化粧品を扱う㈱ポーラに入社し、さまざまなグループ企業に出向するというキャリアを重ねてきた大内明香さん。異動のたびに異なる文化に飛び込み、その中で成果を上げてきた。秘訣はきっと、ぶつかり合うことを恐れず、真摯に人と向き合ってきたこと。プライベートでも大好きだという化粧品に、深く関わり続けてきたキャリアを伺った。
大内 明香(おおうち・さやか)さん
ジュリーク・ジャパン株式会社 取締役/マーケティングディレクター。1998年4月株式会社ポーラ化粧品本舗(現・株式会社ポーラ)に入社。化粧品からボディウェアまで幅広く商品企画に携わった後、2010年に株式会社ACROに出向。THREEプロダクトマネージャーに就任し、数々のヒット商品の企画開発に携わる。2013年よりオルビス株式会社に出向し、商品企画部長に就任。2018年4月より現職。
1週間前に他社への異動を知らされる
ポーラに入社した当時は、ショップオーナーたちのプロモーション支援をしていた。個人事業主として委託契約を結び化粧品を販売するビューティディレクターに対し、商品のよさや販売の方法などを伝える立場だったという。
「メールは便利だけど伝わらないことがあります。電話も同じ。どうしてもフェイス・トゥ・フェイスでなくてはならないこともあります。直接会って話す重要性を、知らず知らずのうちに学んでいたのだと思います」
その後3年半、化粧品の商品企画に携わる。あるとき突然、異動日の1週間前にグループ会社㈱ACROへの出向が言い渡される。
「THREEというブランドを担当することになり、突然のことで驚いたものの『この1週間でできることは何だろう?』と考えました。その時『顧客としてTHREEを見られるのは今しかない』と思ったんです。そこで、都内のショップに行けるだけ行き、顧客という立場からはブランドはどう見えるのか、心が動くのはどこなのかを観察しました」
「なぜ自分が異動するのだろう?」などと考える余裕もなく、短い期間でできることに集中したという。
新しいブランドを生み出すため、自分の中の正解を信じ続ける
今思い返しても、THREEでの経験は過酷だったし、最も成長させてくれた仕事だった、と大内さん。
「当時のTHREEスキンケアの商品企画は私ひとり。当時は、まだそれほど知られていないブランドでしたが、『新しい価値をつくり出そう』という志を強く持っていました。商品企画を担当するとはいえ、私自身は何ひとつ手を動かせません。研究員や工場の方たち、デザイナーなど、1つの商品を生み出すために何百人という人に動いてもらわなければならないのです」
その中で苦労したのは『まだできていないもの』を伝えなくてはならないことだった。目に見えない『使ったときの感じ』を、つくる人に伝えていかなくてはならない。
「試作品のテクスチャーで納得がいかないところがあると、メールや電話では伝わりません。新幹線で直接工場まで行き、その場で試作品を触って、研究員に『ここの浸透をもう少し』と伝えていくんです。『言っていることがわからない』『もうこれ以上は無理です』と何度言われたかわかりません」
伝わらない悔しさ、もどかしさに、何度も涙を流した。
雑誌でベストコスメ賞を総なめ
何度も壁にぶつかる状況で、よりよい商品を作るためにひとりで立ち向かうエネルギーはどこにあったのだろうか。
「あきらめない、という強い意志です。私が動かなければ商品が世に出せない。それは、ブランドが止まってしまうことを意味します。だから、最初に腹をくくったんです。もちろん迷いもありました。でも、あとから方向性を変更するのはむしろ不誠実だと思った。だから自分の正解を相手にぶつけ、自分と葛藤しながら交渉していました」
プロダクトマネージャーとしての確固たる軸は、最初からできていた。泣きながら迷っても、ブレないことを心掛けた。
そんなぶつかり合いと試行錯誤を重ね、ブランドを育てていった大内さん。徐々に知名度も上がったTHREEは、3年後に大ブレイクすることになる。美容誌で上半期ベストコスメ賞が発表され、あらゆるジャンルで総なめと言っていいほどTHREEが1位や2位を独占していた。
「たくさん悩み、もがき、関係者の方に苦労をかけながら作った商品が、間違いじゃなかったと、喜びとともに安堵しました。数多くの衝突の中で『生意気だ』と思われたこともあったかもしれませんが、振り返ってみると、ぶつかり合うことで信頼関係を構築できた部分もあったと思います。盛大に打ち上げもしました」
きっと、当時の苦しみを分かち合い、市場に受け入れられたことを喜び合ったに違いない。
マネジメントを学び、現在は海外の文化とやりとり
THREEの受賞ニュースを聞いた時、大内さんは、すでに新しい職場にいた。次の出向場所はオルビス。管理職として人材育成の役割を担い、ここでもまっすぐに人と向き合い、コミュニケーションを重ねた。商品企画部長になってからはビジネススクールにも通い、部下の育成とともに自分も高めていった。
「時には厳しいことも言います。相手が涙を見せることもありましたが、受け止めてくれていたと思う。当時の部下たちは所属が変わった今も連絡をくれるので、ちゃんと伝わっていたのだろうと感じています」
次の場所は現在の、ジュリーク・ジャパン㈱。初めて海外で生産するコスメを扱う。
「化粧品市場の競争が激しい日本に比べると、オーストラリアとは乖離がある。だから、意識や文化の違いによるやり取りは大変です。ただ、仲間にも恵まれ、若いころだったら大変さにうつうつとなってしまっただろうことも、笑い合って乗り切れるようになりました」
それでも、大内さんの信念は「まあいっか」と片づけないこと。商品やパッケージができたときにそんな気分になったらNG、と考えているのだとか。いつも感情が正解を教えてくれる。
「女子高出身ということもあって女性がイキイキとしている環境が大好きで、『女性が元気であってほしい』とずっと思っています。女性を美しくするだけでなく、生き方にまで浸透する化粧品ブランドに育てていきたいです」
一問一答、大内さんのお気に入り
Q:朝のルーティーンは?
ボウルにお湯を張り、自社商品の「ハイドレイティングエッセンス」をひとたらし。香りの中で深呼吸したあと、タオルを浸して絞り、スチームとして顔に当てる。お化粧前に、心とお肌を整える。
Q:デスクの上には何を置いていますか?
ディフューザーを用意して、ユーカリやローズマリーなどのアロマを焚いている。また、月の満ち欠けを表すカレンダーを置いて、自然のサイクルを意識している。
Q:お気に入りのファッションアイテムは?
夏の前に毎年買い替える日傘。最近はモノトーンを着る機会が増えたので今年は黒をセレクト。
Q:愛読書、現在読んでいる本は?
愛読書は、『ブランドの育て方』(中川淳、西沢明洋著)。今読んでいる本は『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』(山口周著)。
Q:欠かせないスマホアプリは?
「日本経済新聞 電子版」は朝の通勤時に読む。帰宅時はもっぱら「LINE」で人とコミュニケーションをとったり、「Instagram」で化粧品情報をウォッチ。
Q:人から受けたアドバイスで心に残っているものは?
「正しい判断をしなさい」
ポーラ・オルビスグループの研修で聞いた言葉。人間には弱い部分もあり、「まあいいか」と思ってしまうこともある。そんなとき、その判断がブランドにとって正しいかどうか、常に考えるようにしているという。
Q:1か月休みがあったら何をしたいですか?
英語漬けの生活をして語学力を磨きたい。現在、オーストラリアと日々英語でコミュニケーションをしているため。
Q:今会いたい人、会って話を聞きたい人は?
今は特に思いつかない。会いたい人ができると、セミナーや講演会などを通してすぐに会いに行ってしまう。
撮影/柳原久子

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