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LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

怪しい情報に踊らされない人生を歩むには?/谷川じゅんじさん[後編]

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来るべき日に向けて、今できることを明確にし、明るい未来を切り拓くための連続インタビュー[LIFE after 2045]。スペースコンポーザー谷川じゅんじさんが考える、「ポジティブな未来像」を思い描くために必要な「情報とのつきあい方」とは?

——今日のお話の参考文献をご紹介いただけますか?

谷川じゅんじ(以下、谷川):「情報に踊らされるな」という点では、日本でもいま大ヒットしている『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(日経BP社、2019年)ですね。

副題に「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」とあるように、「みんなが信じて疑わない“一般常識”のある部分は、実は思い込みなのだ」ということを、わかりやすく説いた本です。

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たとえば「過去20年のあいだで、世界の貧困層は増えたか、減ったか?」という質問がある。A.「倍増した」、B.「ほとんど変わらない」、C.「半減した」。正解はCなのですが、先進国の知識人のほとんどが、AかBを選んでしまう。なぜならば、多くの人は「ドラマティックすぎる世界の見方」が大好きだから。なので「正しいデータを分析して、事実を知る癖をつけましょう」という意見が記されています。

ある意味、今は世の中が総マーケッター状態であり、さらには情報過多の時代でもあるので、インターネット上にある玉石混交の情報を見極めるための極意を習得したいのでしょうね。

実空間だと偶発的な「情報との出会い」がある。だけど、ネットの世界での「情報との出会い」は、検索がきっかけだというケースがとても多い。だけど、自分の知識にストックされていない言葉は、そもそも検索もできません

逆に言えば、実空間では、自分の知識や経験を飛び越えた様々な価値に出会えるチャンスが、まだまだ残されています。そういう気づきを促す意味でも興味深い本です。

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2冊目はリチャード・S. ワーマンの『情報選択の時代』(日本実業出版社/絶版)。刊行年が1990年なので、もう30年近くも昔の本ですが、要するにインターネット誕生以前の段階で、「爆発・加速する情報と、人が手にする価値ある情報との落差をどう埋めていくか」について説いた名著です。

リチャード・ワーマンは、情報デザインや情報アーキテクチャといったコンセプトの先駆者で、TEDカンファレンスの創立者としても有名ですね。

情報化社会の兆しが見え始めた時期に、何をもって自分の血となり肉となる情報を取捨するのかを指摘したのは、とても早かったです。

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ちょっと毛色が違いますが、3冊目は『利休の風景』(淡交社、2012年)です。作家の山本兼一さんは歴史小説の名手で、映画にもなった『利休にたずねよ』も彼の代表作のひとつです。そんな山本さんが、小説の題材として利休を調査しているときに出会った情報を、エッセイとしてまとめられた一冊です。

私はそこまで茶の湯に詳しいわけではありませんが、千利休という人は、詫びや寂びといった、ある種の宇宙観のような美意識と、無限の価値を生み出した偉大なる人物だと思います。茶碗一個で国を取り引きするような、新しい価値観を生み出した人でした。

そんな利休の生き方を、今なお残されている物質的な証拠と照らし合わせながらトレースしてゆくことで、山本さんは彼の人物像に新たな肉づけをします。必ずしも歴史学者や研究者は賛同しないかもしれないけれど、当時の利休が何を見て、何を考えていたのかを、山本さん独自のイマジネーションで解釈した成果が、ここに綴られています。

何を信じていいのかわからない時代に、自分が「これだ!」と思ったものを直観的に信じて掘り下げる行為は、実は今後の社会の中で重要視されてゆく価値観ではないでしょうか。自分の好奇心や直観に磨きをかけ、それらを育成してゆくことが、大事になってくる。

そういう意味を込めて、これら3冊は(向かっているベクトルこそ違うけれど)ひとつの軸線に乗っている本だと思います。

自分が「これだ!」と思ったものを信じて掘り下げる

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「想像を超えた創造の世界」が待っている!

——最後に、谷川さんが構想される「2045年」のビジョンとは?

谷川:「2045年の人類は、宇宙人の中の地球人でありたい」ですかね。

いまから26年後の未来は、想像を超えた創造の世界が待っています。国や民族を超えた、生命体としての人類の在り方。様々な課題を乗り越えた人々は、母なる地球と、より善い関係性をもって共生すべきだと考えています。

これまでの視点や枠組を超えた発想やアプローチ。無限の宇宙において、わたしたちの存在価値が問えるならば「ひかりのような存在でありたい」という願いも込めて、この言葉を選びました。

シンギュラリティが実現されたとしても、人は夢や喜びを放棄するわけではないですし、人は人として生きてゆくことは確実です。

2045年の人類は、宇宙人の中の地球人でありたい

かたや今から26年前、私たちが何をやっていたか思い返すと……それこそ(2冊目に挙げた)ワーマンの『情報選択の時代』が出た直後ぐらいですね。普通に一生懸命に仕事していたし、90年代のカラオケソングを今でも歌う人はいます。別にそこまで昔の話でもありませんよね。

——テクノロジーの進化は急激だけど、人間そのものは、そんなに急には変わらない?

谷川:変わらないと思いますよ。だって千利休の感性を超えている日本人が、今何人いるでしょうか? もしも彼が現代社会に生きていたら、何を面白いと思うのか、ぜひ聞いてみたい。

もしかすると、利休が後世に残した情報やデータをAIに機械学習させ、分析することで、利休の感性を現代に蘇らせるみたいなことが可能になるかもしれない。それこそ「利休bot」みたいなアプリです。もしあったら現世をどう感じ如何に解くか、そしてシンギュラリティをどうみるか。聞いてみたいし、その答えにぼくは興味津々です。<了>

聞き手/カフェグローブ編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

「未来に対する不安」を払拭するには/谷川じゅんじさん[前編]

次世代の未来に遺すべき価値観を探る連載第7回目は、スペースコンポーザーの谷川じゅんじさん。シンギュラリティのマイナスイメージを払拭するためのヒントは...

https://www.cafeglobe.com/2019/03/singularity7_1.html

先端テクノロジーを享受して、何を生み出せる?/谷川じゅんじさん[中編]

スペースコンポーザーの谷川じゅんじさんを迎え、「物質から心へ」「都市から地方へ」といった、昨今のカウンター的なムーブメントの背景に迫ります。

https://www.cafeglobe.com/2019/03/singularity7_2.html

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