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CONFERENCE:MASHING UP vol.2

偏見には2パターンある? 知っておくべき「バイアス」の構造

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誰もが無意識に持っている偏見や差別。このアンコンシャス・バイアスこそが、ダイバーシティの実現を阻んでいるとも言われています。

アンコンシャス・バイアスの構造を明らかにし、その呪縛を解く鍵を探すことは私たちの大きな課題。2018年11月29日・30日に行われたMASHING UPで、有識者を招いたトークセッションが行われました。

差別をなくすために。まずは構造を知ろう

セッションに登壇したのは、雑誌『WIRED』日本版の前編集長として活躍後、コンテンツレーベルである黒鳥社を立ち上げた若林 恵さん、ウェブマガジン「NEUT Magazine」編集長の平山 潤さん、気鋭の社会学・障害学者として知られる東京大学准教授の星加良司さん

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黒鳥社の若林 恵さん。

「ダイバーシティや差別について考えようとすると、体験論や個別論になってしまいがち。でも、そういうものには構造があることを知っておくことが大切。そうでないと『結局は人それぞれだよね』という雑な話で終わってしまう」という若林さんの言葉に応えて、まずは星加さんがアンコンシャス・バイアスの構造を紐解いてくれました。

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東京大学准教授の星加良司さん。

星加さんによると、バイアス(偏見、先入観、ステレオタイプ)は顕在的なもの、意識的なもの(コンシャス・バイアス)と、潜在的なもの、無意識的なもの(アンコンシャス・バイアス)にわけることができるとのこと。そして、この2つの間のずれが、大きな問題を引き起こすといいます。

「人間が持つ潜在的なバイアスを調べることができる、Implicit Association Test(IAT)やFUMIEテストと呼ばれるテクニックがあります。たとえば『障害者をどう思うか』をテストすると、顕在的にはポジティブな態度をとる人が、潜在的にはネガティブな意識を持っていたりする。でも『あなたは潜在的に、障害者に対して偏見を持っていますよ』と自覚させると、それを是正しようとする態度変容が起こるんですね。

ところが潜在的偏見を持つ人に『あなたは偏見を持っていません』とウソの告知をすると、そこで安心してしまうのか、露骨にネガティブな行動をとるようになるのです。こうした調査結果から、差別をなくすためには、潜在的なバイアスを意識化させることが非常に重要だと言われています」

外からの抑制動機が強まると、潜在的偏見は強化されてしまう

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潜在的偏見を抑制する動機としては、内発的なもの(自分の信念)外発的なもの(他者からの視線)があると星加さん。皮肉なことに外発的な抑制動機が強まると、潜在的には偏見が強化されてしまい、むしろ逆効果になるという調査結果があるといいます。

人は自分で決めたことには行動力を発揮するけれど、他人から決められたことには反発したくなるもの。そのメカニズムがバイアスにも表れるのかもしれないと星加さんはいいます。アンコンシャス・バイアスを減らしていくためのアプローチには、工夫が必要だと指摘しました。

望ましいバイアスとは何なのか

その後も「彼氏(彼女)いるの?」「年末は実家に帰るの?」といったテンプレート化されたコミュニケーションに潜むアンコンシャス・バイアスや、若者と団塊の世代の間に立ちはだかる偏見の壁について……など、3人のトークは次々に展開。

若林さんからは「基本的にバイアスは誰にでもあるし、文化というのはバイアスの体系でしょう。バイアスをなくそうという議論には現実味がない。逆に望ましいバイアスとは何なのかを考えられないだろうか?」という問題提起もなされました。

平山さんが編集長をつとめる「NEUT Magazine」は、その名の通りニュートラルであること、偏らない視点をどれだけ持てるかがテーマになっているといいます。

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NEUT Magazineの平山 潤さん。

「日本でも起業したり、色々な社会活動をしている人がいる。こんなこともできるんだ、こんな人がいてもいいんだということをまずは情報として伝えたい。そこにバイアスはかかっているんですけど、あえてニュートという媒体名をつけることで僕らのスタンスを表明するというか、多様性が受け入れられる社会にしていきたいという思いがあります」

人間だけでなく人工知能にもバイアスがある?

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最後に若林さんが投げかけたのは、Amazonが開発していた採用AIシステムが男性ばかり選ぶ傾向にあり、運用廃止になったという話題について。

AIはこれまでの人間社会の経験をビッグデータとして学ぶので、そこには顕在的なものも、潜在的なものも含めて、さまざまなバイアスが含まれています。

しかしディープラーニング技術の発展により、AIの思考回路はすでに人知の及ばないものとなっているため、そこから導き出される回答にどんなバイアスが含まれているのか、人間が理解することは難しくなっていると星加さんはいいます。

「AIに望ましい判断をさせようとするなら、その学習プロセスの中に、人間社会側の規範的な評価軸をどうかませていくかが重要です。それを入れていかないと、人間が持っている知恵や賢さが、どんどん失われてしまうことになりかねません」

これに対し若林さんは、「やはりデータによる選択、選別が強まっていけばいくほど、たとえば企業なら、自分たちが体現したい価値はなんなのか、どんな社員や顧客が望ましいと思うのかを規範化していかなければいけない。今まで以上に、そうなっていきそうですね」と話しました。

人間だけでなくAIにも影響を与えるアンコンシャス・バイアス。その呪縛の強固さとともに、自分の意識下にある偏見と向き合うことの大切さを教えてくれた、貴重なセッションでした。

星加良司さん(東京大学准教授)
東京大学大学院教育学研究科所属。2009年10月より、同年4 月に教育学研究科に新設された「バリアフリー教育開発研究センター」に着任。専門は社会学。障害者を無力化する社会的な諸関係・諸編成に関する研究を行っている。近年の主な研究テーマは、ディスアビリティの社会モデルに基づく社会理論、障害者のシティズンシップと社会的位置、障害平等施策としての合理的配慮、社会的包摂のためのバリアフリー教育等。

平山 潤さん(NEUT Magazine(Be inspired!)編集長)
1992年神奈川県相模原市生まれ。成蹊大学経済学部卒業。「先入観に縛られない<ニュートラル>な視点」を届けるメディア「NEUT Magazine」の創刊編集長を務める。消費の仕方や働き方、ジェンダー、セクシュアリティ、人種、アイデンティティなど、世の中の「当たり前」に挑戦する人々から刺激をもらい、それを少しでも多くの人に届けられるよう活動中。

若林 恵さん(黒鳥社 編集者)
1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社に入社し『月刊太陽』の編集部に所属。その後、2000年にフリー編集者として独立し、雑誌、書籍、展覧会の図録などを多数手がける。また、音楽ジャーナリストとしても活動。2012年には『WIRED』の日本版編集長に就任。2017年に退任し、2018年、黒鳥社(blkswn publishers)を設立。著書に『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)。

MASHING UP

アンコンシャス・バイアスを考える
11月30日 @TRUNK(HOTEL)

撮影/間部百合

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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