小さなからだを大きな電動車いすにゆだね、人混みのなかをスイスイと進むひとりの女性。骨の弱い障害「骨形成不全症」というハンディキャップを抱えながら、ひとり暮らしや海外留学、結婚を経験し、現在はふたりの子育ても楽しむコラムニストの伊是名夏子さんです。
2018年11月29日・30日に開催されたビジネスカンファレンスMASHING UPで行われた伊是名さんのセッション「身長100cmで2児の母―バイタリティあふれるバリアフリー人生とは?」。聞き手はフォーブスジャパンの井土亜梨沙さんが務めました。
総勢10名のヘルパーさんを頼り、仕事に子育てにと人生を謳歌
伊是名さんは1982年に沖縄で産声をあげました。しかし一晩中泣きやまないため検査を受けたところ、なんと両足が骨折。伊是名さんは骨が弱くて折れやすい「骨形成不全症」という障害を抱えて生まれてきたのです。
「大人になった今でも、朝寒くてふとんを足で引っ張ったら“ポキッ”、車いすに靴が引っかかったら“ポキッ”。ボールなんて飛んできたら100%ダメですね(笑)。これまでに30回以上は骨折しているので、『今のはきれいに折れたから1か月ぐらいでくっつくかな』なんて見当がつきますよ」
コラムニストの伊是名夏子さん。
そんな伊是名さんには5歳と3歳の男の子がいます。伊是名さんは身長100cmで体重20kgと小柄なこともあり、「家族4人で出かけても、パパが3人の子どもを連れているように思われちゃう。私にもキティちゃんやトーマス柄のコップで水が出てくるなんてことはしょっちゅう」とのこと。
大学を卒業したころから「子育てをしてみたい」という思いが湧き、自分が子どもを産めるからだかどうかを知るために産婦人科を訪ねるも、子ども扱いされるばかりで取りあってもらえませんでした。自分と同じ障害を抱えながら出産をした女性と知り合い、そのお医者さんを訪れたところ、快く診察台に乗せてくれました。
「大きくなるおなかを弱い骨が支えられるのか、小さなからだが出産に耐えられるのか、あまりにリスクが多い私の出産を周りの誰もが心配しました。今の医療なら小さく生まれても命は救えるからと先生に言っていただき、1,000グラムまでおなかのなかで育てることを目指しました」
臨月を待って無事に出産。ずっと憧れていた子育てに夢中になり、まもなく2児のママとなりました。パートナーが多忙なため、子育ては伊是名さんの「ワンオペ」状態。障害福祉サービスのヘルパー制度を利用して、1日3人の交代制でヘルパーさんに来てもらっています。頑張りすぎると自分のからだも壊してしまうし、子どもの安全だって守れません。
ヘルパーさんの時間だけではできないこともあるので、ボランティアを募ったり、ファミリーサポートや近所の人を頼ったりしながら、生活を豊かにしています。総勢10名のヘルパーさんのシフト管理といったマネージメントも伊是名さんがおこなっているそうです。
人には自分の役割を発揮できるポジションが必ずある
フォーブスジャパンの井土亜梨沙さん。
家事はもちろん、日常生活でも人の手を借りなければいけないことに、「人に何かをお願いするのって難しいですよね」と投げかける聞き手の井土さん。じつは伊是名さんは「自分のことは人に頼らずに自分でやりたい」という考えの持ち主だったそうです。
「18歳で上京して、ひとり暮らしを始めました。それまでは手動の車いすだったので誰かに押してもらわなければどこへも行けませんでしたが、電動車いすにしたら行動範囲が広がりました。通学途中にあるすべてのコンビニをはしごしたり、ちょっと遠いけど野菜が安いほうのスーパーまで足を伸ばしたり。雨の日に外出したことがなかったので傘を使うのも初めてで、傘に落ちる雨の音が楽しくて。買い物も料理も掃除も洗濯も、どんなに時間がかかっても自分のことは自分でする、それが楽しくもありました」
しかし、人を頼ってもいいのかなと考え方が変わったのは23歳のとき。留学先に選んだデンマークでの経験が大きいと語ります。
「デンマークでは、初対面でも自分の得意なことと苦手なことをはっきり伝えてくれます。はじめは驚きましたが、誰にでも得手不得手があるのはあたりまえで、できないことは助け合いましょうという感じ。ハンディキャップのある人がヘルパーさんを頼るのはふつうのことっていう感覚なんです。デンマークに来る前、お世話になる学校の校長先生に『本当にひとりで来るのか!?』ととても驚かれたんですが、その意味がわかりました(笑)」
今ではヘルパーさんはもちろん、近所の人を頼ることも。お友達と食事に出かけるときは、リサーチや予約といった一切を伊是名さんが引き受けます。
「頼ってばかりだと申し訳ないし、頼るだけではこちらも気を使って疲れてしまいます。でもどんな関係性であれ、人には自分の役割を発揮できるポジションがあると信じているんです。日本では『自分のことは自分でやりなさい』と教育されますが、私は子どもたちに『助け合うことが大事』って教えたい。能力主義だと障害者は生きていけませんから」
何事にも前向きで、笑顔を絶やさず明るい伊是名さん。ハンディキャップを抱えていても、興味を持ったことを行動に移して人生を謳歌する伊是名さんのバイタリティに、聴講者は元気と勇気をもらったはず。
いつまでも聞いていたい伊是名さんのセッションでしたが、4月には著書『身長100cmママの子育て』(ディスカヴァー21)が発売予定。自分らしい生き方に迷ったとき、伊是名さんの言葉が背中を押してくれるのではないでしょうか。
伊是名夏子さん(コラムニスト)
1982年、沖縄生まれの沖縄育ち。骨の弱い障害「骨形成不全症」で電動車いすを使用。身長100cm、体重20kg、右耳は聞こえない。総勢10人のヘルパーに支えられながら5歳と3歳の子育てをこなす。早稲田大学卒業、香川大学大学院修了し、アメリカとデンマークでの留学経験を持つ。ハフポスト、東京新聞、中日新聞、琉球新報などで連載中。
井土亜梨沙さん(フォーブスジャパン)
1990年生まれ。一橋大学卒業。 Forbes JAPAN コミュニティプロデューサー。元ハフポスト日本版ブログエディター。ハフポストでは「Ladies Be Open」のプロジェクトを立ち上げ、女性のカラダにまつわる様々な情報を発信したほか、1か月間メイクしない自身の生活を綴った「すっぴん日記」なども担当した。
MASHING UP
SPECIAL INTERVIEW 身長100cmで2児の母―バイタリティあふれるバリアフリー人生とは?
11月29日 @TRUNK(HOTEL)
撮影/中山実華

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