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- 「AI酒」は職人と職人の間をつなぐメディア/三浦亜美さん[中編]
2045年、人工知能(AI)と人間の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えたら、私たちの仕事や暮らしはどう変わる?
株式会社ima(あいま)の三浦亜美さんを迎え、前編では「日本酒造り」という伝統産業に秘められたポテンシャルと、21世紀にそれを継承するための戦略について話を伺いました。中編は、後継者不足などが囁かれている「酒造り」の再生と、復興を賭けた「AI酒」の試みについて。
まずは「awa酒」をプロデュース
——伝統産業である「日本酒造り」の支援とは、どのようなものでしょう?
三浦亜美(以下、三浦):まず、なかなか伸び悩んでいた日本酒のシェアを拡張する試みとして、シャンパンみたいな立ち位置の日本酒を普及できないかと、思いつきました。西洋のパーティやレセプションの冒頭で、みんなで「乾杯する」お酒はかならず炭酸が入ったものが使われてます。
ちょうどその頃、シャンパンのような匠の技の製法でつくられたスパークリング日本酒を、群馬県川場村にある「永井酒造」さんが製造していました。それを見つけた私は、世界各地の国際展示会に持参し、レセプションパーティで実際に乾杯してもらい、手応えをつかんだのです。そのプロダクトをベースに「awa酒」という新しいカテゴリーを作ることにしました。もちろん、我々だけで勝手に呼んでいても普及しないので、「永井酒造」の社長さんや国税の先生方と相談して、品質基準、認定基準を明確にしたスパークリング日本酒を「awa酒」として定義づけたのです。
2016年2月に「一般社団法人awa酒協会」を設立し、私が初代代表理事として、運営基盤、名称、商標やビジネスモデルなどをデザインしました。現在はそれらを蔵元に完全にゆずり、協会の事務局サイドに回って、運営のサポートを続けています。
世界各地で「awa sake」と書いてあれば、それがスパークリングの日本酒であることが分かってもらえることが、最終目的です。「zen(禅)」くらいに「awa」が、国際的な言葉になったら嬉しいですね!
「awa」を「zen」のような国際的な言葉にしたい
蔵元の職人の勘を、AIセンサーに覚えさせる
——そして、その「awa酒」の次に取り組まれたのが、「AI酒」ですね。
三浦:はい。「awa酒」協会に加盟している酒蔵のひとつ、岩手の「南部美人」さんが、世界最大のワイン・コンペティションで賞を取ったんですね。こちらの「南部美人」の社長さんは、ハイテクな分野に対してもすごく感度が高い方。そんなことがきっかけになって、「南部美人」さんにご協力いただき、AIを利用した酒造りに取り組む話が盛りあがったのです。
その話を最先端AIベンチャーの社長にもちかけると、「ビールやワインでは、すでにAIの活用が始まってる。だったらたぶん、日本酒もできるよね」という話が盛りあがり、技術的ブレーンとも繋がることができました。
——三浦さんの好奇心やフットワークが、それらの繋がりを実現させたわけですね。
三浦:日本酒を作る工程は、大きく10ステップぐらいに分かれるのですが、そのなかで「職人の目で決定するポイントがあれば、そこをAIに委ねられるのでは?」という方向性が見えてきました。
実は酒作りのなかで、一番デリケートで「失敗できない」ポイントは、「発酵前の米に水を吸わせる」プロセスでした。原材料の米に給水させたあとに蒸すのですが、蒸す前の水分量の管理がとても大事です。
この蒸したお米は、麹(こうじ)の原料になったり、お酒のタンクに途中で入れるお米になったり、様々なシーンで使われます。お米にどれだけの時間水を吸わせるべきかが、品種、精米歩合、用途などによって変わってくるのですが、さらにいえば、産地、年度で大きく変わり、その日の気温や湿度にも多大な影響をうけます。それらを熟練した職人がこれまでのデータと自分自身の経験をもとに、最終的には目で判断しています。
でも、その職人さんに後継者がいなかったら、“絶妙の水加減”を再現できる人もいなくなる。そのための第一歩として、記録されない職人の判断をAIによって数値化し記録に残すところからはじめました。
よく「AIが酒造りをできるようになったら、杜氏(とうじ:日本酒の醸造工程全体をみる最高責任者、職人)の仕事がなくなるじゃないか!」と言われるのですが、「いやいや、AIは相棒ですよ!」と。いまのAIは人のサポートはできますが、どういったお酒を作りたい!というコンセプトは蔵元だったり、杜氏がもつものですから。
私達が開発した「AI酒」は職人と職人の間をつなぐメディアになるものです。曖昧な情報をAIの技術で数値化することで、“背中を見て覚えろ”ではなく、具体的な情報として話すことで技術の継承をサポートしていきます。もちろん、長く使ってもらうなかで、その人固有の判断というのも記録されていくところも狙いですが、そのためにも、数値情報がのこることが第一歩なんです。
たとえば今の杜氏が2045年には亡くなられていて、さらにはどんな気候変動が起きたとしても、「あの杜氏だったら、こんな水加減を設定していたよ」と教えてくれる教科書みたいな存在をめざしてます。杜氏がいなくなっても、その杜氏の勘がデータ化・プログラム化されていれば、それを参考にしながら次世代の杜氏がまた新たな酒造りを進めることができるのではないでしょうか。
もちろん、これ(AI酒)だけではそこまで収益はあがりません。ただし、これを手がけることによって、将来的には他の発酵食品……たとえば醤油や味噌にも応用できることは確かです。
あの杜氏だったら、こんな水加減だったよ
前編の最初にお話ししたように、かつて私はバックパックをかついで30か国ほど海外を旅行しました。だけど、どんな国に行っても発酵食品はありました。そのあたりはこちらの本(『発酵の技法―世界の発酵食品と発酵文化の探求』Sandor Ellix Katz著、オライリージャパン、2016年)に詳しいです。
『発酵の技法―世界の発酵食品と発酵文化の探求』Sandor Ellix Katz著、オライリージャパン、2016年
“発酵”も広義のDIYで、この本にはまさしく「世界の発酵食品と発酵文化」の豊かさが記されています。ちなみに人間以外の動物って、発酵したモノを積極的に食べたがりません。発酵を旨味と捉えられたからこそ、人類は今日まで生き延びられたのかもしれません。
話を戻しますと、これら世界各国の豊かな発酵食品と発酵文化のなかで、吸水系の発酵食品ならば、日本酒でのAI技術が応用できます。長い目で見れば、そこまで見据えてやっていくつもりでいます。<後編に続く>
三浦亜美(みうら あみ)さん/株式会社ima Founder CEO、文化工学者
1985年生まれ、愛知県名古屋市出身。2013年より株式会社ima(あいま)を立ち上げ、代表取締役として日本酒、伝統工芸品、ユニークな技術等の海外展開支援を行う。2016年一般社団法人awa酒協会を立ち上げ、初代代表理事に就任。商標、ビジネスモデルなどを整理した後、蔵元にゆずり、現在は事務局長として協会運営に携わる。2017年つくば市まちづくりアドバイザーに就任。
聞き手/カフェグローブ編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

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