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出産のタイムリミットは無くなるかもしれない/長谷川 愛さん[中編]

LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

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2045年、人工知能(AI)と人間の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えたら、私たちの仕事や暮らしはどう変わる?

長谷川愛さんを迎え、前回は、生殖やジェンダーにかんする枠組を拡げてゆく重要性がテーマに。今回は、それらにまつわるテクノロジーと社会通念がどう発展していくのか、話を聞きました。

生命倫理との軋轢がネック

——前編に登場した長谷川さんのアート作品『Shared Baby』や『私はイルカを産みたい…』は、ある種の思考実験やスペキュラティブ・デザイン(問題解決ではなく、問題提起型のデザイン)として、既存の価値観に揺さぶりをかける効果がありそうですが、その一方で、嫌悪感を持つひとも少なくない気がします。激しいバッシングを受けたりしませんでしたか。

長谷川 愛(以下、長谷川):ありましたね。特に生殖にまつわる技術については、こと日本においては、社会通念……別の言い方だと「生命倫理」が大きく幅をきかせています

別のプロジェクト『(Im)possible Baby』(2015)を例にあげます。これは同性愛カップルの間で子どもが生まれたという想定で、家族団欒の写真をCGで作りあげた作品です。実際に両親の遺伝子データから子どもの顔立ちを肉づけしたので、まったくのフィクションでもありません。

(Im)possible Baby

『(Im)possible Baby』(2015)より(出典:https://aihasegawa.info/)

じつは「同性間でもiPS細胞を使えば子どもを作れる」という説もあるのですが、実際には生命倫理の壁があって、それを許さないとしているのは社会の側なのです。その上、そういうガイドラインが有識者によってこっそりと作られていて……いわば人類の約半分の人が当事者である話題なのにも関わらず、それを決定するのが、せいぜい20人前後のオジサン科学者だというのに、私は衝撃を受けました。

そもそも日本では、同性間の恋愛や出産に関する議論は、ほとんどパブリックでなされない。性的マイノリティの話題になると、日本人はすぐ「早いでしょ」とか「社会通念に照らしてみましょう」と言い出す。そんなロジカルじゃない背景があったことから、この作品をつくりました。

この作品は、テレビ番組でも取り上げられて様々な議論を呼んだのですが、今のところの私の結論としては(一部の安全面以外では)「同性愛者が子どもを作ってはいけない理由はない」と思っています。

テクノロジーと“意識”の両方が更新されないとダメ

(Im)possible Baby

『(Im)possible Baby』(2015)より(出典:https://aihasegawa.info/)

長谷川:ちなみにこの作品を発表した2015年当時、科学者たちは「同性間で子どもを受精・出産する技術は、あと数年もすれば実現する」と言っていたのですが……それから4年が経過した今も、実現はしていません。

同じように、昨今のAIを巡る議論って、ちょっとしたハイプ(誇大表現)が起きている気がします。つまり1969年、アメリカが人類最初の月面着陸を成功させて、「21世紀には、誰でも月旅行に行けるようになる!」とか言われたけれど……いざ21世紀になってみると、当時思い描いていたような未来にはなっていない。なので、科学技術の進化や発展も、そうトントン拍子にはいかないと見積もっておいたほうが、現実的かもしれません。

科学は、トントン拍子に進まないのでは?

数年前、アメリカにトランプ政権が誕生して、その直後に#MeToo運動が盛り上がりをみせたことからも明らかなのは、人類の歩みって、ある一方向に進展すると、必ずやその逆方向に揺り戻しが起きます。フェミニズムの歴史を振り返っても、女性が参政権を得て以降、進展しては逆行して、を繰り返して今日に至っている。

だから、ITや特定のテクノロジーにフォーカスすると、ものすごいスピードで変化してゆくようにも見えるけれど、かたや人間の保守的な思考……性的なもの、平等性といったものにフォーカスをすると、ヒトってそんなに早々には変化しないのも事実です。なので、そのあたりのバランスをみながら、シンギュラリティ時代のことを考えないといけない気がします。

——かりにテクノロジーが進化したとしても、それらを利用する人間側の意識が旧来のままであれば、ドラスティックに社会が改善されることは望めない?

長谷川:現在は「卵子自体をエイジングする(若返らせる)研究」、もしくは「新たに卵子を体外で作る研究」なども進められているので、それらが実用レベルになると、ある意味、女性の生殖に関するタイムリミットが開放される可能性はありますよね。

でもやっぱり、今の男女間のアンフェアさは、女性の側の「子どもを持てる年齢」が限られている部分に尽きるかな、と思っています。デスクワークに限れば、昔ほど男女間のギャップはなくなりつつあるのに。

ちなみに男女間のアンフェアが変わる可能性としては、「富と権力」の再分配の話が絡むでしょう。つまり、法律で半ば強引に、女性賃金を男性のそれと同一にし、女性の政治家や女性経営者の頭数を男性といっしょに設定してしまえば、全てがガラッと変わってくるのでは?

なぜならば、市場の原理が働くことで、弱いふりをしなければいけない女性がいなくなるからです。こと日本社会に関しては、性差のバイアスが強かったり、なんだかんだで富裕層も男性の方が多いために、女性が損をしている局面は否めませんからね。<後編に続く>

長谷川 愛(はせがわ あい)さん/アーティスト、デザイナー
バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、テクノロジーと人が関わる問題を取り扱ったアート作品を発表。IAMAS、RCAを経て、2014年より2016年秋までMIT Media Lab, Design Fiction Groupにて研究員を務める。2017年4月から東京大学・特任研究員。

聞き手/カフェグローブ編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

cafeglobe編集部

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    2019.04.13.Sat

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