映画やドラマ、CMなどで女性たちから圧倒的な支持を得ている女優のひとりといえば、吉田羊(よしだ よう)さん。現在の輝かしい活躍の裏には長い下積み時代を経験してきたことでも知られているが、2018年は映画初単独主演となった『ラブ×ドック』をはじめ、映画出演作は5本にも及ぶ。そのなかで、最新主演作として注目を集めているのが、10月19日(金)より公開中の感動作『ハナレイ・ベイ』。
本作では、ハワイのカウアイ島にあるハナレイ・ベイで、ひとり息子を亡くした喪失感と10年間向き合いながら、希望を見出そうとするシングルマザーの女性を演じている。本作は「女優としてターニングポイントにもなった」と語るほどの吉田さんだが、繊細な演技を求められた難しい役どころに挑戦したいま、感じていることや仕事に対する思い、そして海外の撮影現場で学んだことなどについて語ってもらった。
村上春樹さんの文体に想像力をかき立てられた
原作となるのは、累計70万部を超える村上春樹のロングセラー『東京奇譚集』の一篇だが、吉田さんは以前から村上春樹の世界観が好きだったという。
脚本と合わせて原作を読ませていただきましたが、そのときに感じたのは、行間と余白の多い作品だということ。言葉は少ないけれど、感情や想像力を掻き立てるような村上さんの文体がもともと好きでしたし、セリフで説明をしない映画らしい映画に出たいとずっと思っていたので、「ぜひ私にやらせていただきたい」という気持ちでした。
とはいえ、本作を手がけた松永大司監督からはかなり厳しい演出があり、「この作品が終わったあとに女優をやめよう」とさえ思ったほど追い詰められたというが、今回の現場を通して得たものとは?
キャリアを重ねてくると、良くも悪くも任されることが多くなってくるもの。贅沢なことではありますが、もちろん責任も伴うだけに怖いことでもありますよね。そうすると、「これでいいんだ」と思いがちになってしまうときもあるんですけど、だからこそ、このタイミングで改めて俳優として原点に立たされるような役と作品に出会えたことは、私にとって大きな意味がありました。役に対するアプローチや現場での過ごし方を見直すきっかけにもなったと思います。
監督のリクエストにより、マネージャーを同行せずに一人でハワイまで来るように言われた吉田さんは、つねに役として生きることを求められることとなる。
私はどの作品でも、みんながこの現場を好きであって欲しいと思うところがあるので、これまで特に大事にしてきたのは現場でのチームワークやコミュニケーション。カメラが回っていないところでスタッフさんに声をかけたり、芝居以外のところで共演者に気を配ったりというのを当たり前にやってきました。ただ、今回の現場では、そういうことにも気が回らないくらい役に没頭してしまったんです。
その結果、出来上がった作品を観たときに、明らかにこれまでの自分の芝居ではないと感じることができたという吉田さん。俳優としての在り方においても“新たな発見”をすることとなる。
ムードメーカーでいることだけが正解ではない
演じるという意味において、俳優がわがままであることも、ときには必要なのかもしれないと、そこで初めて知ることができました。もちろん、ムードメーカー的な役割を担うことが多かったこれまでの現場ではそれが正解だったとは思いますが、それは吉田羊としてやること。役によっては、現場での過ごし方が違ってもいいんだというのを感じさせてもらいました。
今回は心を閉ざしている女性の役ということもあり、現場でもなるべくひとりで過ごすようにしていたというが、精神的に過酷であったことは想像に難くない。さらに、ハワイでは海外のスタッフに戸惑うこともあったという。
今回は、現地と日本のスタッフとは半々でしたが、ハワイでの撮影ということもあり、勤務時間については向こうのユニオンの規定に沿わなければいけない部分がありました。そうすると、「さあ、これから」というところでも、「はい、ランチタイムです」と言って切られてしまうことも……。監督が「ここからがいいところなんだよ」と主張しても、「いや、お昼の時間だから休まないと」と返されてしまうんですよ(笑)。
作品を作るうえではこういった文化的な違いは大変だったとしながらも、その一方で彼らの働き方から学んだこともあると話す。
いい作品を作るためには、作り手である私たちの心と体が健康な状態であることは、大事なこと。ご飯を食べることも、休憩することも当たり前なことなんですよね。そういう人間らしい生活があって、初めていい仕事ができるということも、現地の方々のスタイルに教えていただいたところではあります。
本作の撮影準備期間中には、舞台の稽古と本番も重なっていたというほど、とにかく多忙な日々を送っている吉田さんだが、そのなかでどのようにして心に“栄養”を与えているのかを教えてくれた。
私はちょっと煮詰まってきたなと思うと、花を買って、愛でる時間というのを持つようにしています。花を愛でる時間というのは、言ってしまえば、人生でなくても生きていける時間。でも、だからこそ自分のなかに余裕があるというバロメーターのひとつにもなるんです。それが簡単にできる癒しの時間ですね。そういう意味では、芸術も花と同じようになくても生きていけるものですが、あったほうが豊かになれるので、必要最低限以外のものに、お金をかけられるゆとりは持っていたいなと思います。
日常には感謝すべきことであふれている
心に余裕があるからこそ、吉田さんはいつ見ても魅力的な女性であり続けられるのだと納得させられる。毎日欠かさずしていることにも、その秘訣を垣間見ることができた。
日記のように“感謝帳”というのをつけています。その日にあった感謝すべきことを箇条書きにして書いてみると、うまくいかなかったなという日でも、大なり小なりよかったと思えることが意外と多いものなんですよ。たとえば、「朝ちゃんと起きられた」とか「ご飯がおいしかった」とか、本当に何でもいいので、感謝できることが多いと「今日はいい一日だったな」で終わることができるんです。それが視覚的に確認できるので、みなさんにもぜひオススメしたいですね。
最後に、吉田さんからカフェグローブ読者に向けてメッセージを送ってもらった。
30〜40代というと、責任のある仕事を任されて、頼られることも多いかと思います。そこで、求められることに応えるやりがいや充実感があるというのはもちろん大事なことですが、アメリカのスタッフが教えてくれたように、良い仕事をするためには、まず自分の心と体の健康を保つことも必要。みなさんもたまには自分にご褒美をあげて、ちゃんと休んで、リセットしてあげる時間を持っていただきたいなと思います。
取材の現場でさえも周囲への細やかな気配りを見せ、優しい笑顔を浮かべる吉田さん。まさに女性のお手本のような存在だが、劇中ではまるで違う顔で観客を引き込んでいく。女優としても新たな1ページを開き、全身全霊で挑んだ吉田さんの熱演は、ハナレイ・ベイの美しい景色とともに、誰の心にも刻まれるはずだ。
『ハナレイ・ベイ』
出演:吉田羊、佐野玲於、村上虹郎、佐藤魁、栗原類
脚本・監督・編集:松永大司
配給:HIGH BROW CINEMA
2018年10月19日(金) 全国ロードショー
©2018 『ハナレイ・ベイ』製作委員会
https://hanaleibay-movie.jp/
撮影/柳原久子
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