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LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

日本の伝統美と「盛り」の共通点とは?/久保友香さん[前編]

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2045年。仕事、コミュニケーション、教育、アイデンティティ、命のあり方……シンギュラリティを迎えることで変わるもの、変わらないものはなんでしょう?

各界の有識者と検証し、次世代の未来に遺すべき価値観を探る連続インタビュー第4回目は、「侘び・寂び(わび・さび)」のような日本特有の美意識から、さらには現代日本に生きる若い女の子たちの「盛り」カルチャーまでを工学的に分析されている久保友香さんをお招きして、AI時代のアイデンティティについてお話を伺いました(全3回掲載)。

久保友香(くぼ ゆか)さん/メディア環境学
1978年生。2000年慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業。2006年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、 博士(環境学) 。2014年より東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員。目下、日本の女の子の「盛り」カルチャーと、それを支援する「シンデレラ・テクノロジー」について研究中。

日本独自の美意識の“ズレ”を計測する

——この連載インタビューは、広い意味でのシンギュラリティ(機械と人間の立場の逆転)が随所で引き起こされている今現在から、将来への前向きなビジョンや新しい価値観を見据えてゆく企画です。

久保さんは、尺度の曖昧な日本の美意識を工学的に分析することで、その特徴をアルゴリズム化されてきました。さらに最近では、現代日本に生きる若い女の子たちの「盛り(もり)」カルチャーを経て、“バーチャル・アイデンティティ”なる観点に関心が移られているとも聞きました。まずはその経緯についてお聞かせください。

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久保友香(以下、久保):そうしたらまず、その“バーチャル・アイデンティティ”の形成にも活かされると考える……「自分の外見を加工し、公開する」ための技術やツールを、私は「シンデレラ・テクノロジー」と呼んでいるのですが、その話をします。テクノロジーと言っても、街のプリクラ・マシーンや100均コスメからスマホカメラやSNSまで、多種多様ですが。

さらには、そういった「シンデレラ・テクノロジー」に私が興味を抱くようになるまでの経緯についても、最初に説明しておいたほうが良さそうですね。

——ぜひ、お願いします。

久保: 私は小学生の頃から数学が大好きで、大学も迷わず理系に進学し、慶應大学で機械工学の分野にいたのですが、その一方で古い日本の文化が好きでした。たぶん小さい頃、同世代の子供たちよりもひいお婆ちゃんと遊んでいた時間が長かったり、父が演歌番組のディレクターだったので、子供の頃からそういうものを観ていた経験などが影響しているのでしょう。

なぜそれらにこれほど感動するのかを知りたくて、その背景にある「日本人の美意識」にも興味を抱きました。ところが、たとえば「侘び・寂び」とか「禅」みたいな概念的な題材を工学系の研究テーマとして扱うのは、とても難しいです。曖昧な概念なので、簡単に数値化できません。でもどうしてもしたくて、最初は「おもてなし」とか「粋(いき)」を法則化できないかと試行錯誤したのですが、うまく行きませんでした。

そこで最終的にたどり着いたのが「伝統的な日本画の非−写実性」という特徴でした。絵巻でも浮世絵でも、風景や人物を透視図法に従って描くのではなく、独特のデフォルメがされている。それってもしかして、現代のマンガやアニメにも通じることなのでは? と思ったのです。

最初に研究対象としたのは「構図」、次に「顔」に注目しました。とくに「美人画」を分析しました。ある特定の時期に描かれた美人画を見比べてみると、まったく違う絵師が描いているのに、女の子たちの顔の特徴は驚くほど似通っている

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日本の美人画に描かれた顔の変遷(久保友香さん提供)

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久保さんが研究開発した「The Orikao Method」では、美人画に描かれた美人の顔の比率などを測り、デフォルメの特徴を年代ごとに捉え、それをコンピュータで再現している。(久保友香さん提供)

たとえば江戸時代であれば、面長につり目で寄り目の特徴があります。実際の人間の顔は多様なはずなのに、似通っているということは、デフォルメされていることがわかります。その時代ごとの“美人顔”が存在したのではと予想して、実際のヒトの標準顔と美人顔の特徴とのズレを計測し、3次元空間の歪みに変換するメソッドとソフトも作りました。

日本では古来からデフォルメの文化があった!?

——そうした「日本の伝統文化や美意識」の工学的解析の延長線上に、「シンデレラ・テクノロジー」があるわけですか?

久保:はい、こうした美意識が過去の事象に限らず、現代や未来にも通じてゆく局面はないのかと探していて、ふと気づいたのが「いまどきの女の子たちの顔も独特のデフォルメがされている」ことでした。

女の子たちの「盛り」は、自分らしさの表現

久保:それに気づいたちょうど2009年頃は「デカ目」が全盛で、つけまつげの売上も最高に、プリクラの「デカ目」効果も最大になっていました。

——年長者からすれば、当時の渋谷に集まる女の子たちは一様に濃いメイクをして、みんなそっくりな顔に見えるのですが。

久保:そこでまず気づいたのは、私がデフォルメと呼んでいた行為を、彼女たちは「盛る(外見を加工する)」と呼んでいたことです。理想的な加工ができたら「盛れてる」と彼女たちは言う。

デフォルメ=「盛る」

そうしたリサーチは、主に画像解析から傾向を読み取りました。ちょうどガラケーからスマホへの切り替わりの時期だったので、若い女の子の顔写真がネット上に大量にあがっていたので、それらを大量に収集して分析しました。

たとえば歴史上の美人画のモデルや絵を描いた絵師たちには(もう死んでしまったので)「なんで同じ顔なの?」とは聞けません。だけど、今の女の子には聞けちゃうんです。なので(工学研究的アプローチではないのですが)写真を撮り合っている彼女たちに、実際にヒアリングする形で、フィールドワークを始めました。

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——メイクやプリクラに一生懸命な彼女たちに「なんで“盛る”のですか」って聞いて、相手は何と答えましたか?

久保:最初は「あれ、何でだろう?」みたいな感じでしたが、どうやら異性の視線や同性である女友達の目は、あまり気にしていないらしい。でも、よくよく聞いてゆくと、最終的には「自分が自分らしくあるためです!」って言われて、ビックリしましたね(笑)。だって、傍目から見たらみんな同じ顔に見えるのに、彼女たちの言う「自分らしさ」とは何だろうっって。そこに、逆に興味が湧きました。

自分らしくあるために「盛る」

ある日、「盛り」に夢中な女の子と1日行動を共にしました。センター街で買い物をした後、プリクラを撮りに行ったら、「プリクラはトレーニングです!」と言う。今のプリクラって、誰でも簡単に可愛らしく撮れるようにチューニングされています。なのに“トレーニング”とはどういうことか?

そうしたら「機種ごとに、シャッタータイミングや画像処理のかかり方が微妙に違う」のだそうです。だから「この機種だと、このくらいの目の開き方がいい」とか、そういう機材側のクセを読み解いたうえで、彼女たちはそれを使いこなしていた。ある種のハッカーみたいなセンスを持っていたことに衝撃を受けました。

また、ドン・キホーテで購入した“つけまつげ”も、既製品をそのまま用いるのではなく、複数購入し、自宅に持ち帰った後で、ハサミで切り刻み、ピンセットを使ってカスタマイズします。そういうディテールまで踏み込んでゆくと、一見「みんな同じに見えてしまう」彼女たちの顔にも、それぞれの個性があることが判明しました。

さらには、そうした「同じコミュニティ」内の女の子同士ならば分かり合える「個性」は、コミュニティ外の大人たちには、まず読み解けない! だから大人にはそっくりな顔に見えるのだとわかったことが、個人的には、とても大きな発見でしたね。

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——すごいニッチなユース・カルチャーですね。ところでそれらが「AI時代のアイデンティティ」と、どう結びついてゆくのでしょうか?

久保:はい、そろそろ本題であるAIの話に絡めていきましょう。彼女たちにとっては「現実のコミュニケーションで見せる顔」と「ネット上のコミュニケーションで見せる顔画像」の2種類の顔があります。それぞれが形成するアイデンティティを、私は“リアル・アイデンティティ”と“バーチャル・アイデンティティ”と呼んで、区別しています。

そして「盛り」というのは、後者の“バーチャル・アイデンティティ”のビジュアルを形成するための行動なのです。 <中編につづく>

聞き手/木村重樹、撮影/中山実華、構成/カフェグローブ編集部

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