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iPhoneがアメリカで製造できないワケは、ネジにあった?

The New York Times

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2018年10月30日、ニューヨークのブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックで行なわれたアップルのイベントでのCEOティム・クック氏。彼は、2004年同社が海外に製造拠点を移すのに尽力した。2012年、同社はトップクラスのマック製品をテキサスで生産すると決断。しかしテキサスでの諸問題はアメリカ国内製造の悩みを浮き彫りにしている。(Erica Yoon/The New York Times)

アメリカと中国間の貿易戦争や、「アメリカでコンピューターやなんかを作り始める」というトランプ大統領のこれまでの警告にもかかわらず、アップルは製品の製造部門をアメリカに移すことはなさそうです。

小さなネジが、その理由を説明してくれます。

Mac Proをアメリカで作ろうとしたら

2012年、アップルのCEOティム・クック氏はゴールデンアワーにテレビ出演して、Macコンピューターをアメリカで製造すると発表しました。そうなれば、これは久々にアメリカで作られるアップル製品となり、トップレベルのMac Proには「アメリカで組み立てられた」という珍しいラベルがつくようになるはずでした。

しかし、実際にアップル社がテキサス州オースティンで3000ドルのこのコンピューターの製造を始めたとき、必要な量のネジを調達するのに苦労したと、このプロジェクトに関わった3人が(秘密保持契約があるため)匿名で語ってくれました。

テキサスでネジの調達に困った

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テキサス州オースティンのアップル社屋。2018年12月13日に事業拡大が発表され、1万5000人が採用される予定だが、製造部門は拡大プランには含まれていない。数年前、同社はトップクラスのマック製品をテキサスで生産すると決断。しかしテキサスでの諸問題はアメリカ国内製造の悩みを浮き彫りにしている。(Tamir Kalifa/The New York Times)

アップルは、カスタムメイドのネジを短期間で大量に作れる中国の工場に頼っていました。なにもかもが大きいと言われるテキサスですが、どうやらネジの供給についてはそうではなかったようです。

アップルの製造契約先が依頼した従業員20名ほどの機械製作所が1日にネジを1000本しか作れなかったため、新しいバージョンのコンピューターのテストは頓挫しました。

上記の匿名希望の3人によると、ネジ不足は、コンピューターの発売が何か月も延期されることになったさまざまな理由のひとつでした。コンピューターを大量製造する準備ができたとき、アップルはすでに中国からネジを注文していました。

アップルの明暗を握る中国

テキサスでの苦労は、中国から製造部門のほとんどを撤退した場合にアップルが直面する問題を浮き彫りにしています。アメリカはもとより、中国以外のどの国でも、中国の規模、技術、インフラ、そして経費にかなうところは見つかっていないのです。

中国はまた、アップルにとって最も重要な市場のひとつでもあります。2019年1月2日、アップルはこの16年間で初めて予想収益を達成できないと発表しました。その理由には、中国でiPhoneの売り上げが落ちていることがありました。

トランプ大統領が脅しているようにアメリカ政権が中国で作られたスマホに関税をかけるなら、アップルはますます財政面でのプレッシャーを抱えることになります。

中国依存から脱することはできるのか

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アメリカで組み立てられたMac Proの2013年後半のモデルのネジ。アップルの製造契約先が頼った従業員20人ほどの機械製作所は1日に約1000本のネジしか生産できなかっため、新コンピューターのテストが頓挫した。このプロジェクトに関わった人の話では、ネジ不足はいろいろな問題のひとつであり、その結果新しいコンピューターの発売が何か月も延期されたという。 (James Nieves/The New York Times)

匿名で語ってくれたある重役によれば、アップルは供給チェーンを多角化するため、インドとベトナムに注目しているそうです。また、アメリカと中国の政治的緊張が高まるにつれ、アップルの重役たちの間には中国への依存に対して懸念が募っているとのことです。

2017年後半、クック氏は中国での会議で「中国の技術はものすごい」と述べました。アップル製品を製造するのには、最先端の機器とそれを作動させられる多くの人たちが必要だとも。

「アメリカでは、工具技師と会議をするとしても部屋が満杯になるかどうかわからないけれど、中国だったらフットボール場がいくつも満杯にできるだろう」(クック氏)。

スポークスウーマンのひとりであるクリスティン・ヒュゲットさんは、アップルは「アメリカの経済成長のエンジンのひとつ」であると言い、アメリカの9000のサプライヤーに600億ドル(約6兆6400億円)を費やし、45万におよぶ職を支えていると述べています。テキサスにあるアップル製造契約先であるフレックストロニックス社にコメントを求めましたが、回答はありませんでした。

クック氏は、iPhoneが中国製であるという考えにしばしば苛立ちを見せています。iPhoneのスクリーンはケンタッキーにあるコーニングの工場で、さらに顔認証システムのレーザー技術はテキサス州アレンにある会社で作られていることをアップル社は強調しています。

安い労働力はやはり魅力的

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2015年10月20日、中国の鄭州市にあるiPhone製造専門のフォックスコンの工場へ向かう労働者たち。このような工場では、アップル製品の組立、検査、梱包作業に何万人もの労働者を雇用することが可能である。2012年アップルはトップクラスのマック製品をテキサスで生産すると決断。しかしテキサスでの諸問題はアメリカ国内製造の悩みを浮き彫りにしている。(Gilles Sabrie/The New York Times)

クック氏は、いまだにアップル製品が中国で製造されている理由は安い労働力だということに異論を唱えていますが、労働力が安くすむならそれに越したことはありません。中国の鄭州市にある世界最大のiPhone製造工場での最低時間給は、福利厚生を含めても約2ドル10セント(約230円)。アップルによると、同社の組立工場では新人でも賃金は3ドル15セント(約350円)からだそうですが、同じ仕事でもアメリカでなら賃金はずっと高くなります。

Mac Proはラインアップの中でもっともパワフルなコンピューターのひとつでしたが、アメリカ製のMac Proはもっとも高額な製品のひとつになってしまいました。

テキサスでのネジ騒動の顛末

中国の供給元は部品をテキサスへ送りましたが、デザインの変更によってテキサスで新しい部品が必要になった場合も生じました。コンピューターデザインの担当を務めたエンジニアは、部品を作ってくれる供給先を見つけるためテキサス中央部の機械製作所に自分たちで電話するはめになりました。

こうして、アップルのコンピューター製造契約先であるフレックストロニック社の従業員たちは、コールドウェル社のオーナー兼社長スティーブン・メロさんを見つけだし、必要なネジ2万8000本のためにコールドウェル社と契約しました。実のところ、フレックストロニック社はもっと多くのネジがほしかったのですが。

2002年にメロ氏がコールドウェル社を買収したとき、同社はアップルが必要としている大量な部品を製造することが可能でした。しかし、中国へ製造が移るにつれて需要はなくなりました。メロ氏によると、その時点でネジが大量生産できる古い型押プレスをもっと精密で特別なネジを作るための機械に取り替えたのだそうです。

メロ氏は、海外生産のトップであるアップルから大注文を受けたのは皮肉だと感じたそうです。「大きな需要のために投資するのはアメリカでは難しいんですよ。海外から買ったほうがずっと安上がりですからね」

メロ氏は新しい機械で対処しましたが、アップル社が希望したものとまったく同じネジを作ることはできませんでした。コールドウェル社は22往復もかけて2万8000本のネジを運送しました。メロ氏自身も自分のレクサスを1時間運転して届けたことが何度もありました。

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アメリカで組み立てられたMac Proの2013年後半のモデルのネジ。アップルの製造契約先が頼った従業員20人ほどの機械製作所は1日に約1000本のネジしか生産できなかっため、新コンピューターのテストが頓挫した。このプロジェクトに関わった人の話では、ネジ不足はいろいろな問題のひとつであり、その結果新しいコンピューターの発売が何か月も延期されたという。 (James Nieves/The New York Times)

中国では24時間稼働での製造も可能

テキサスでの製造でもうひとつ困ったこと。それはアメリカの労働者は24時間体制で働かない点でした。一方中国の工場では必要とあらばシフト制で24時間稼働できるし、寝ている従業員を叩き起こして製造目標を達成するようなことだってありえるのです。これはテキサスでは不可能でした。

「中国は安いだけではない。権威主義国家なので仕事のためには10万人だって動員することができるんです」と話すのは、クリーブランドにあるケース・ウェスタン・リザーブ大学のスーザン・ヘルパー経済学教授。彼女は商務省の主任エコノミストも務めたことがあります。「それは、製造戦略に欠かせない部分になっているのです」

ヘルパー教授は、もしアップルが多大な時間と資金を投資して、大勢の低賃金の生産ライン労働者に頼るかわりに、ロボティックスや専門のエンジニアを起用すればアメリカでもっと多くの製品を製造できるだろうと述べています。しかし、いま起こっていることを考えるとその可能性は低いとヘルパー教授は語ります。

まだテキサスの製造部門はあるけれど

アップルは、いまでもオースティン郊外の工場でMac Proを組み立てています。その理由のひとつにはすでに複雑でカスタムメイドの機械に投資していることがあります。しかし、Mac Proの売り上げは緩やかで、2013年に展開して以来同社はこの製品を最新モデルにしていません。

2018年12月、アップルはMac Proの工場から数マイル離れたオースティンで1万5000人を追加採用すると発表しました。しかし、製造部門での採用はまったく予定されていません。

©2019 New York Times News Service[原文:A Tiny Screw Shows Why iPhones Won’t Be ‘Assembled in USA’/執筆:Jack Nicas](翻訳:ぬえよしこ)

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