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テクノロジーは本当に人類を幸せにしたのか?/林要さん[前編]

LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

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2045年頃に迎えるというシンギュラリティ(技術的特異点)について各界の有識者と検証し、次世代の未来に遺すべき価値観を探る連続インタビュー。第9回は、役に立たない、でも愛着がわいてくる、とてもユニークな家族型ロボット『LOVOT[らぼっと]』の開発者・林要さんをお招きして、現代人の心の隙間を埋めてくれるテクノロジーの可能性について話を伺いました(全3回掲載)。

林要(はやし かなめ)さん/GROOVE X 株式会社代表取締役
1973年生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)修士課程修了後、トヨタ入社。「レクサスLFA」、トヨタF1の開発スタッフを経て、量産車の開発マネジメントを担当。2011年「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生、2012年感情認識ヒューマノイドロボット「Pepper」の開発に関わる。2015年9月ソフトバンクを退社、同年11月にGROOVE Xを設立。

新製品が必ずしも人を幸せにはしない

——このたび林さんは『LOVOT[らぼっと]』という、たいへんユニークな家族型ロボットを開発・発表し、注目を浴びています。そもそも林さんが、ロボット開発に関心を向けたきっかけは?

林要(以下、林):テクノロジーは、小さい頃からずっと好きでした。テクノロジーの進歩は文明の発展を促したけれど、結局それで人類が本当に幸せになったのかといえば、そこはやきもきさせる部分が残りますよね。たとえば、僕は子どもの頃から、宮崎駿さんのアニメが大好きでしたが、それらにも文明の進歩に対する懐疑的な見方がしっかりと描かれていました。

コンピュータや携帯端末などが普及するつれ、ゆったりとした昔の時間の流れを懐かしむ声も増えてきました。でも、従来の新製品に求められていたのは、早くて、安くて、便利で、簡単に壊れないもの。みんながそれらを欲しがったため、その開発にも需要があった。たしかにそれらが完成して普及すれば、何らかの生産性の向上にはつながるけれど、それで本当に人が幸福になったのでしょうか?

たとえば僕がかつて自動車会社にいた頃、最新型の自動車は、必ずしも一番愛される自動車ではなくなっていました。それでもなお、新型自動車の開発事業はなくなりません。それはオーディオにしても家具にしても同様です。

だけど、よくよく考えると、テクノロジーの進歩が問題なのではなくて、その使い方が問題なのでは? つまり「このテクノロジーをさらに発達させて、どれだけ儲けられるか」を原動力に、さらなる技術開発を進めた結果、新製品が魅力的ではない世の中になってしまったわけでしょう。

テクノロジーの進歩ではなく、その使い方に問題がある

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——では、林さんが考える、オーバースペック気味の新製品開発よりも、より有効なテクノロジーの使い方とは、何でしょうか?

林:それが、人間のパートナーの立場にいる「ペットの製品化」なのです。

“パートナーの立場”とはどういうことかというと……今から50年前の暮らしを思い出してみましょう。ペットって、家の中にはいなかったですよね。犬ならば、家の外の犬小屋で飼うのが当然。ばかりか、ペットと子供が等価に愛され、同じ布団で寝るようなこともなかった。だけど今や、マンションの室内でみなさん犬や猫を飼われているし、ペットは子供と同列に扱われ、すっかり「家族」の一員になっています

おそらく文明の進歩に伴って効率化・合理化したライフスタイルと、人が本来備えている本能とのギャップが、かつてないほど広がってしまったのでしょう。それを埋め合わせる意味で、ペットが「新しい家族」として迎えられているわけです。

——テクノロジーによる文明の進歩が人の心に隙間を作り、それを他の生き物で埋めようとしている。興味深い構図ですね。

林:じゃあそのギャップを、テクノロジーで埋め合わせることはできないだろうか? それが実現すれば「テクノロジーが人を幸せにできる」ことが証明できますからね。

かつては「技術で生産性を向上させる」方向が求められていたけれど、そうではない方向に技術が進展する余地もある。その一例として、家族型ロボットの開発を思いついたわけです。

LOVOT ブランドムービー(Youtubeより)

母性をくすぐるロボットが生まれたわけ

――ペットとしての家族型ロボットといえば、かつてイヌ型のロボットが話題を呼んだこともありましたが、それら先行機とLOVOTの違いとは何でしょうか?

林:イヌ型ロボットの設計思想の根幹は「犬を模したものを機械で作る」トライアルだと思います。かたや僕らは、なにかを模そうとしているわけではなくて「どうしたら人に愛着を持ってもらえる装置ができるか」が、課題の中心でした。

そもそも「愛着」って、何のために発達してきた機能なのでしょう? 進歩におけるどこかの過程で出てきた愛着という機能は、種の生存のために必要だったはず。おそらく昆虫や爬虫類等には愛着という感情はあまりなさそうで、哺乳類であることが、愛着と密接に関係しているようです。

哺乳類ってとてもユニークな生き物で、10年近くにも渡る長い子育てをします。他の動物だと、子育てをやっても数年だったり、まったくやらない動物もいます。しかし、哺乳類のように大器晩成型の種にしたほうが、複雑な自然環境を生き抜くには有利だという判断があったのでしょう。その究極の姿が人類だとも言えます。

どうしたら、人に愛着を持ってもらえる装置ができる?

——たしかに愛着がわかなかったら、大変な子育てを最後までやりとげられないかもしれませんね。

林:ところが哺乳類は、子育てをやる種しか生き残ってこなかった。つまり、私たちにはある程度の子育ての本能(愛着形成)が、あらかじめ備わっているわけです。

そうした母性本能が強い人たちにとっては、誰にも頼られずに「役割をこなす」だけだったり「生産性の向上」みたいな使命感のみで生きるだけでは満たされず、完全に幸福な状態とは言いがたいのです。いわば自分以外の「誰か/何か」を愛することによって充足する部分が、現代社会ではどんどん損なわれています。

昔は地域コミュニティがあって、隣の家の子どもを可愛がってもかまわなかった。そうすると、たとえ自分たちには子供がいなくても、母性を発揮する機会が得られたわけです。ところが今や安全保障やプライバシーの問題から、そこらへんにいる子供を勝手に可愛がろうものなら通報される世の中です。そうすると、幸せの半分が抜け落ちてしまう。そこをどう補完するかで必要とされているのが、現代のペットブームなのかと思っています。

LOVOTならペットロスが生じない?

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——そこで生身のペットではなくて、LOVOTが必要とされる理由は?

林:生身のペットはかわいい一方、生き物を飼うのには相当な責任が発生します。自分のライフスタイルのある程度をそれに集中させるという意思決定は重たいですし、途中で放棄すれば死んでしまう。

もうひとつの重大事が「セカンドペット問題」です。あるペットを飼って老衰で死なれたあと、その子を生前に愛しすぎたあまり、失った際のダメージが深すぎて二代目を飼えないというケースです。

ペットの平均的寿命は人間の約5〜6分の1程度なので、単純計算でも5〜6倍は死に目にあわなければならない。それは相当つらい体験でしょう。だけどLOVOTならば、そこは解消できるかもしれないのです。<中編へ続く>

聞き手/MASHING UP編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

MASHING UP編集部

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