Tokyoに通じるものを感じる
それを「アートの民主化」と遠山さんは言った。世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」へ行った際、億を超える作品ばかりが並び、投機目的で購入する人々を見て、疑問を感じたからだった。
ただし、美術館の小型版を作っても意味がないと考えている。世界各国に「ユニーク」なミュージアムを作っていく。
アートとビジネスの関係を、本当に楽しそうに語ってくださった遠山さん
例えば、純金でできた雑草の形の小さなアート作品をあるエリアのいたるところに忍ばせる。そのままでは気づかず素通りしてしまう作品だが、スマホアプリでチェックインすると場所がわかり、鑑賞者が認識できるようになる。風力発電の風車の上にもあるその作品は、普段は見ることができないため想像するしかない。
それは、目を凝らさないと見えないアート。そんな新しい体験をさせてくれるミュージアムを、いくつも企画中だ。
見えないはずの9割の世界を見つめているようなまなざし。遠山さんの新しいチャレンジは始まったばかりだ。
次回は、「The Chain Museum」でコラボレーションする佐藤可士和さんのインタビュー。異なる業界にいながら、アート×ビジネスに対する共通の見解が垣間見える。異なる場所にいながら、同じ本質に近づいているかもしれない。
遠山正道(とおやま・まさみち)さん 1962年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、85年三菱商事入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、「giraffe」、「PASS THE BATON」「100本のスプーン」「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」などを展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。
撮影/柳原久子、取材・文/栃尾江美

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