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- AIは「伝統産業のアップデート」の一手段/三浦亜美さん[前編]
2045年頃に迎えるというシンギュラリティ(技術的特異点)について各界の有識者と検証し、次世代の未来に遺すべき価値観を探る連続インタビュー。第8回は、日本酒の醸造過程にAIの導入を実施している、株式会社ima(あいま)の三浦亜美さんに、伝統産業とテクノロジーのマッチングの話を伺いました(全3回掲載)。
三浦亜美(みうら あみ)さん/株式会社ima Founder CEO、文化工学者
1985年生まれ、愛知県名古屋市出身。2013年より株式会社ima(あいま)を立ち上げ、代表取締役として日本酒、伝統工芸品、ユニークな技術等の海外展開支援を行う。2016年一般社団法人awa酒協会を立ち上げ、初代代表理事に就任。商標、ビジネスモデルなどを整理した後、蔵元にゆずり、現在は事務局長として協会運営に携わる。2017年つくば市まちづくりアドバイザーに就任。
伝統産業を時代に見合ったかたちにアップデートするには?
——三浦さんがCEOを務められている株式会社ima(あいま)は、「AI酒」というコンセプトを編み出し、実施されていると伺いました。そのような発想に至った経緯や、実際の導入過程はどういったものですか?
三浦亜美(以下、三浦):当社の事業の説明をする前に、まずは私自身のバックグラウンドを最初にお話ししますね。もともと私は音楽家になりたくクラシック音楽の教育を受けてきていたのですが、自分の表現したい分野がクラシック音楽ではないと気づきました。その代わりに学生時代に起業しました。卒業後、バックパッカーとなって世界を見て回り、新しいビジネスを思い立ちました。それをサポートしてもらおうとベンチャーキャピタルなどに相談するなかで、自身の力不足も感じ、2011年から2013年までとあるベンチャーキャピタルに一度籍を置くことになりました。新しい価値を生む企業への投資や合弁会社設立のサポートを行ないました。
その経験を生かして、2014年に改めて独立して作ったのが弊社です。今後の日本における産業基軸になりそうな分野として、伝統産業に強く興味を惹かれました。日本の伝統産業は世界に誇る文化ですが、単に「古き良き伝統を守る」だけでは生き残れる保証がないことも感じていました。
——それは、なぜ?
三浦:うちの実家は愛知県の柔道連盟を作った家で、曽祖父は柔道九段、父や弟も元トップアスリート、いとこは現役オリンピック選手と、めちゃくちゃ保守的で体育会系のファミリーなんです。
柔道って、昔は「柔術」という古武道のひとつでした。様々な武道があったなかで、なぜ柔術が国際スポーツとして生き残ったか? 要因はいくつかありますが、段位というシステムを採用したことと、柔道整復術が「骨接ぎ(ほねつぎ)」という医療系資格として認可されたことが大きいです。それによって、プレーヤーが生活していけるだけの土壌ができたわけです。
その後、オリンピック種目にも選ばれ、今度はレギュレーションを海外に合わせてゆきます。今では総合格闘技にも、グレイシー柔術の選手が試合に出てきます。嘉納治五郎(かのう・じごろう:1860〜1938年、柔道・スポーツ・教育分野の発展に尽力した、講道館柔道の創始者)が生きていたら、びっくりですよ(笑)。
つまり、正しく時代に合わせた変化やローカライズを受け入れないと、どんな立派な伝統文化も伝統産業も生き残れない。柔道の変遷から、そのことを私は学んだのです。
そうした「伝統産業のアップデート」のひとつの手段として、先進的な工学技術と伝統を融合させられないか。そうすれば、後継者不足や時代遅れなイメージが先行しがちな伝統産業に再注目してもらえるのでは、と考えるようになったわけです。
時代に合わせた変化を受け入れないと、生き残れない
金融経済からバイオまで、蔵元には豊富な叡智が集約されている!
——伝統産業と言っても、食もあれば衣料や工芸など、さまざまな分野がありますが、こと「日本酒」にフォーカスされたのは……単に“お酒好き”だったわけじゃありませんよね?
三浦:はい(笑)。歴史や伝統文化とそこから派生した「商い」に注目してゆくうち、「酒造り」は“古いもの”なのに、同時に科学的・合理的な発想の賜物であることがわかりました。
たとえば「米(コメ)」は食料でしたが、同時に通貨でもありました。酒蔵では米を集め、その一部を醸造して「日本酒」を造っていたのと同時に、余ったお米は(銀行や金融業者みたいに)貸し借りもしていたのです。蔵元って、言わば旦那衆ですよね。要するに今の「投資家」みたいな人たちだと思ったら、なんだか親しみがわきませんか?
彼らにとっての「お酒」とは、嗜好品であると同時に、自分たちが作ってほしい作物や自治のためにキープされたストック、いわば資産運用的な局面もあったわけです。寒い冬のあいだ、持て余している農家の労働力を酒造りに活かす……なんて、今日のクラウドソーシングの先駆けみたいですよね。だから現代のビジネススキームから見ても、すごく合理的な発想が蔵元には集約されていたのです。
——醸造のプロセス自体、発酵に最適な環境を用意して、美味しいお酒ができたら今度は滅菌して……とか、絶妙な環境のコントロールが必要ですものね。
三浦:調べてみたら、世界のどの国をみても発酵食品はあるんですね。人類の発展は、微生物による発酵をいかに上手に生活に取り込めるかにかかっていたのかもしれません。そういう「微生物を手なづける」ノウハウや技術の集約が、いわば酒蔵だったわけです。
酒蔵には、発酵技術が集約されている
とはいえ、そうしたポテンシャルに気づいたとして、私たち素人がイチから酒蔵を始めようとしても無理です。遥か昔から伝承されてきたノウハウは、そうそうオープンにはされないし、もちろん既得権益で守られている側面もある。だけど、実際に酒蔵を回ってみると、どこもすごく頑張られていて、苦労して作られたお酒の高い品質が、匠(たくみ)の技の結晶であることに気づかされます。
と同時に、戦前には約5500軒もあった酒蔵が、昨今では1300軒前後にまで減ってしまいました。その背景には、ライフスタイルの多様化で、若い人が日本酒をあまり飲まなくなったであるとか、等級制度廃止による自由競争への対応の遅れ、そして職業の多様化による後継者不足など様々な理由があります。
我々は高付加価値商品を展開するための協会を設立するなど、さまざまな形で日本酒業界にかかるビジネスを構築してきました。そんな中で、後継者不足の問題にも最先端の技術でなにか出来るのではないか、というところから始めたのが「AI酒」なのです。<中編へ続く>
聞き手/カフェグローブ編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

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