幸せなコミュニケーションを築くためには、相手との信頼関係という土台が欠かせません。幸福学を研究する前野隆司先生に、相手も自分もハッピーになるコミュニケーションのあり方をうかがいました。
「幸せのメカニズム」を解明したい
心という複雑なシステムを紐解き、「人はどうすれば幸せになれるのか」を科学的に研究している前野隆司先生(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授)。もともとエンジニアで、キヤノンではカメラのモーター、大学ではモーターを応用したロボットの開発を手掛けてきました。
実はこの日、カメラマンが持参した一眼レフも、かつて前野先生が開発したモーターを使ったもの。異色のキャリアに見えますが、根本のテーマは変わらないと話します。
「僕はエンジニアだから、人を幸せにする何かを作りたい。人を幸せにするカメラ、人を幸せにするロボット……と考えてきて、そもそも人間の幸せのメカニズムだって、よくわかっていないじゃないかと気づいたのです」
あちこちに観葉植物が置かれ、ご自身で撮った木漏れ日の大きな写真が飾られた前野先生の研究室。周囲に緑がある、というのも人間が幸せを実感する方法のひとつですが、「一部はフェイクグリーン。本物と混ぜておけば、人は嘘の緑でも幸せになれるんです」と微笑みます。
色褪せない幸せをつくる「4つの幸福因子」
前野先生が生み出したのは、現実性のない理想主義ではなく、統計学的エビデンスに基づく幸福学。長期的な幸せに関係する要因を、過去の研究から徹底的に洗い出し、日本人約1500人を対象にアンケートを実施しました。その結果をコンピューターで解析したところ、幸せのカギは次の4つの因子に集約されたといいます。
1.「やってみよう!」因子(自己実現と成長)
夢や目標、強味を持っていて、何事も「やってみよう」と思える人のほうが幸福度が高い。やるかやらないか迷ったときは「やってみよう」が幸福につながる選択。
2.「ありがとう!」因子(つながりと感謝)
人に感謝する、利他的に振る舞う人のほうが幸福度が高い。友達やコミュニティは範囲を狭めず、多様性があるほど人間的に成長することができ、結果として幸福度が高まる。
3.「なんとかなる!」因子(前向きと楽観)
何事も楽観的に捉え、前向きにチャレンジすることで幸福度が高まる。批判精神ゼロというのも流されやすくなるので、ポジティブ:ネガティブ=3:1くらいが好バランス。
4.「ありのまま!」因子(独立と自分らしさ)
人目を気にせず、自分らしくいたほうが幸福度が高い。子どもや部下・同僚に対しても、誰かと比べるのではなく、みな自分のペースで伸びていくんだと信じることで幸福度が高まる。
自己肯定と他者肯定、それをつなぐコミュニケーション
幸せになるためには、これら4つの因子をバランスよく高めることが大切。さらに言えば、4つの因子すべてをつなぐ、3つの要素があると前野先生は語ります。
「それは自己肯定と他者肯定、そしてコミュニケーションです。
まずは自分を肯定すること、周囲のみんなを肯定すること。会社というシーンで考えると、上司や部下に対して批判しがちな人がいますね。でも、否定する代わりにいいところを探していくと、上司にもついていこうと思えるし、部下も前向きに励ますことができます。
ただ、他者肯定というのは余裕がないとできません。だから自己肯定が前提になります。自分はダメだと思っていると伸び伸びできないから幸福度が下がる。グチも出てきて他者否定につながってしまいます。
では、自己肯定を高めるためのキーは何なのかというと、それはコミュニケーションです。やはりパートナーや親友など、自分を信頼してくれる大切な人がいると、自己肯定感は高まる。大丈夫だよと心から言ってもらえると、そう信じられます。やってみようと思えます。
そうして自己肯定と他者肯定を高めていけば、自然とコミュニケーションはうまくいく。幸福度もどんどん高まっていくのです」
自己肯定と他者肯定、そしてコミュニケーションは、幸福を織りなす三位一体。前野隆司先生に学ぶハッピーなコミュニケーション、後編では人間関係をもっと幸せにするシチュエーション別指南をいただきます。
前野隆司(まえの・たかし)さん
1962年山口生まれ。広島育ち。84年東工大卒。86年東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。2011年より同研究科委員長兼任。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。ヒューマンインタフェースのデザインからロボット、教育、地域社会、ビジネス、幸福な人生、平和な世界など、様々なシステムデザイン・マネジメント研究を行っている。主な著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』(筑摩書房)、『幸せのメカニズム―実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)ほか多数。
撮影/YUKO CHIBA(DOUBLE ONE)
▼ Sponsored

イベント
おすすめ
JOIN US
MASHING UP会員になると
Mail Magazine
新着記事をお届けするほか、
会員限定のイベント割引チケットのご案内も。
Well-being Forum
DE&I、ESGの動向をキャッチアップできるオリジナル動画コンテンツ、
オンラインサロン・セミナーなど、様々な学びの場を提供します。