「ダイバーシティ」という言葉は私たちの日常に浸透してきています。ですが、その推進を図る企業内でも、「関心層と無関心層」に分かれてしまっているのが現実。
企業内の多様性を推し進めるにあたって、無関心層にいかにリーチすべきか。MASHING UP(2018年11月29日・30日開催)では、各企業で行われている実例も交えつつ、本音で語り合いました。
登壇したのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの田口周平さん、東 由紀さん、ヤフージャパンの湯川高康さん。モデレーターは電通/電通ダイバーシティ・ラボの半澤絵里奈さんです。
“リスク管理”としての取り組み
東 由紀さん。
セッションは、「今日はプライベートですか? それとも業務の一環で参加していますか?」という、モデレーター半澤さんの会場への問いかけから始まりました。
すると、「業務で来ている」という人が、プライベートで参加した人よりも多い結果に。企業として、ダイバーシティ&インクルージョンを推進していきたいと考えている人が多いようです。
性的マイノリティを支援する「アライ(Ally)」として活動し、自身も企業で会社員として働いている東さんは、企業がダイバーシティ推進を行う理由について、「いろんな人が来てくれれば、たくさんの人が働きやすくなる。そして、それはリスクの管理にもなる」と語ります。
たとえば、リスク管理に失敗した事例にはどのようなものがあるのか。差別的な発言で雑誌が休刊したり、広辞苑が「LGBT」の項目を書き換えた例などがあがりました。
SNSが普及している現在は、炎上が起こりやすい時代ともいわれます。CMの表現がネットで炎上を招いたり、雑誌やテレビの内容が議論を巻き起こしたりすることもあります。その一方で、「そういう社会であることを覚悟していない状態でダイバーシティを取り入れ、インクルージョンを怠ると、悲惨なことになる」という警鐘も鳴らしました。
多様性は企業の競争力にもなる
ジョンソン・エンド・ジョンソン 田口周平さん。
「マイノリティが意見を言いづらい環境では、イノベーションが発生しづらい」と、語るのはジョンソン・エンド・ジョンソンでマイノリティグループの活動に携わる田口さん。
ダイバーシティ&インクルージョンというテーマはCSR(企業の社会的責任)の観点で話題にあげられることも多いもの。ですが、そもそも「マイノリティを含む多様な人材がいる状況は企業の競争力の強化となり、企業戦略にもなる」と、企業が多様性を進めるべきもうひとつの側面について言及しました。
ヤフーでダイバーシティ&インクルージョンを進める湯川さんも、「カリスマ経営者がいて、それについていくだけであれば楽かもしれないけれど、そうなっていないのが現代です。個が自分の才能を発揮することが大切なんです。そして、それがヤフーらしいダイバーシティだと思います」と発言しました。
各社のダイバーシティ推進方法は?
ヤフージャパン 湯川高康さん。
では、実際にヤフーではどのようにダイバーシティ&インクルージョンを進めるているのでしょうか?
「数年前より、執行役員がLGBTや女性活躍などの有志的なダイバーシティ推進活動のスポンサーとして参加し、活動を支援しています。いまでは活動の認知度が上がり、効果も出てきていますが、このままだと参加していない人と意識の格差が生まれてしまう。ここからどうステップアップさせるかが、重要です。多くの社員が“この活動を当たり前にすべきこと”と自然に考えられるようになることが、次のステップだと思っています」と湯川さん。
「また、私自身も、女性活躍や、障がい者の方、LGBT、外国人の方たちの活動などに参加しています。エンジニアを中心に海外からの社員を受け入れるにあたっては、どのように一緒に活動していくかを考えながら、実行しているところです。例えば、外国人向けに日本の文化を学ぶイベントを行ったことがありますが、それだと日本人が入りづらいという意見がありました。特別扱いが逆効果になってしまうこともあるのです。このイベントの場合なら、一緒に日本の文化を学ぼう、とすれば間口を広げられます」と、課題も共有してくれました。
田口さんは、「我々がボトムアップの取り組みとして全世界で行っているユニークな活動の一つが、人種、性的指向、職業経験、退役軍人のグループ、障がいの有無などのマイノリティ領域に着目した、有志の従業員による啓発活動である、エンプロイー・リソース・グループ(ERG)です」と、ジョンソン・エンド・ジョンソンの取り組みをシェア。
「ですが、ダイバーシティを推進する課は置いていません。というのも、推進課を置くのは一長一短があると思うからです。担当者が頑張ってくれる反面、担当者が頑張ることで、[担当者]対[他の人]という構造も生まれてしまう。私は、その構図はもったいないことだと思うんです。なので、社員全員が責任感を持てるように、弊社ではプロジェクトチームはあっても、専任の担当は置いていません」
また、「いわゆるボランティア活動にしないことも重要」と発言。「弊社では、業務時間内にERG活動ができて、それが評価の対象にもなっています。年間の目標設定に取り入れてもいい。そうすることで、社員の意識が変わっていきます」と、意識改革のヒントを提示してくれました。
「わたしは理解者です」という表明が働きやすい職場をつくる
電通 / 電通ダイバーシティ・ラボ 半澤絵里奈さん
そして、企業内でも個人でできる活動として、「アライ(Ally)」があります。
このアライについて、東さんは「性的マイノリティのことを理解し、支援しようと行動する人」と定義を紹介。そのうえで「“行動する”ということまで含めて、アライです」と、強調しました。
その行動の一つが、「私はアライです」ということを表明する6色のレインボーグッズを使用することだそう。今はネックストラップやステッカー、Tシャツなど、アライであることを示すグッズが数多く販売されており、多くの企業が独自にレインボーグッズを作成してアライの社員に配布しています。
「インビジブル・マイノリティは差別を恐れて隠れています。私も、5000人の社員の前でLGBTとアライで構成する団体を立ち上げたと発表するときには、もう会社にこられなくなるかもしれないと思っていました」と、自身が性的マイノリティであることを公表している田口さん。
「グッズは、アライ=理解者の存在を可視化してくれます。当事者はそれを見て『自分はここにいていいのだ』と思う。ステッカーを貼っている社員を見るだけでうれしくなり、"心理的安全性"を実感することができるのです。そう思えることで勤続年数も上がります」と話します。
東さんの紹介するデータによれば、アライがいる職場で働いている人は、そうでない場合と比較して13%も勤続意欲が向上するそう。
「アライとはもともとLGBTのサポーターを意味する言葉として使われていますが、これからはほかのマイノリティ属性の理解者である、という意味も加えていきたい。例えば、がんを抱えながら仕事をしている人を理解し、働きやすい環境づくりをサポートする“がんアライ部”という活動もあります。人は誰でも何かしらのマイノリティ性を抱えているもの。アライの活動が広がることで、さまざまな違いに意識を向けることができます」(東さん)
無関心層にアプローチするには?
セッションの最後に、登壇した皆さんは次のように話しました。
「一つの施策がすべての問題を解決することはないので、企業の状況やニーズに応じて優先順位を考える必要があります。まずは、組織の中で何がマイノリティとされているのか、問題はどこにあるのか、という認知を無関心層に広げていきたい。例えばLGBTを扱った映画の上映会を職場で実施することは、LGBTに興味がない人に対してアプローチできる効果的な機会だと思います」(東さん)
「“信頼・感謝・正しさ”、これが私の人事観です。これをすべての人が実践すれば、ダイバーシティ推進なんて言わなくても、他者を、多様性を認める世界が可能になります。そうなったらハッピー。できることから進めていきたい」(湯川さん)
「無関心層に効果があるのは、支援することがイケていると思わせる動機付けではないかと思う。支援している人の意識が高いから、という言い訳を黙認してはいけない。支援しないなんてもったいない、困っている人を見て見ぬふりするのは格好悪いし、誰かの力になりたいと思う人はイケているという空気をつくる。それには、アライの可視化が重要です」(田口さん)
企業ごとに取り組み方はさまざまな本テーマ。モデレーターの半澤さんは「何かヒントになることを見つけてもらえたら嬉しい」と、会場の一人ひとりが次の一歩を踏み出せるよう、やさしく背中を押す言葉を投げかけました。
田口 周平(ジョンソン・エンド・ジョンソン)
サービス業から外資のゲーム会社、精密機器メーカーを経て、ニューヨークへ留学。インターナショナルスクールで国際関係学を学び、ニューヨーク市役所で人事のインターン後2011年に帰国。同年ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社メディカル カンパニー人事部に入社。 2015年ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループの有志のLGBTとアライで構成された社員団体Open&Out Japan を立ち上げ、同団体代表に就任。 2018年名古屋商科大学大学院マネジメント研究科修了、経営学修士(MBA)。
東 由紀
外資系と日系の金融関連企業の営業・マーケティング業務を経て、業務の傍らLGBTなど性的マイノリティを支援する「アライ」としてLGBT社員ネットワークのリーダーを2009年から務める。2013年に人事にキャリアチェンジし、現在は外資系コンサルティング会社の人事部門でタレント・ディベロップメントとインクルージョン&ダイバーシティ推進をシニア・マネジャーとして統括する。中央大学大学院戦略経営研究科修了(MBA)。
湯川 高康(ヤフージャパン)
2003年5月、ヤフー株式会社入社。採用、労務、給与厚生リーダーを担当。2012年、経営体制変更時にヤフーバリューを軸とした評価と報酬制度を導入。2014年4月よりピープル・デベロップメント戦略本部長として、人事とオフィス部門を管掌。2016年、本社移転に伴い、働き方改革を推進。2018年4月より現職。オフィスや健康管理を含む人事全般を統括。
半澤 絵里奈(電通 / 電通ダイバーシティ・ラボ)
2009年電通入社。メディア/営業/マーケティング/ビジネス開発部門を経て、国際カンファレンスの立ち上げやメディア企画開発をプロデュース。幼少期から多様性に溢れた環境で過ごした経験を活かし、電通ダイバーシティ・ラボではダイバーシティ&インクルージョン領域のプロジェクトプロデュース、及びウェブマガジンcococolorの副編集長を務める。1984年、香港生まれ。
MASHING UP
多様化する企業文化を無関心層にリーチさせるには
2018年11月29日 @TRUNK(HOTEL)
撮影/酒 航太

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