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- 「AI酒」や「AIアート」が当たり前の世界になる/三浦亜美さん[後編]
来るべき日に向けて、今できることを明確にし、明るい未来を切り拓くための連続インタビュー[LIFE after 2045]。株式会社ima三浦亜美さんが思う、「AIを社会実装することの可能性」とは?
AI(人工知能)にクリエイティブな作業をやらせる
——「AI酒」に続いて、「AIアート」も取り組んでいらっしゃるようですが?
三浦亜美(以下、三浦):AI Mural」という名前の作品(※)を目下製作中です。AIにクリエイティブなことをさせたいと思い、AI自身にアートを生みださせようというところから始めました。人が美術を学ぶとき、教科書のはじめにはだいたい壁画が描かれているんですよね。人類のアートの原点として。AIもまずは壁画からというところで「mural」、壁画を書いています。
※AI Mural:本取材後、2019年2月23日から3月3日まで、六本木ヒルズ 森タワー52階 東京シティビューにて開催された「Media Ambition Tokyo [MAT] 」に出品された。
壁画って、大体牛とか馬とか書いてあるじゃないですか。つまり表面的には動物が描かれてるんですが、なぜ動物を描いたのかは諸説あります。ただ、我々の解釈としては、あれは富であったり、欲望の対象であり、俗っぽくいってしまったら自慢したいんじゃないかなと。西洋美術史を辿っても、宗教画があり人物画があり……そのモチーフの多くは、当時の“権威”や“美しいもの”、ひいては“富”が描かれるケースが多かったです。
ラスコーなどの太古の壁画は、自慢したかった?
——そういった富を描くAIの開発をされたと?
三浦:そうですね。我々のAIはラスコーの壁画を通じて、描くモチーフを選択する能力と、それを自分なりに壁画風のテイストに変換する能力を学習、獲得しました。AIに一枚一枚の写真を見せると、書くべき対象を自動で抜き出して壁画にしていきます。そのAIに、現代の社会を見せるという意味で、インターネットを通して膨大な画像を見せていくと、モチーフを発見しながら壁画にし、価値をつけていきます。そして、その時点で最も価値が高いと思う自分の絵を、ロボットアームを通して実際に描いていきます。
──つまりAIは自ら判断して、どんどん新しい絵を書いていくんですね?
三浦:その通りです!なので、我々はこのAIがどういった作品を書くのかを、最終的には予測できません。その結果、著作権を侵害する可能性もあるのですが、これはこの作品を通して我々が伝えたいメッセージでもあります。AIが自律的に人の権利を侵害したとき、それは誰が権利を侵害したのか、こういった未来は割とすぐそこにあるのではないか、と。
あと、この作品は絵を壁に掲げて完成なんですが、そこは人がやるんですよ(笑)。我々のAIには手がないですからね。ここもこの作品のもう一つのテーマで、AIの社会進出にともなって、人は頭脳労働だけをするんじゃないかという論調があるじゃないですか? でも逆に、AIがクリエイティブな仕事をし、人がAIに使役されるんじゃないのか?そんなメッセージもこめられています。
人がAIに使役されてしまう?
——かなり反語的な提言も含めたうえでの「AIアート」なのですね !?
三浦:アートとは、社会課題に対して伝えたいものを作ることだと思っています。我々が事業として行っている実際のAIの活用と、今回のAIアートの文脈で伝えたいことはある意味では真逆です。
AIは人のパートナーとなるべく活用していきますし、また、コンセプトという意思決定は、今はまだ人にしかできないと思っています。一方で、これまでの経緯にあぐらをかいていると危険ですよということも伝えていきたいですし、なんだかんだで人が頭脳ではなく手足として使われていくシーンは今後も増えていくと思っています。
そんな中で残すべき伝統と技術というものを正しく残すためにも、我々は事業をやっています。伝統産業というのは当時の最先端技術ですし、今も生き残っているということは、時代に即した技術をうまく取り込んでこれたからです。しかし、加速度的に技術が進歩する今日において、大事なものが取り残されていかないようにしていきたいですね。
自己言及的な“不思議の環”に対するこだわりに共感
——おすすめの書籍を紹介していただけますか?
三浦:初版は1980年前と、私が生まれる前のベストセラーですが、『ゲーデル・エッシャー・バッハ あるいは不思議の環』(ダグラス・R・ホフスタッター著、白揚社、2005年)です。論理学と美術と音楽……一見ほとんど接点がなさそうな三分野から“不思議の環”という共通項を発見した、800ページ近い大著です。
タイトルに挙げられている3人の偉人たちが、その生涯を通じて取り組んできた発想法……ゲーデルの不完全性定理と、エッシャーの(トリックアートのような)だまし絵の画学、そしてバッハの「無限に上昇するカノン」。それぞれに(自分の尻尾を飲み込むヘビのような)自己言及的な“不思議の環”を見出しています。ひいてはそれは、AI(人工知能)の設計にまで関連してきます。
正直なところ、何回読み返してもよく分からない箇所がたくさん出てきますが、音楽や美術、それらを受け止める感覚や知能、さらには占星術や数学や科学まで、全てがつながっていることに気づかされた、とても影響を受けた一冊です。
私自身、もともとは音楽家を志していたところから、脳科学や知覚と認知の研究、さらにはコンピュータ・サイエンスの方面にシフトし、さらには現代アートにも首を突っ込みつつあるので、まさにこの本と同じような道筋を辿っている気がして、勝手にシンパシーを感じています。
——最後に、三浦さんにとっての「2045年」は、どんな時代になると予測されますか?
三浦:2045年には、伝統産業の中に先端テクノロジーがすっかり浸透し、さらにそれが未来の最先端と交わって、もの凄いことが引き起こされる、そんな予感がします。機械で作っているから味気ないとか、ひとがこだわって手作りしているから味があるとか、そういったところをひとつ乗り越えるのではないでしょうか。
2045年というと「現代で先端テクノロジーやガジェットを使いこなしている若者たちが老人世代になる」時代なわけです。たぶんそうなったとき、もはや「AI酒」や「AIアート」は、当たり前のように生活に実装されていると思います。いや、そうなっていてほしいですね![了]
三浦亜美(みうら あみ)さん/株式会社ima Founder CEO、文化工学者
1985年生まれ、愛知県名古屋市出身。2013年より株式会社ima(あいま)を立ち上げ、代表取締役として日本酒、伝統工芸品、ユニークな技術等の海外展開支援を行う。2016年一般社団法人awa酒協会を立ち上げ、初代代表理事に就任。商標、ビジネスモデルなどを整理した後、蔵元にゆずり、現在は事務局長として協会運営に携わる。2017年つくば市まちづくりアドバイザーに就任。
聞き手/カフェグローブ編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

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