2018年2月に開催されたイベント「MASHING UP」で、スマイルズの代表取締役社長・遠山正道さんと、SAMURAIのマネージャー・佐藤悦子さんが対談。これをきっかけに、クリエイティブディレクター・佐藤可士和さんが、遠山さんが進めるプロジェクト「The Chain Museum」にジョイン。二人が目指す、新しいアートの在り方とは? 遠山さんと佐藤さんのそれぞれに、全4回でインタビュー。
幼少期や学生時代を中心に、ご自身のアートやデザインへの体験を思い返してもらったインタビュー前編。その後、デザインへと舵を切ったが、近年はまたアートにも立ち返ってきている。後編では、その経緯とともに、ビジネスになぜアートが必要なのかを伺った。
これからのビジネスには、アートによる新たな視点が必要
近年、ビジネスにアートやデザイン的な視点が必要だと言われることが多い。特に経営者には「デザイン思考」や「クリエイティビティ」などが求められる。
「特に日本は、戦後にモノが足りない時代を経て、これまではとにかく必要なもの、生活を便利にしてくれるものを順番に作ればよかった。でも今はモノがむしろ余っていて、必要なものは足りています。その結果、ニーズがとても複雑化していく。これまでと違うから、違う視点が必要なんです」
そのためのヒントをくれるのがアートだという。アートに触れた経験がなくても、美術館などに何度も足を運んでみるといいそう。
「たくさん見ると、考えますよね。『意味が分かんない』とか『どうしてこんなものが高いんだろう』とか。疑問が生まれたら調べたくなります。多くの人が『いい』というルールや、時代背景などもわかってくる。例えば、印象派は優しい雰囲気に見えるかもしれませんが、写実的な絵ばかりだった当時にしてみたら『超過激』だったわけですから」
アートを通じて時代に思いをはせ、現代に置き換えれば、新しいことをスタートする際のイメージがわく。どんな風に時代が変わってきたのか、文字以外で感じ取れるのがアートなのだ。
佐藤さんは「何か新しいことを見ようとしていないと、ビジネスはうまくいかない」と語る
時代を見据え、一点ものへと回帰する
もともと絵を描くことが好きだったが、広告を生業にするようになり「マス文脈において、一点ものは表現としては使いにくい」という印象を持っていた。ところがここへきて、時代が変わってきたという。
「本当の一点ものはなかなかメディアに載らないから、使いにくいと思っていました。ところが、今は何でも拡散できる時代。一点ものの作品もメディアを通して拡散が可能になったんです」
そんなふうに思っていたころに打診されたのが、有田焼の400周年を記念したプロジェクトだった。
緻密な図柄が特徴の有田焼に、あえてダイナミックな絵付けをすることを提案。佐賀県の有田町へ10回以上訪れ何度もテストをしながら、それぞれが一点ものとなる13枚の皿を作り上げた。
さらには、代表を務めるクリエイティブスタジオ「SAMURAI」では、3年ほど前から建築家を採用し、空間デザインを社内で対応できる体制を整えていた。アートを含めた空間づくりを手掛けるようになり、佐藤さん自身のアートに回帰する思いも高まっていった。
SAMURAIのエントランスには佐藤さんが描いたアートが飾られている
重なり合う条件に後押しされるように、最近200坪ほどの大きなアトリエを借りる。本格的にアートに取り組もうと考えると、オフィスでダイナミックなドローイングをするわけにいかないからだ。
「ちょうどそのころ、妻の悦子とスマイルズの遠山正道さんがMASHING UPのイベントで対談をして、The Chain Museumの構想を聞いたんです。借りたばかりのアトリエを使っておもしろいことができそうだと直感しました。まだ具体的には決まっていませんが、未発表作品の発表や、ライブペインティングなども考えています」
有田焼の仕事を始めるときにも、「誰もやっていないことは何だろう」と考えたという
遠山さんの新たなアートへの構想と、佐藤さんのアートへの回帰。そんな二人がクロスするThe Chain Museumで何が起こるのか。また、佐藤さんのこれからの作品にどんなものが生まれるのか。
それはきっと、これまでになかった新しい視点を見せてくれるものに違いない。
佐藤可士和(さとう・かしわ)さん 1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。株式会社博報堂を経て2000年独立。同年クリエイティブスタジオ「SAMURAI」設立。ブランドアーキテクトとして、グローバル企業のロゴデザインや空間デザインを含めたブランド戦略など、数々のプロジェクトを手掛ける。近年は文化庁・文化交流使として日本の優れた文化、伝統、ブランド、技術などを広く海外に発信することにも注力している。『佐藤可士和の超整理術』『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』ほか著書多数。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。
撮影/柳原久子、取材・文/栃尾江美

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