女性活躍、ワークライフバランス、ダイバーシティなどをテーマに精力的に取材し、発信するジャーナリストの白河桃子さん。「働く女性のこれから」についてお話を伺いました。
白河桃子さん
少子化ジャーナリスト、 作家、 相模女子大、昭和女子大客員教授、 内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。慶応義塾大文学部社会学専攻卒。住友商事、リーマンブラザースなどを経る。2008年、山田昌弘氏との共著「婚活時代」(ディスカバー社)で、婚活ブームの火付け役になる。執筆、テレビ、講演会など幅広く活躍中。近著に「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」。
ジェンダー平等のためには、文化や風土を変えないと
——グローバルレベルで、男女平等は、今のペースでいくと達成するのには200年以上かかるともいわれています。7世代……徐々に改善されてきたとはいえ、ジェンダー平等には長い道のりです。
白河桃子さん(以下、白河):進まない理由のひとつに、意思決定層に女性がいないことが挙げられます。一定数の女性が入るクオーター制を導入すれば、ジェンダー平等は進みます。
——社会に根強く存在する性別役割分担の意識についてはいかがでしょうか?
白河:女性の足かせになっていますよね。長い時間がかかるけれど、文化の変化が必要です。そのためには、マスコミのジェンダー平等が進まないと。ジェンダー平等が進んでいるスウェーデンの人に言われたんですよ。「税制や制度は政府がつくれる。でも文化や風土はつくれない。それはメディアの仕事でしょ」って。ぐさっときましたね。
——白河さんの著書『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』(PHP新書)の中で紹介されていたお話が印象的でした。アニメの影響を受けた息子さんに、「将来は家事をお嫁さんにやってもらう」と言われて愕然としたというキャリアウーマンのエピソードです。
白河:驚きますよね。でもいまだに日本のアニメの中に登場するお母さんは専業主婦が多い。せめて、仕事に行く背中を見せるお母さんや、お父さんが家事や育児をする姿を映してほしいです。
女性はロールモデルがいれば変化する
——男性の家事・育児参加は、たとえ本人にやる気があっても、現実には会社や上司の理解が得られず難しいということもあると思います。
白河:各企業が本気で取り組む気があるかどうかです。男の人は、上が変われば素直に変わりますから。あと、世代による違いもあるのかな。この前、あるITベンチャー企業に取材に行ったとき、育休を取ったという40代の男性社長にあっさりと言われたんです。「だって、僕らの世代は家庭が優先でしょ」って。
——若い世代は男の人の意識が変わってきているんですね。白河さんは、相模女子大の客員教授でもいらっしゃいます。今の女子大生は、働くことについてどう考えているのでしょうか?
白河:バブル世代で専業主婦からパート主婦になった人の娘たちです。彼女たちにとって仕事はしなければいけないもの。働くことがデフォルトで、結婚して専業主婦になれたらラッキーという感じかな。でも、女性は周りの環境に左右されるから、年齢の近い、生き生きと両立するロールモデルが身近にいれば違ってくるはずです。私は、女性の働く意欲が特に低いとは思いません。男性が世の中を動かしている現実を見ると、ここで戦うのは大変だと感じてしまうのでしょう。
柔軟な働き方に潜むリソース泥棒
——会社の制度が整っていないと、出産などのブランクがあったあとに女性が働き続けることはしんどいですよね。ある程度体力のある大企業じゃないと、働き方を整えるのは難しいでしょうか。
白河:小さい会社でも、上層部に理解がある会社は働き方を柔軟にしています。優秀な人を集めたいし、女性は貴重な戦力ですから。そもそも、男性の長時間労働がデフォルトになっているから、他の働き方がイレギュラーになってしまうんです。
ある調査によると、女性営業職の人数は、勤続10年で10分の1にまで減ってしまうとか。ヒアリングしてみると、仕事は好きだし続けたいと思っているけれど、長時間労働がネック。まずはこの固定観念をぶち壊さないとね。
——リモートワークやフリーアドレスの会社も増えてきました。
白河:仕事がしやすいのは良いことですが、リモートワークができる妻に、「じゃあ、家事も育児もひとりでできるよね」って夫が甘えてしまうケースがあります。これでは、夫の会社はリソース泥棒ですよ。妻の会社の上司が夫の会社に乗り込んで、彼女の会社での重要性を説明して、夫にも家事と育児に関わるよう説得してもいいくらいです。
——リソース泥棒ですか……。深刻な問題ですね。
白河:女性が活躍するには、男性の働き方を変える必要があります。今までは、女性だけがライフイベントによって働き方を見直していました。でも本来はこれは男性にも欠かせないこと。これからは男性も、定年まで突っ走るだけの仕事人生ではなく、ライフイベントを機に仕事と生き方をじっくり考えてほしいですね。
職場での「常識」、ホントにそうですか?
新しい時代に見合わない考え方は、まもなく幕を閉じる平成とともにサヨナラしていくとしましょう。 平成に置いていきたい職場の古い「ジョーシキ」、白河先生がぶった斬ります。
平成に置いていきたいジョーシキ①
「リーダーって男性の方が向いているんじゃない? 」
リーダーは男女どちらも向いています。むしろ、ダイバーシティマネジメントに向いているのは子どものいる人。色々な人のケースを思いやることができますから。「俺についてこい」というタイプのリーダー像は古いですね。
平成に置いていきたいジョーシキ②
「子育て中の女性には、海外出張は負担だろう」
まあ、そう決めつけず、一度は聞いてみてくださいなと。選抜の段階ごとにかかるささやかなバイアスによって、昇進に差が出ます。この積み重ねが、結果的に女性のキャリアを閉ざすことになります。
平成に置いていきたいジョーシキ③
「男性ならいくらでも残業できるよね」
男性にも女性にも様々な事情がありますので、労働時間で評価するのではなく、「一定枠の中で競いましょう」という評価基準に改善することが必要です。
平成に置いていきたいジョーシキ④
「子どもが熱を出したら女親が対応すべき!」
子育ては女性の役目という考えではなく、お互いが責任を持つことが大事です。それには、カップルで納得がいくように話し合うしかないですね。
平成に置いていきたいジョーシキ⑤
「セクハラは笑って耐えてこそ一人前」
昨年(2018年)4月に、財務省の事務次官がセクハラで辞任して、この手の話は過去のものになりました。仕事ができても、セクハラは容認されなくなったということです。女性は声をあげやすくなったのではないでしょうか。
平成に置いていきたいジョーシキ⑥
「会議では、女性が“女子力”を発揮してお茶出しを」
誰がやってもいいと思います。「お茶を出す=女子力」ではないですから。会議で女性がするべきことは、臆せず自分の意見を言うことです。勇気がいるけれどね。女性を含めた様々な視点が入ることが、多様性の強みです。
平成に置いていきたいジョーシキ⑦
「女性活躍推進をしても売り上げが伸びないのでは?」
短期ではなく長期の投資には女性の取締役がいる会社が選ばれます。女性の管理職を30年登用すれば、必ず結果が出ます。短期的な売り上げではなく、長期の持続可能な社会に向けてダイバーシティマネージメントは作用するものです。
平成に置いていきたいジョーシキ⑧
「女性を優遇したら、優秀でない女性が昇進してしまうのでは?」
心配ご無用。まず、上司は皆優秀でしょうか? もし仮に優秀じゃない女性が上に立ったとしても、優秀じゃない女性が優秀じゃない男性に取って代わるだけです。
働き方を変えるために、Reshapeすべきは? → 暮らし方!
女性の社会進出と、男性の家庭進出は同時に考えなければいけません。いくら会社が制度を整えても、家庭内が平等にならないと女性活躍は実現できない。意識づくりのために、男性育休の義務化に取り組んでいきたいですね。
取材・文/土田ゆかり、撮影/柳原久子

Tag
イベント
おすすめ
JOIN US
MASHING UP会員になると
Mail Magazine
新着記事をお届けするほか、
会員限定のイベント割引チケットのご案内も。
Well-being Forum
DE&I、ESGの動向をキャッチアップできるオリジナル動画コンテンツ、
オンラインサロン・セミナーなど、様々な学びの場を提供します。