星野リゾート代表・星野佳路さんの仕事術を聞くインタビュー。後編は、ビジネスをする中で、星野さんが「することとしないこと」を紹介します。
「競合は常に意識しています」
ビジネスというのは常に競争の世界ですが、中でも私はとくに競合を意識するタイプかもしれません。競合がいるときのほうがやる気が出て、戦闘モードに入ります。
ただ、そこで大事なのは、焦って短期的に業績を上げようとせずに、中長期的な視点を持ち、2年、3年と時間をかけて手を打っていくことです。焦って短期対策をとることは、かえって無駄な作業を増やしてしまうと思っています。
「最初にするのは、“ゆずれないライン”を明確にすること」
星野リゾートは施設の所有はせず、運営のみに特化している会社ですから、オーナーや投資家の方々というのは非常に大切なビジネスパートナーです。パートナーとして組むにあたって必ず最初にしているのが、“ゆずれないライン”を明確にしておくことです。
私たちにとってのそのラインとは、「スタッフにとっての職場環境を守ること、スタッフと顧客の視点を大切にすること」です。それは星野リゾートの重要な競争力であり、理念でもあるので、もしそこをゆずらなければならないのであれば、運営をやめたほうが良いと考えています。
温泉旅館「界」ブランドの運営も星野リゾートが手がける。写真は2018年7月、箱根・仙石原エリアに開業した「界 仙石原」。
「嘘をつかないプロの投資家をパートナーに」
2005年に海外投資家との仕事としてゴールドマン・サックスさんと提携を開始し、初めて「プロの投資家は結果だけを見ている」と気づきました。
彼ら彼女らは数字には非常に厳しいですが、結果に至るまでの過程には一切口出しをしません。決して嘘をつかず、一旦合意したことは必ずやり遂げます。そんなプロの投資家は私たちにとって「この食事は口に合わない」とか「壁の色はこうしたい」などの結果以外へのこだわりを持った投資家の方々よりも、とてもスムーズに仕事ができるパートナーでした。
そういった、曖昧で趣味の世界に入っていくような評価は、ビジネスの世界では非常にわかりづらいのです。そんな訳で、私たちはプロの投資家にパートナーになっていただこうと決めました。
「私の今の仕事は、“やめること”を決めること」
何かをやめるのは非常に難しい。成果が出ていない活動をやめるのは簡単ですが、少なからず成果が出ているものをやめるのは特に難しいことです。
私が今取り組んでいるのは、大きな方向性を考え、リソースの配分転換を行うことです。今はこちらの方向性なのだから、そちらは思いきってやめてみようよ、と提案するのです。
やめて失敗したことも多いですが、やめてみなければわからないこともある。まずはやめてみて、それから考え始めるのも良いと思っています。
——事業の改革と拡大を続け、「日本リゾート界の革命児」と呼ばれる星野さん。自身の中に存在するオリジナルの指針に沿って前進し、日本のリゾート業界の前途を切り拓いています。
自分の「すること・しないこと」をクリアにしておくことは、私たちにもできること。検討・判断・実行は仕事に欠かすことができません。少しずつでもマイルールを明確にしていくことで、前進する力が加速するかもしれません。
※前編「目標は持たない。失敗は失敗ではない/星野佳路さんの仕事術」はこちら。
星野佳路(ほしの・よしはる)さん
1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年に星野温泉の社長(現・星野リゾート 代表)に就任。以後、リゾートホテルや温泉旅館の再生事業、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」などのホテル・温泉旅館ブランドの展開、運営に携わっている。
[星野リゾート]
取材・文/山下紫陽、撮影/柳原久子
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