1. Home
  2. Work
  3. きっかけを運んでくれるAIだったらウェルカム!/林千晶さん[中編]

LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

きっかけを運んでくれるAIだったらウェルカム!/林千晶さん[中編]

20190103_3_2_t

2045年、人工知能(AI)と人間の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えたら、私たちの仕事や暮らしはどう変わる?

林千晶さんを迎え、前編では「シンギュラリティの力学」が加速させる「コンバージェンス(統合)」と「ダイバージェンス(多様化)」の各側面にフォーカス。中編となる今回は、AIの進化と台頭によって“なくなる仕事”と、それ以上の脅威について、お話を伺いました。

きつい仕事はどんどん手放して、機械におまかせ

——前編 の最後で、3DプリンターやAIのような先端テクノロジーが社会に導入されていった際のメリットと、その反動としてのバッシングみたいな話題があがりました。今回はさらに踏み込んで、「果たしてシンギュラリティは、私たちの働き方や生き方を、より便利な方向に舵取りするのか? それとも労働者から仕事を奪うのか?」といった議論についての考えをお聞かせください。

20190103_2_2

林千晶(以下、林):たとえば今から100年前の多くの女性が何に時間を割いていたかを思い出してみましょう。毎日ご飯を炊いたり、洗濯物を干したり……つまり家事労働。イヴァン・イリイチ(オーストリアの哲学者、文明批評家)が言うところの「シャドウ・ワーク」ですよね。

洗濯物を毎日1枚ずつ手洗いするのって大変なこと。それが今では全自動洗濯機が代行してくれる。もしも家父長制がまかり通っていた100年前の旦那衆に「全自動洗濯機がありますよ!」って見せたら、たぶん彼らは「うちの家内の洗濯能力が落ちるじゃないか!」などと言って、拒絶したかもしれない。でも、今の私たちからすれば「自由な時間が格段に増えるなら、洗濯の能力など失ってもかまいません!」って感じですよね(笑)。

もちろん選択の自由があり、手洗いを楽しみたい人はやればいい。だけど、洗濯という行為が生活において一人ひとりの義務ではなくなるから、むしろ“手洗い”や洗濯を外注すること自体が新しい価値になる

最近、料理専門家やケータリングを専門にする人が増えてきたことも同様で、もはや料理が女性の義務ではなくなってきているからでしょうね。

もはや家事は義務じゃなくて、新しい価値

かつて「104」に電話をかけて、相手の電話番号を案内してもらうサービスがありましたよね。あれがオートメーション化された際にも「オペレーターの雇用がなくなる!」と騒がれたようですが、今冷静に振り返ると機械に代行してもらったほうが良いと思いませんか? そのように、みんなが大変だったり面倒くさいなと思う仕事を、データやロボットなどの活用で家庭でも解決してくれるのなら、それを歓迎する人はたくさんいると思います。

——「家事労働の外注は、どんどん積極的にやってください!」と。

林:はい。そうして家事労働から女性が解放されたとき、「自分が本当にやりたかった仕事ができる人」が増えてゆくでしょう。同時に、やりがいを感じる仕事=「天職」も一生にひとつではなくなるかもしれません。

たとえば午前中はプロフェッショナルとして一つの仕事をやり、夜はそれとは別に「地域を支える運動」に従事するとする。後者を仕事と呼べるかどうかはまだ未知数ですが、その行為に一定の人たちが「ありがとう」と言ってお礼を支払う仕組みが確立すれば、それが生活を成り立たせるもう一つの柱になる可能性もゼロではありません。

天職は一生にひとつではなくなる

最近、Airbnbが宿泊だけでなくて「体験」も提供しているのをご存知ですか。たとえば従来なら「家に演奏家を呼んで、コンサートを開催する」なんて、よほど裕福か人脈がないと無理ですよね。でも、こうしたWebサービスを駆使することで、お気に入りの演奏家を見つけ、自宅に招いて、趣味の合う友人たちとお金を出し合って、鑑賞会を開催することも可能になりつつあります。

賛同者や参加者を招集するのも、スケジュール管理アプリと連動したAIが候補者をサジェストしてくれる、とか。自分の喜びと他人の喜びが(わずらわしくならない形で)つながるような提案をAIがしてくれるのならば、私は大歓迎です。

——あくまでも“わずらわしくない範囲で”ですよね。

20190103_2_3

もしも、あなたの会社の人事部がAIにすり替わったら!?

林:ちなみに私は「マッチングアプリ」も嫌いじゃないです(笑)。恋人との出会いって、最初のハードルがあるじゃないですか。それが「お見合い」に頼るか、仕事ばかりしている人は「目の前の同僚の中から選んでください」だけなんて、選択肢が少なすぎる気がしませんか? でも、それで相手がうまく見つからずに恋愛を諦めるくらいなら、「もっと精度を高くマッチングしてみせてよ」とAIに期待したい。

ちなみに、なぜ私がAIのマッチングアプリに肯定的かというと「きっかけを増やす」だけで、愛まで作るわけじゃないから。愛を作るのは、出会ってからの勝負でしょ?

Opportunity(機会)の提供にAIが機能するのは大賛成。なぜなら、人間は地球上の全員と出会うこともできなければ、みんなの好みを知ることも、みんなのスケジュールをチェックすることもできない。それこそ、膨大なデータを有効活用してパーソナルなマッチングが実現したら最高です。だけど(産業革命時の弊害のように)AIが普及し、機械に判断をゆだねる部分が拡大していった際、一時的に弊害が現れてくるであろうと懸念しているのが、「きっかけ」だけでなく「判断」までAIに委ねてしまう危うさです。たとえば、会社における人事評価とか。

AIに判断まで委ねてしまうのは危うい

——たしかに、いくら「生身の人間にできない正確な判断を即座に下せる」としても、AIが社員の評価を下すというのは……抵抗感がありますよね。

林:AIを実装しやすいのは、人間を対象にしたケースです。車の自動運転を支えるシステムのように、AIの下す判断が現実的なモノの移動や動きに関わる場合、実装までのハードルはすごく高いですよね。

それに比べると、人間へのフィードバックは、ずっと容易に実現できちゃう。だってAIは情報を提供するだけで、人間が(AIの指示どおりに)動けばいいだけだから。なので、人間の思考や判断を対象にしたアプリ/サービスにAIが導入されるケースが多いのです。

そこで(マッチングアプリのような)恋愛に類似する、もうひとつの大きな領域で、誰もが不満や不平を持ちやすいのが「仕事」です

「この評価でいいのか?」という雇用者側の不安もあれば、「この仕事でいいのか?」という働き手側の疑問や、「こんな評価は不当だ!」という不満もある。そうした部分に関するAIの導入は、今後いやおうなく進展するでしょう。だけど、人間の恋愛とは違って、企業の人事査定にAIが入るのにどうして心地悪さを感じるのかと言うと、「評価の主体」がいなくなるからだと思います。

20190103_2_4

——「AIに仕事を奪われる」ことよりも「AIに評価を下される」ことこそが、真の恐怖だというわけですね。

林:上司が嫌だなと思うならその人のことを愚痴ればいい。でも、「AIによるHR(Human Resourses)テック」という形で、主体のない何かが判断して、その根拠も伏せられたまま「あなたは社会人として未熟です」とか言われたら、反撥しようにも、怒りの矛先がわからない

ある種、絶対評価的な強さがあって、評価された側は逃げ場がありません。これは(AIの介入を)人が恐れているストーリーの最たるものだと思います。なので、そのような方向に向かわない社会を作るべきなのですが、短期的には導入される可能性も否めない。管理職の人もより公平に、より効率よくしようと必死ですから。

——利便性から多くの組織がそうした「AIによるHRテック」を採用すれば、運用のコストも下がるでしょう。

林:そうですよね。願わくば、AIにサポートされた未来のHRテックは、「100人以上のメンバーが、彼のこんな頑張りを高く評価しています」「後輩からの質問や相談が頻繁に寄せられている存在です」みたいに、見えずらい現場の状況を補足してくれる仕組みであってほしい

個人としての営業成績は突出していなくても、その人の存在がハブになって、周囲の社員のパフォーマンスを支えている、そういう(生身の上司の注意が行き届かない)見えづらい頑張りや貢献を評価できるようになる支援ツールなら素敵ですよね。だけど「朝、何回遅刻をしたか」とか表面的なことだけで評価を下してしまうようなHRテックは、やっぱり嫌です。

私個人としては、ユニークで面白い能力を持っている人たちの才能を活かすことに重きを置いてビジネスをつくりたい。ともすれば「コンバージェンス(集中・収束)」に向かいがちな力学を、徹底的に「ダイバージェンス(多様化)」の方向に揺り戻したい。そうすることで、働き方における「べき論」ではなくて、「心からやりたいことに、より時間を割ける社会」が到来する。そんな希望を常日頃、抱いています。<後編に続く>

林千晶(はやし ちあき)さん/株式会社ロフトワーク代表取締役
早稲田大学商学部、ボストン大学大学院卒。花王株式会社を経て、2000年にロフトワークを起業。Webやビジネス、コミュニティなどのデザインを総合的に手がける。デジタルものづくりカフェ「FabCafe」や、森林再生を目指す「株式会社飛騨の森でクマは踊る」なども運営。

ダイバージェンスの先に広がる新しい働き方/林千晶さん[前編]

シンギュラリティを迎えると、私たちの仕事/働き方はどう変わるのでしょう? ロフトワーク林千晶さんに聞きました。

https://www.cafeglobe.com/2019/01/singularity3_1.html

2045年は「知縁」 で結ばれてゆく /林千晶さん[後編]

明るい未来を切り拓くためには? より理想的で開かれた未来の「働き方」と「生き方」を林千晶さんに伺いました。

https://www.cafeglobe.com/2019/01/singularity3_3.html

聞き手/木村重樹、撮影/中山実華、構成/カフェグローブ編集部

  • facebook
  • twitter
  • hatena

この記事に関連する人

    LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

    おすすめ

    powered byCXENSE

    メールマガジンにご登録いただくと、 MASHING UPの新着記事や最新のイベント情報をお送りします。

    また、登録者限定の情報やイベントや座談会などの先行予約のチャンスも。

    MASHING UPの最新情報をご希望の方はぜひご登録ください。