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幸せなコミュニケーション

部下を生かし、幸せにするコミュニケーション/山田ズーニーさん[伝わる言葉の方程式 #2]

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「自分の言葉が伝わらない」。

働く女性がそう強く感じる瞬間のひとつは、部下の育成に関わる時間かもしれません。文章表現インストラクターの山田ズーニーさんに、いま知っておきたい“伝わる言葉”の扱い方について伺ったインタビュー。後編では、部下と「幸福」な関係性を築くためのコミュニケーション術についてお聞きします。

上司の“格好悪い姿”が部下を励ます

前編では、失敗から掴んだ気づきをシェアすることが、読者との絆を築くきっかけになったというズーニーさん。思い返すと会社員時代にも、自分の“格好悪い姿”が部下を勇気づけた経験があると話してくれました。

「仕事がうまくいかず、みるみる弱っていった部下がいました。一生懸命励ましたものの、どうにも元気にならない。

しかし、ある編集会議で、私よりずっとキャリアの長い関係者たちから、最終責任者の私が厳しく責められるところを部下は真横でずっと見ていたんです。もう涙目になりながら、それでもなんとか読者のために自分の意見を伝えようとする、本当に情けない姿です。

すると、帰りにその子がすごく元気になった。あとで聞いた話によると、先輩でもあんなにコテンパンに、いろんなプロから噛みつかれるんだと。そこには正解も、うまくあしらうコミュニケーション術も存在しないが、問題を一つ一つ真摯に受け止めていく先輩の姿に励まされたと言っていたそうです」

先輩や上司の立場になると、“格好悪い姿”は見せたくないのが人情。でも、みんなはうまくいっている、自分だけできないという思いが部下を追い詰めているのかもしれません。ときには壁にぶつかり、仕事に悩む自分を見せることが、部下を勇気づけるカンフル剤になりそうです。

部下と対等である、という勘違い

上司としての自分に慣れてくると、ちょっとした言葉で部下を傷つけ、やる気をそいでしまうことも。そんなコミュニケーションの失敗を防ぐためには、“自分がどれくらい怖いか”を知ることも必要だと、ズーニーさんは話します。

「学生のころはたった2歳か3歳上の先輩がとても大人に見え、威圧感を感じて話しづらかったんですよね。それなのになぜ大人は社会人になったとたん、20歳過ぎればみんな一緒とか、対等に話せる存在になれるとか、勘違いしてしまうのだろうか、と」

食事をしながら「なんでも話して」と言ったところで、部下の口が重いのは当然です。年若い部下から見れば、人事権や裁量権を持つ自分は“怖い”存在。それを忘れて投げかけたネガティブな言葉は、上司としてはちょっとした皮肉や指摘のつもりでも、部下を深く傷つけてしまいます

「上下関係のある人に部下は言い返せない。言葉を投げた側は小石のつもりでも、当てられた側からすれば30階から石が降ってきたようなもので、骨折するくらい痛いのです。それを肝に銘じてコミュニケーションするだけで、部下との関係は変わってくると思います」

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自慢話をとうとうと部下に聞かせていませんか? 傾聴するところからはじめましょう。

上司が部下のためにできること:「聞く」

上司として発する言葉の重みを知ったうえで、それでも問題を抱えた部下に、なにかしら手助けをしたいとき。たとえば、部下との面談で上司ができることはあるのでしょうか。

「もし30分や1時間のアドバイスで人を変えられるとしたら、その人はベストセラー作家になれるかもしれない、それくらい人を変えるのは難しいことです。上司ができることは2つ。ひとつは、その1時間を“向こうから吐き出してもらう時間”にすることです」

ズーニーさんはよく、「あなたがどんなことで悩んでいるかに関心があるし、自分も上司として伸びていきたいから、ぜひそこを教えてほしい」と言って話を引き出していたそう。

「たとえば部下が『この仕事は、自分のやりたいことではない』と言ったとします。上司としては、なんて不遜な、と驚きますよね。でも問題を訴えてくる部下の問題点は、じつはそこにない、というのが私の編集長時代の経験です」

よくよく話を聞いてみると、直属の先輩との関係がうまくいっていなかったり、スキルアップの方法がわからず自信を失っていたり。仕事に対する忸怩たる思いが積み重なると、「これは本当の自分じゃない」という稚拙な表現になってしまうことがある、とズーニーさん。

「じっと話を聞いていると、その人のなかの塊みたいなものが溶けてきて、想いを整理できるようになる。一番の問題点に自分で気づき、解決策を見いだせたりします」

上司が部下のためにできること:「良い問いを投げかける」

そして上司ができることの2つめは、良い問いを投げかけること

「部下がブレイクスルーできないときは、問題点を指摘するより効果があります。問いが響けば、本人が答えを求めて考え出すからです」

部下に響く問いを見つけ出すことは、上司にとっては難しい課題かもしれませんが、いい方法があるとズーニーさん。

「それは、部下の過去、現在、未来を意識して問いを作ることです。学生時代なにをやっていたの? 仕事をしていて一番ほっとする、自分らしい瞬間はなに? お手本にしたい人はいる? など。大学時代、入社前、入社後と時系列を整理して、過去・現在・未来で相手の話を引き出しながら、問いを作ってみてください」

人は今やっていることが未来につながらない、流れを断ち切られたと思うと不安を感じます。その流れを見つけてあげると、気持ちがすっと落ち着き、頑張ろうという意欲が出てくるのだそう。

「まったく畑違いの部署に転換するなど、過去・現在・未来が分断されてしまった部下の場合は、変化に対応するスキルや振り幅を認めてあげてください。いずれにせよ、そうやって話を聞いてあげられるということが、部下を生かすコミュニケーションにつながります」

心を揺さぶるくらい嬉しい理解の言葉を

最後にズーニーさんが教えてくださったのは、部下の“褒め方”です。上辺で褒めるのではなく、部下の仕事や企画書の芯を理解して、一番優れたところを的確に要約してあげること。それができれば、その部下は上司をずっと信頼し、ついてきてくれるといいます。

「私も学生の作品を読むときは、最低でも4~5回は読んで、書き手が『そこをわかってくれたら本望だ』というところをピタッと理解し、コメントできるように努力しています。それは、会社の仕事でも同じ。

全部でなくても、これだけは心をこめてやったんだという部下の仕事は見逃さない。それをきちんと見て、理解して、心を揺さぶるくらい嬉しい理解の言葉をかけてあげられるかどうかです」

上司にとってはしんどくもあるけれど、それができれば部下は花が咲くように伸びていく、とズーニーさん。幸せなコミュニケーションは、そんな手抜きのない姿勢から生まれるものなのだと気づかされました。

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山田ズーニーさん
文章表現・コミュニケーションインストラクター。フリーランスで全国の大学や企業の依頼を受け、文章表現力・コミュニケーション力・プレゼン技法・自己表現力のワークショップを行っている。1984年ベネッセコーポレーション入社後、進研ゼミ小論文編集長として、高校生の考える力・書く力の育成に尽力したのち独立。2000年より『ほぼ日刊イトイ新聞』にて「おとなの小論文教室。」を連載中。2007年より慶應義塾大学非常勤講師。著書に『伝わる・揺さぶる!文章を書く』『理解という名の愛がほしい』など多数。

撮影/YUKO CHIBA(DOUBLE ONE)

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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