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次世代のドラマは20秒以下になる。米メディア王の娘が挑戦

The New York Times

7月。ボサボサのあごひげを生やした若い俳優が、密閉された息苦しい無機質な撮影セットの中でカメラに向かって座っていた。彼は、「Solve」という殺人ミステリードラマに悪魔崇拝主義者の役でキャスティングされたのだ。そばでは、6名の新人スタッフが、暗闇の中で汗を流しながら立っていた。その中のひとりは、iPhoneのストップウォッチを見つめていた。

「じゃあ、今から君が疲れ果てて燃え尽きた時のテイクを」カメラマンも兼ねているディレクターが俳優に呼びかけた。「一晩中サタンに祈りを捧げた後の場面から。準備はいい? アクション!」

22秒は「長すぎる」。スマホドラマは短いのが特徴

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ヴァーティカル・ネットワークスの撮影現場。(Jake Michaels for The New York Times)

しかし、このシーンは失敗だったようだ。「長すぎるよ」iPhoneでストップウォッチを見ていた男性が、不機嫌そうに言った。「22秒だった」。18秒以内に収まるよう、シーンの撮り直しが命じられた。

メディア王ルパート・マードックの娘エリザベスさんが設立したスタートアップ、ヴァーティカル・ネットワークスのドラマ撮影は、このようにとても泥臭く地道な作業だ。

エリザベスの父親、そして兄弟のラシュランとジェームズは、一族が築き上げた歴史あるスタジオをウォルト・ディズニーに売却する手続きに追われているところだ。そんな中で、エリザベスはひっそりとヴァーティカルを設立、モバイル向け動画の主要サプライヤーへと成長させた。

ヴァーティカルが制作する動画コンテンツの特徴は、とても短いこと(1シーン20秒、各話数十分ほど)。これは、一流のプロダクション技術の賜物だ。

そして、水平ではなく垂直(ヴァーティカル)に撮影されている。ジェネレーションZ(注:1990年代後半から2000年代にかけて生まれた若年層)向けのMTVといった感じだ。

スナップチャット上で10代から人気を集める

「この新しい領域の発展を、最前列の席で見たかった」と、50歳のエリザベス・マードックさんは、メール取材の中でこのように想いを綴っていた。「見た目よりも骨が折れる仕事です。質の高いモバイル動画を制作する作業というのは、過酷で、沢山の人手を要し、ほとんどの場合、反直感的なものです

ヴァーティカルは調査を行い、それに基づいてスナップチャット上で10代のユーザーのエンゲージメントを高める方法を編み出した。ワーナー・メディアやバイアコムなどのヒットメーカーですら、苦戦していた分野だ。スナップチャットでヒットしたヴァーティカルの番組には、たとえば「Phone Swap」がある。参加者がスマホを通して交流するという恋愛リアリティーショーで、1話あたりのビューワー数は平均1,000万だった。

冒頭で紹介した「Solve」も、同じ層から人気を集めている。実際の事件に基づく犯罪ドラマで、視聴者も犯人探しを楽しめる参加型なのが特徴。

『Solve』のショーランナーを務めるアダム・レダラーさんは、「13歳の子どもにとっての、『ロー&オーダー』(注:アメリカの人気ドラマ)のようなものなのでしょう」と語った。

フェイスブックやYouTube向けにも動画を制作

フェイスブック(『I Have a Secret』)やYouTube (『Yes Theory』)向けの番組も、制作している。ヴァーティカルによると、同社のオリジナルコンテンツの月間アクティブビューワー数は5,000万以上。スポークスパーソン曰く、ヴァーティカルは黒字で、その収益のほとんどが広告収入によるものだという。顧客には、ナイキ、インテル、ワーナーブラザースなどが名を連ねる。

伝統的なテレビ事業が衰退し若者のテレビ離れが進む中、各放送局はNetflixなど大手動画配信サービスとの激しい競争に揉まれている。その様子を見たハリウッドも、モバイルユーザー層の獲得に本腰を入れ始めた。ディズニーは、モバイル動画コンテンツ事業を充実させるため、マードックのメディア帝国の大半を713億ドルで買収。

ドリームワークス・アニメーションの創業者ジェフリー・カッツェンバーグも先月、新しく立ち上げたベンチャー企業WndrCoが10億ドルをユニバーサルやソニー、パラマウントなどから調達したことを発表した。この資金は、ハイクオリティで短いモバイル動画コンテンツの制作に充てられるそうだ。

ごう慢な殿様商売では生き残れない?

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トム・ライトさん(右)。(Jake Michaels for The New York Times)

NBCユニバーサルやコンデナストなど、伝統的メディアの中にもある程度成功している企業は存在する。しかし、今までのところ、この分野の勝者はヴァーティカルのようにアグレッシブなスタートアップ企業がほとんどだ。

「ハリウッドがおかした最大の過ちは、ごう慢になってしまったこと」そう話すのは、最近までヴァーティカルのCEOだったトム・ライトさんだ。「“我々が作りたいものを、観客に与えよう。観客がそれを気に入らないなら、我々の素晴らしさがわからない彼らがおかしいのだ”という姿勢は、もう古いのです」

スマホからテレビに進出!テレビ版は各話30分

8月、ヴァーティカルはテレビ版「Phone Swap」を制作した。スナップチャットのオリジナルシリーズとしては、初の試みだ(スナップチャットは2018年、数十もの番組をリリースした)。テレビ版は、全15話で各30分の長さ。スナップチャット版の約4分と比べてボリュームがある。FOXの放送局で試験的に流された後、10月中旬には継続するかどうか決定されることになった。

「同時に3つの事を提供できなければ、彼らは離れていってしまう」ヴァーティカルのオーディエンスディベロップメント部門ディレクター、ベイリー・ロッサーさんはこう話す。「モバイルユーザーは、コンスタントな刺激に慣れているからです。フェイスブックのフィードをスクロールしている時や、スマホのホーム画面に表示されるアプリ通知をチェックする時、自分の脳がどれほど多くの視覚情報を同時に処理しているのか考えてみてください」

そして、モバイルコンテンツの中では、できる限り沢山“you”を使うのがポイントだという。記者が疑いの眼差しを向けると、「私は真面目に言ってるんですよ!」とロッサーさん。「この層は、ナルシシスティックなんです」

観客目線を何よりも大切に!

ヴァーティカルがマードック帝国のコネを利用していると批判するライバル企業もいる。たとえば、前述のテレビ版「Phone Swap」が放送されるテレビ局は、父ルパート・マードックが責任者を務めている。だが、元CEOのライトさんや後任のヘスス・チャベスさんは、このような批判は嫉妬によるものであり、FOX以外の仕事もいくつか手掛けていると反論した。

「私たちが分不相応なほどに成功したのは、徹底的に観客目線に立つ素晴らしいチームを作ることができたからです」とライトさん。チャベスさんも、「テレビの画面がただ小さくなっただけ、というのは違います。モバイル動画コンテンツならではの、優れた専門的技術の結晶なのです

© 2018 New York Times News Service[With a Murdoch in Charge, a Start-Up Leads the Way on Mobile Video/執筆:Brooks Barnes](抄訳:吉野潤子)

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