「家事代行」という産業をつくるべく奮闘してきた株式会社ベアーズの高橋ゆきさん。その道のりは平たんどころか、荒くれる大海のよう。それでも、明るく愛にあふれ、今もパワフルに突き進んでいる。いつも笑顔で話す高橋さんは、どのようなキャリアを歩んできたのか。たくさんのエピソードの中から、ほんの一部分を見せていただいた。
高橋ゆき(たかはし・ゆき)さん
家事代行サービスのパイオニアであり、リーディングカンパニーである、株式会社ベアーズの取締役副社長。社内では主にブランディング、マーケティング、新サービス開発、人材育成担当。家事代行サービス業界の成長と発展を目指し、2013年一般社団法人全国家事代行サービス協会設立以来、副会長を務める。経営者として、各種ビジネスコンテストの審査員や、ビジネススクールのコメンテーターを務めるほか、家事研究家、日本の暮らし方研究家としても、テレビ・雑誌などで幅広働く活躍中。2015年 には世界初の家事大学設立、学長として新たな挑戦を開始。2016年のTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でも家事監修を担当した。1男1女の母。
両親の会社が倒産し、破産手続きを担う
メディアにも引っ張りだこの高橋さん。主人公の職業が家事代行だったドラマの監修にも携わり、家事代行業の「顔」と言ってもいい人だ。そんな高橋さんが、キャリアの中で大きな学びを得たできごととして挙げたのは、自らも働いていた両親の会社が倒産し、両親がともに破産申告をしたこと。
「25歳の時でした。私自身が破産管財人のアシスタントとして、債権債務の整理などを担当したんです。これまでちやほやしてくれていた周囲の人があっという間にいなくなって、愕然としました。会社や資産の大きさに『すごいね』と言っている人たちは、それがなくなったら離れてしまうものだと気が付いた。だから、私は今も『ベアーズの高橋ゆき』ではなく、『高橋ゆき』個人として付き合っていけるような関係性を築くようにしています」
大変だった手続きを終えたあと、知り合いから「香港で働かないか」というオファーを受け、すでに結婚していた夫と2人で海を渡った。順調に仕事を進め、子どもを産んだ高橋さんに、香港の文化はとても優しかったという。
「フルタイムで働きながら、フィリピン人の方が家事や育児を支えてくれる仕組みが整っていました。私が出会ったスーザンは、月額6万円ほどで、住み込みメイドとして週6日家事や育児をサポートしてくれるのです」
その後、帰国することになった高橋さんだが、当時の日本には、特別な職業や富裕層の人が雇う家政婦やお手伝いはいたものの、一般家庭の家事をサポートする文化や仕組みはほぼなかった。
「産業をつくろう」を合言葉に
夫と2人、日本になかった「産業」をつくるべく、家事代行業を営むベアーズをスタートさせる。1999年に立ち上げ、年末の大掃除の時期だったこともありなんとか売り上げが立った。
「ところが、その後はなかなか立ち行かなくなってしまい、私が他社へ『出稼ぎ』へ行くことに。2歳と0歳の子どもを抱え、一家を支えるべくワーカホリックのように働きました。ところが、2年も経った頃、パニック障害になってしまったんです」
パニック障害は、合計4年もの間、高橋さんを苦しめた。
「体を壊してから、それまでの考えを見直しました。仕事で手を抜く自分が許せなかったけど、いつも競歩のように歩いていたら倒れてしまうと知りました。前に進みながらも、歩幅は変えられるし、立ち止まる日があってもいい、そういう大切なことを知ったんです」
思いを伝えなかったら不幸になる
パニック障害を抱えながらも、ベアーズに復帰した高橋さん。戻ってきた会社で感じたのは、人間関係の違和感だった。
「5人いた事務職の女性が忘年会で大粒の涙を流し始め、『どれだけ頑張っても、うまく行っても、まだまだこれからだね、と言われてしまう』『私たちは拡大拡充なんていりません』と言うのです」
社長である夫や高橋さん自身の目標は「産業をつくる」こと。一般的な成長で満足するのはあり得なかったのだ。
「大切なことを伝えていなかったのだと、大いに反省しました。私たちは、経営者以前に人間として未熟だった。金メダルを目指しているのに、そのことを伝えずに辛い練習ばかりしていたら、ついていけないのは当たり前です。人間関係と同じ。愛しているなら、『愛している』と伝えなくてはならないんです」
その後、「ついていけない」と言った女性たちは同日に退職し、その分の仕事は高橋さんにのしかかった。さぞかし苦しい経験談があるのかと思いきや、「その時期に採用した男性が今は取締役に成長して……」と、懐かしそうに目を細めて振り返る。その愛情が、高橋さんの強さなのだろう。
仕事で大切にしているのは「そこに愛はあるのか」と問い続けること。理想は母親の愛。社員のみんなが、毎日幸せを感じていけるような会社を作っていきたいという。
「まだ道半ば。富士山でいうと2合目くらい」と言う高橋さん。ベアーズを創業したころのように高い場所を目指す気持ちは変わらないまま、愛のある経営をし続けていく。
一問一答、高橋さんのお気に入り
Q:朝のルーティーンは?
起きてすぐ、常温の水をコップ3杯一気に飲み干す。その後に座禅。時間は決めず、気の向くまま。
Q:デスクの上には何を置いていますか?
40代でがんで亡くなったアシスタントが生前にくれた手作りのテディベアと、15年ほど前、自由が丘に支店を作った際、スタッフから記念にもらった小さなクマの置物。
Q:お気に入りのファッションアイテムは?
父が63歳で亡くなったあと、宝石店から届いた真珠のネックレスとピアス。生前にオーダーしてくれていたもの。「ここ一番」の商談やプレゼンでは、これを身に着けて乗り越えてきた。
Q:愛読書と最近読んだ本は?
愛読書は『イノベーターたちの日本史』(米倉誠一郎著)と『ティール組織』(フレデリック・ラフ―著)。最近読んだ本は『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』(デイヴィッド・S・キダー著)。
Q:欠かせないスマホアプリは?
LINEとMessenger。メッセージは必ず24時間以内に返信する。
Q:人から受けたアドバイスで印象に残っているものは?
「You should be proud.(誇りを持ちなさい)」
香港で働いているとき、娘のようにかわいがってくれた女性からの言葉。
「人生は扉の連続。扉の向こうの人に、こちら側の状況は関係がない。だから、扉を開けるときには最高の笑顔を用意しなさい」と言われてから、疲れていても、落ち込んでいても、ドアを開けるときには最高の笑顔でいることを守っている。
Q:1か月休みがあったら何をしたいですか?
その時にならないとわからないけれど、行きたいところに行って、会いたい人に会って、やりたいことをする。
撮影/柳原久子

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