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CONFERENCE:MASHING UP vol.1

アートはあらゆるイノベーティブなものを「純化」したもの/クリエイティブディレクター 佐藤可士和さん[Art×Business #03]

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2018年2月に開催されたイベント「MASHING UP」で、スマイルズの代表取締役社長・遠山正道さんと、SAMURAIのマネージャー・佐藤悦子さんが対談。これをきっかけに、クリエイティブディレクター・佐藤可士和さんが、遠山さんが進めるプロジェクト「The Chain Museum」にジョイン。二人が目指す、新しいアートの在り方とは? 遠山さんと佐藤さんのそれぞれに、全4回でインタビュー。

無駄をそぎ落としたアートディレクション、ミリ単位でそろえられていると思われるほど美しいオフィス、さらには整理術の著書も手掛けるなど、シンプルで明快なデザインのイメージがある佐藤可士和さん。ところが近頃、「コントロールされない」「一点もの」といったアートへの回帰も意識しているのだという。

時代に応じて、表現の方法を変化させていく佐藤さんは、スマイルズが手掛けるThe Chain Museumとのコラボレーションも計画している。佐藤さんのアートとのかかわり方を伺った。

アートやデザインに対する原体験は、絵本のミッフィー

佐藤さんのアートへの原体験は、絵本だったという。

「子どものころ読んだ、ミッフィーの絵本です。当時は『うさこちゃんと○○』といったタイトルでした。絵本はよく読んでいたのですが、ミッフィーだけは明らかに他の絵本と違う。判型も正方形でかっこいい。本を開くと、左側に文字、右側にシンプルな絵が描かれている。色の数もとても少ないですよね。ずっと眺めているうちに、空の青と、服の青が同じなのにちゃんと違うレイヤーに見えてくるとか、一面オレンジ色の場所なんてこの世にないけれどあるように思えるとか、子どもながらに抽象的な空間を感じていました

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幼心にも、ミッフィーの絵本を「これは、他とぜんぜん違う!」と感じたという佐藤さん

その話を聞けば多くの人が、佐藤さんの現在のデザインに通ずるものがあると感じることだろう。

ミッフィーの絵本に魅了されるとともに、「描く」ことに没頭する日々だったという。床やテーブル、どこにでも絵を描き始める佐藤さんに「待って!待って!」と母が紙を差し出すのが常だったそう。

「後から聞いたのですが、僕は白い紙を『まって』という名前のものだと思っていたらしいです(笑)」

建築家の父が使っていた製図板の上に乗り建築図面に絵を描いてしまったこともあったのだとか。気持ちの赴くままに描き続けた結果、ほめられることが多くなり、幼稚園の年長くらいから「自分は絵が上手く描ける」という自覚があった。少年時代はひとりで大きな公園に行って写生をし、架空のものをイメージして描き、漫画も描く。そんな日々だった。

イノベーティブでコンセプチュアルな芸術を知る

パンクミュージックやパンクファッションを好んでいた高校生のころ、美大を目指そうと心に決める。当時、美術予備校のカフェで友人に見せられたのが、マルセル・デュシャンの作品だった。「デュシャン、知らないの?」と言われ初めて目にしたのは、既製品をそのまま、あるいはそれに少しだけ手を加えた「レディ・メイド」の作品群。

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マルセル・デュシャン『泉』(1917) Image via Getty Images

「それまでは、Tシャツやアルバムのジャケットなど、アートというよりはデザインによく触れていました。アートとデザインの違いも意識していなかった。でも、デュシャンを知って初めてコンセプチュアルなアートを知った。そこで、好きだったパンクに通ずる、イノベーティブなものを感じたんです」

これから本格的に絵を勉強しようと思っているときに、すでに描くことをやめてしまった芸術家を知る――なかなかに衝撃的な出来事だったものの、絵を描くことに限らない「アート」を実感した瞬間だった。

イノベーティブなものがアートだと思う

大学時代にヨーロッパとニューヨークを訪れ、それと比較して日本にはアートのマーケットがないと実感。そのため、リアリティのある広告業界で表現をしてみたいと考えた。「まるで社会をキャンバスにしたアート活動だなと思って」と佐藤さんは言う。

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「アートが表現している時代の視点は、仕事そのものに直結する」と佐藤さん

僕にとってアートは、新しい視点をくれるもの。大げさに言えば『これまでに人類がしたことのない見方』を表出させているもので、そのフィールドが芸術ということ。だから、数学や音楽、文学、経済、それぞれの世界のイノベーティブなことをしている人もクリエイターだと考えています。アートはデザインともよく似ていますが、デザインの場合は例えば……『コップ』という『機能』を成立させなくてはならない。機能を取り払い、より純化したものがアートだと思っています」

「新しい視点をくれるもの」という言葉は、同じテーマでインタビューをしたスマイルズの遠山さんと同じ。文脈は違っても、アートというものを本質的には同じようにとらえているのかもしれない。佐藤さんにとってはミッフィーであり、セックスピストルズであり、デュシャンだった。

後編では、デザインへ舵を切った後にアートへ回帰してきた経緯。ビジネスにアート的視点を取り入れる方法を聞いていく。

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佐藤可士和(さとう・かしわ)さん 1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。株式会社博報堂を経て2000年独立。同年クリエイティブスタジオ「SAMURAI」設立。ブランドアーキテクトとして、グローバル企業のロゴのデザインや空間デザインを含めたブランド戦略など、数々のプロジェクトを手掛ける。近年は文化庁・文化交流使として日本の優れた文化、伝統、ブランド、技術などを広く海外に発信することにも注力している。『佐藤可士和の超整理術』『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』ほか著書多数。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。

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「これからのビジネスには、アートによる新たな視点が必要」と語る佐藤可士和さん。いったいそれはなぜなのか? じっくりとうかがった。

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撮影/柳原久子、取材・文/栃尾江美

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栃尾江美
外資系IT企業にエンジニアとして勤めた後、ハワイへ短期留学し、その後ライターへ。雑誌や書籍、Webサイトを問わず、ビジネス、デジタル、子育て、コラムなどを執筆。現在は「女性と仕事」「働き方」などのジャンルに力を入れている。個人サイトはhttp://emitochio.net

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