2018年11月29日・30日に東京・渋谷のTRUNK(HOTEL)で開催されたビジネスカンファレンス「MASHING UP」第2弾。「Bravery & Empathy ——勇気と共感」というテーマのもと、業種、性別、国籍の垣根を越え、ダイバーシティのこれから、そして新しい働き方について多くの議論が交わされました。
開催から2か月。ヤフー株式会社から、MASHING UPに参加した60名のうち5名が集まり事後座談会を実施。
ヤフーは「情報技術で人々や社会の課題を解決すること」を企業ミッションに掲げています。また、当初よりMASHING UPの活動に賛同し、女性・育児・LGBT・障がい者・グローバル人材など、多様な人材が活躍できる環境をめざすべく、ダイバーシティ推進に取り組んでいます。
座談会の参加メンバーは、実際にヤフー社内で組織づくりに取り組むリーダー層を含む5名。組織内の課題解決につなげるためのきっかけづくりや参加者から組織へのアウトプットの後押し、など、MASHING UPで得たものを、組織で活かしていきたいと考えている、と言います。
ファシリテーターにMASHING UPイベントプロデューサー中村寛子さん(mash-inc.代表)を迎え、それぞれが直面する課題や取り組みをシェアし、ダイバーシティを推進するうえで大切なポイントを考えました。
MASHING UP参加の背景にあった、組織の課題とは
肥後静香さん(左上)、前田尚哉さん(中央上)、吉竹志保さん(右上)、中山一紀さん(左下)、岩田弥和さん(中央下)、ファシリテーターを務めたイベントプロデューサー中村寛子さん(右下)。
ヤフーの企業としての課題は、組織力を最大化するために、多様な人材一人ひとりがより最大限の能力を発揮するにはどうしたらいいのか、というところ。
では、ヤフーで働く「個人」から見た「組織の課題」にはどんなものがあるのでしょうか。
メンバーの人材開発に注力しているマーケティング本部長の岩田弥和さんは、よく言う「仕事がパツパツ」という表現ひとつをとっても人によって受け取り方が違うため、まずは個々の状態を知ることが大切、といいます。「働き方改革」を理由に、残業を一律になくすことが、組織にとって良い判断になるとは限らないようです。
岩田弥和さん(サービス統括本部マーケティング&コミュニケーション本部長)
岩田さん「リソース不足は常に課題ですが、仮にパツパツだったとしても“仕事が楽しい”と感じるなら、それは充実した状態である場合もあるのでは。残業を一律に禁止することが果たして“善”なのか。忙しくても楽しく働けている姿というのは、組織にとっても重要ですし、それがみんなのパワーになるという気がします」
続いて話題に上がったのは、女性が管理職として働くことの難しさや、ロールモデルの必要性について。
財務の本部長として多くの女性の働き方を見てきた吉竹志保さんは、女性役職者として自分自身がロールモデルのひとりとしてイメージできるような人物になることを意識しているそう。とはいえ、フルタイムで働く管理職と時短勤務の女性社員には、簡単に超えられない差があると話します。
吉竹志保さん(財務統括本部経理本部長)
吉竹さん「育児のため時短勤務で働く社員は、物理的に働く時間が足りないのです。時短で働く女性社員の労働時間はフルタイムで働く管理職の約半分。このなかで部下の育成に時間を割き、残りの時間で自分の仕事を行い、フルタイムで働く管理職と同じような成長のキャリアパスを目指すのは、難しいと言わざるを得ません」
また、ダイバーシティ推進活動として、女性キャリアに関する有志のプロジェクトリーダーを務める肥後静香さんは、扱うサービスやプロダクトごとに部署が縦割りになってしまっていることを課題と捉えているそう。
肥後静香さん(検索統括本部検索本部/ウーマンプロジェクト リーダー)
「部門によってカルチャーや男女比も違いますし、職種の比率も違います。でも、どこでどんな仕事をしていたとしても、困ったときに助けてくれる人がいたり、励ましてくれる先輩がいるという状態が理想かなと。有志のプロジェクトはまだそこまで推進できておらず、これも課題のひとつです」
課題への取り組み。カギは相手への理解とコミュニケーション?
96名の部下(うち62名が女性)を抱える八戸センターから参加した、カスタマーサポート部長の前田尚哉さんは、管理職として組織のダイバーシティを考えるとき、性別や指向だけでなく「それぞれが置かれている環境」も踏まえて考えなくてはいけないと感じているそう。
前田尚哉さん(SR推進統括本部メディアCS本部八戸メディアサポート兼コマースサポート部長)
前田さん「ここ数年で、私の部門にもさまざまな状況の人、さまざまな働き方をする人が増えました。それにより、今まで自分が見聞きしてきたものや経験だけでは判断しきれない場面も多くなりました。育児や介護など、同じ会社に勤めていても年数を重ねていくと、環境や状況は人によって変わっていく。それらを理解したうえで、担当している部署のメンバーたちと向き合っていかなきゃいけないなと思っています」
検索・広告サービスのプラットフォーム開発の本部を率い、本部長としてエンジニアをまとめる中山一紀さんは、部門全体で心がけていることがあるといいます。
中山一紀さん(プラットフォーム統括本部開発1本部長)
中山さん「社外の人はもちろん、社内の他部署の人たちとも密に話せるタイミングがあれば、一緒に課題解決ができる。しかし、なかなか自然発生的にそういう場面は生まれません。そこで私たちの部門で心がけているのは、自分たちから提案に行く機会や、ディスカッションの機会を作ること。たとえ直近の課題解決には至らずとも、お互いを知ることにつながりますから」
大事なのは「WHY」を突き詰めること!
組織のなかで果たすべき役割と、プライベートの生活。同じ組織で働く仲間にも生活があるということを視野に入れることが、これからの組織づくりには不可欠といえそう。
ファシリテーターの中村寛子さん(mash-inc. 代表)
誰もがいきいきと活躍できる、ダイバーシティマネジメントを実現する方法とは——。ファシリテーターの中村さんが最後に問いかけたのは、この大きな課題に対し「実際の現場で誰が動くべきか、そして個人はどうあるべきか」という疑問でした。それぞれ部署や立場も違う5名はどう考えているのでしょうか。
吉竹さん「誰かが時短勤務になると、その業務を誰かがカバーする。もちろん、組織としてカバーすることは必要ですが、誰かが負った“しわ寄せ”を、現場でどう解決していくかを早急に考えなくてはなりません。 一人ひとりに喚起させて『個』として考えていくことが大切だと思います」
前田さん「ダイバーシティ推進の目的を共有していないと、誰かに負担が偏ったり、リソースが不足して回らなくなったりして、“あれ、なんでこうなってるんだっけ”となってしまいますよね。メンバーがお互いを尊重しあうこと、各人の相互理解、ダイバーシティ理解のレベルを上げていくことも必要だと感じます」
中山さん「“How(ツール)”に頼るのではなく、“Why(なぜ)”を共有し、しつこいくらいのコミュニケーションが大事だと思っています」
肥後さん「会社にいる利点は、いろんな人と共に働いて、まわりとコミュニケーションすることで、自分だけでは生み出せないものを生み出すことができること。そのためには、一人ひとりの立場や環境が変わったとしても、何かを工夫すれば、新しいことができる、と誰もがポジティブに思えたらいいんじゃないかなと思います。
変化しないなんて無理で、いい変化も悪い変化も起きますが、みんなで知恵を巡らせれば解決できる。日々の業務のなかで、事業がそういうふうにまわっていったらいいのかなと」
岩田さん「私もそれが多様性だという気がします。“結果的にそういう状態(ダイバーシティが推進された状態)になっている”のがゴールかな。そんなイメージですね」
日々の業務のなかで、ひとりひとりが自分がやるべきことはなにか、組織にとって意味のあることはなにか、なぜやるのかという「WHY」を突き詰めた結果、それがダイバーシティの実現につながっていく。座談会で見えてきたのは、そんな前向きなビジョンでした。
チームごと、組織ごとに状況も課題もさまざま。ダイバーシティについても「こうすればいい」という明確な回答はありません。しかし、各組織・個人が自分自身、そして組織にとって意味のあることを突き詰めた結果、各々の組織に適した形で、働き方改革・ダイバーシティ推進が実現されていくのかもしれません。
組織論からコミュニケーション論まで、幅広く深く展開したディスカッション。深い学びを次に活かしたいという参加者の言葉には、力強さがありました。
取材・文/田邉愛理、撮影/今村拓馬
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