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LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

「子どもを持つこと」の新しい可能性/長谷川 愛さん[前編]

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2045年頃に迎えるというシンギュラリティ(技術的特異点)について各界の有識者と検証し、次世代の未来に遺すべき価値観を探る連続インタビュー。第6回目は、アーティスト/デザイナーの長谷川愛さんをお招きし、女性の人生に深く絡む性と生殖、パートナーシップにまつわる話を伺いました(全3回掲載)。

長谷川 愛(はせがわ あい)さん/アーティスト、デザイナー
バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、テクノロジーと人が関わる問題を取り扱ったアート作品を発表。IAMAS、RCAを経て、2014年より2016年秋までMIT Media Lab, Design Fiction Groupにて研究員を務める。2017年4月から東京大学・特任研究員。

複数の親を持つ子どもが生まれたら?

——長谷川愛さんは、“性と生殖”をテーマにした作品を多く作られていますね。

長谷川 愛(以下、長谷川):たしかに私の作品は、性や生物種、生殖や家族関係などがモチーフになっているケースが多いですね。

現代は、自分の子供を産む、産まない、代理母になる、産んでもらう、養子をとる、という選択肢しか無いのです。他にもっと色々選択肢があっても良いのではないだろうか。今は困難だとしても、「将来こうなるのも良いのでは?」という選択肢を提示し、みなさんに議論してもらいたくて、様々なプロジェクトに取り組んでいます。

たとえば『Shared Baby』プロジェクト(2011)は「遺伝的に数名の親を持つ子どもが実現したら、子育てはどう変化するのか?」を考えてもらうための作品です。

Shared Baby

『Shared Baby』(2011)より(出典:https://aihasegawa.info/)

このアイデアを思いついた当時、私はイギリスに住んでいて2組のカップルと家族のように親しくしていたのですが、ある女性が「子どもがほしいけど、私たち貧乏だし……」と言いました。「だったら遺伝子レベルで、AさんとBさんの良いところを混ぜた子どもを作って、みんなで子育てができればいいのに」みたいな話がでたのです。

じつは、2名以上の親を遺伝子情報的に持った子どもができる可能性は、iPS細胞などの幹細胞の培養技術の進歩によって高まっています。では実現した際、私たちはそれにどう対処すればいいのか、どのような問題が発生するのかをロールプレイ劇をすることによって、思考実験を重ねました。

一連の実験から見えてきたのは、複雑な家族関係を複数名で構築したければ、まずは子育てに関する親としての最低限の知識が共有されていることが大事だということです。

Shared Baby

『Shared Baby』(2011)より(出典:https://aihasegawa.info/)

ここ数年で、シェアカーの需要が飛躍的にアップしましたが、以前は、車って個人が独占的に所有していましたよね。だけど、維持費が割高であることが判明し、GPSや携帯の普及等様々なテクノロジーが実現したことによって、カーシェアリングが実用化されています。

同様に、現代において子どもを持つことは、あまりにもコストがかかる一方、私達世代は親世代ほど裕福になれないと言われています。それでも子どもが欲しければ、「みんなで子どもをシェアする」のも、ひとつの手段ではないでしょうか。そんなわけで、シェアカーのシステムを参考にしながら、配分方法を考えてみたわけです。

子どもをみんなでシェアする、という発想

——そこで、判明したことはありましたか。

長谷川:最初は「子どもの取り合い」になるのではと予測したのですが、参加メンバーが忙しかったせいか「ちょっと今は面倒見られないよ」というふうに、誰も面倒をみたがらない時間帯が生まれました。面倒をみる担当を持ち回りで決めるなど、責任所在を明らかにするルール設定が必要になることもわかったのです。

別の生き物を出産したっていいじゃない

——長谷川さんの作品『私はイルカを産みたい…』(2013)も有名ですよね。

長谷川:あれは、絶滅危惧種のイルカの個体数を増やしたくて、私(人間)がイルカの代理母になる可能性を探ったものです。さらには、その子どもが先に死んだら自分が食べてもいいし、逆に自分が先に死んだら子どもに食べられてもいい……生き残った方が相手を食料にしてもらい、食物連鎖のサイクルの中に組み込まれるような仕組みも考えました。

私はイルカを産みたい

『私はイルカを産みたい…』(2013)より(出典:https://aihasegawa.info/)

自分が「子どもを持つ」可能性を多角的に見直していた頃、イギリスはエコブームにわいていました。しかし日本では、2011年の東日本大震災直後に原発事故が起きて、科学技術を使いこなすことに失敗し、自然にも多大な影響を与えているこの状況で、人間は無批判に子孫を残してもいいのか、あるいは、地球上の人口をこれ以上増やしてもいいのかと考えるうち、いったん「人間中心的に考えるのをやめてみる」という発想が生まれたのです。

いったん人間中心主義をやめてみよう

日本の政治家は「産めよ増やせよ」なんて時代錯誤のスローガンを口にします。一方で、女性の生涯のうちの約40年間、月に一度は生理があり、生理痛がある。更にジェンダー・ギャップ指数が大変に低いこの日本に、女性として生まれることがどれだけ不利か、挙げていけばキリがありません。

男性にはできない唯一の利点が「子どもを産める」能力だとして、その能力を使わない/使えない女性もたくさんいる。そんな状況のなか、出産をめぐる観念を実現可能性は二の次にして、より広い視野で捉え直そうと思いました。

私は「食べること」と「海に潜ること」がとても好きなので、ならば絶滅の危機に瀕している海の動物……イルカやサメの代理母になれたら嬉しいなと思ったわけです。

私はイルカを産みたい

『私はイルカを産みたい…』(2013)より(出典:https://aihasegawa.info/)

——まるでSFのような話ですね。

長谷川:と同時に、そうした夢物語を実現するために必要とされる技術開発の背景には、資本主義の論理やヒトの欲望が関わっています。

たとえ不要なものでも、社会的に善ではないものでも、そうした「欲望」や「需要」をうまく煽り立てれば、意外と早期に実現します。だから逆に、時にSFがしていたように、こうした荒唐無稽なストーリーをプレゼンすることでその実現に弾みをつけたかったのです。

もちろん、みんなに「イルカを産め」と言いたいわけでもないし、本当に実行する人が現れるとも思いません。だけど、出産に関わる考え方自体を拡張して、その最大値が引き上げられれば、「普通(平均値)」の考えも上がってくれるはず。そんな想いで、これらの作品に取り組んできました。<中編に続く>

聞き手/カフェグローブ編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

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cafeglobe編集部

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