少子高齢化、労働力不足、経済格差に情報格差……。課題先進国といわれる日本の中でも、それらの課題に真っ先に直面するのが、ほかでもない、地方です。
地方でイノベーションを起こし、解決への糸口をつかんだパイオニアたちが集う熱いカンファレンスがある、と聞きつけ、2018年11月、大阪に向かいました。
地方には、熱いパイオニアがたくさんいた
そのカンファレンスとは、QUM BLOCS(主催:Filament, inc.)。当日は全国各地から駆けつけたスピーカー21人による4つのセッションが、順番に(5分ずつの休憩をはさみ、怒涛のように)開かれました。
ここでは、3番目に行われた「地方の魅力発掘」というセッションから一部を抜粋して、カンファレンスの魅力を紹介したいと思います。
モデレーターは京都を拠点にツアーやイベントを企画する株式会社のぞみ代表取締役の藤田功博さん。
シックな着物姿で登壇した豊原弘恵さんは「和歌山というぜいたく」をコンセプトに、和歌山や三重で古民家を再生させたゲストハウスを運営しています。「はじめは日本の桃を海外に輸出することを考えていたのですが、それよりも、海外から人を連れてきて、日本の魅力を伝えてしまおう、と(笑)」ビジネスを思いついたそう。
森平和歌子さんは、結婚を機に移り住んだ北海道で、農産物の販売促進・商品開発などに関わっています。小さい頃のドイツ暮らしで身についた、日本の良さを外から見る視点が、今のビジネスにつながっていると話します。
15歳から複数の起業を経験しているという鳴海禎造さんは、和歌山でモビリティメーカーを経営。「和歌山に21世紀のHONDAのような企業をつくる」との思いから、電動バイク「glafitバイク」を開発しています。
「いま、どんどん若者が県外に流出している。売上より雇用を生み出すことを大事にしています」と地元の雇用への思いを述べました。
もともとSONYのエンジニアだった安彦剛志さんは、社内ベンチャーとして、アニメや漫画などコンテンツを使って地域を活性化させる“コンテンツツーリズム”を全国各地でしかけています。大河ドラマゆかりの地が旅行先として人気を呼ぶように、「世界中どこでも観光地になるポテンシャルがある!」と意気込みました。
共感するなら金をくれ⁉
左から鳴海禎造さん、豊原弘恵さん、森平和歌子さん、安彦剛志さん、モデレーターの藤田功博さん。
「地方で起業することの難しさは?」の問いに、安彦さんと鳴海さんは「お金」を挙げました。
「社内ベンチャーなので、予算が出ないんです。ただ、名前を知られた会社なので、どこに行っても門前払いはされない。会社の名前を100% 利用しながら、少しずつ資金を集めています(笑)」(安彦さん)
「僕は『共感するなら金をくれ』と言い続け、クラウドファンディングで1億3千万円(!)集めました。その際、電動バイクの魅力を伝える動画をつくったのですが、見た人だれもが欲しくなるようなものに作り込んだんです」(鳴海さん)
「集落の人間関係」を挙げたのは豊原さん。◯◯さんと△△さんは仲が悪い、などと耳に入ってくるような小さなコミュニティでは、独特のやりづらさもある、と述べました。
「難しいことは、皆無」と頼もしく答えたのは、森平さん。「もともと楽観主義なので、トラブルや悩みについてもやるべきことのひとつ、と捉えています。お金がないなら、ノウハウを提供するかわりにこれをしてね、と能力の物々交換をすることだってできる」と語りました。
180人の聴衆が熱心に耳を傾ける。
円の経済圏、人の経済圏
最後に、「地域でビジネスを成功させるコツは?」と聞かれた4人。
「ライトパーソンを見つけること。観光課や観光協会に行って何かやりましょう、ではだめ。商工会の会長と知り合って、さらに青年部会の若手を紹介してもらい、興味を持ってくれる人と組むことですね」(安彦さん)
「本質的であること。地方再生というと、行政が大きな箱ものをつくってハイ終わり、となりがち。それよりも、すでにそこにあるものをどう調理するかを独創的・創造的に考え、ハードル低くスタートすること」(豊原さん)
「付き合いですね。地方は生活圏と仕事の場所が同じ。仕事のボランティア活動や清掃活動なんかも含めて、仕事外の付き合いが仕事に生きてくる」(鳴海さん)
鳴海さんの言葉に、森平さんも「最終的には人と人なんですよね」とうなずきます。「わたしも時間があれば長靴をはいてお客さんの農作業を無償で手伝います。するといつも手伝ってくれるから、とビジネスでも優遇してくれる。そういうことをきちっとして地方で成功する人は、大都会でも成功すると思います」(森平さん)
安彦さんも「東京は円の経済圏、地方は人の経済圏」と述べました。「お金をつかって人を動かすものとは全然違う、人とのつながりをツールとした経済圏が、地方にはある。経営を目指す人にとっては、勉強のチャンスなのでは」
パイオニアたちのいる日本の未来は明るい
クロージングセッションでは、主催のフィラメント代表取締役CEOの角勝さんとCSOの村上臣さんがトーク。
◯◯会社の△△さん、という名刺に書かれた肩書きなんて、地方のビジネスにおいてはあまり重要ではないのかもしれません。大切なのは、困ったときはお互い様、と助け合える信頼関係を(まずはビジネス抜きにして)じっくり築くこと。効率ばかりを重視していたら、この日カンファレンスで紹介されたビジネスの大半は成り立たなかったでしょう。
その地に腰を据え、ときに泥臭く、「人間力」を武器にビジネスを育て上げたパイオニアたちに、尊敬と羨望の念を覚えました。
このセッション以外にも、4つのセッションはどれも濃密で、ビジネスのユニークさやパイオニアたちの熱意に驚かされることの連続でした。そして、こんなパイオニアたちが育っているのなら、地方の、そして日本の未来をそう悲観しなくてもよいのでは、と思えたカンファレンスだったのです。

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